第8章 鈴木の用途


 若返りの薬など知らないと突っぱねてもよかったのだけど、鈴木は役に立つ男だし、二宮グループ内で権力を取り戻すには必要な人材だと判断して、身分を明かしたのだ。
 「え? 鈴木も若返るの?」
 「はい、そうしないと来年は定年退職になってしまいますので」
 「鈴木は64だったわね? 鈴木、老け顔だから50くらいにしかならないわね」
 「今よりましでございますので」
 郷一郎はクスッと笑った。
 「2回打ったらどう? 30前くらいになれるんじゃないの?」
 「わたくしも女になれと?」
 「あら? 知ってたの? 2回打つと女になってしまうこと」
 「薬を買ったときに聞きました。で、映見様が会長だと確信したわけでして」
 「50歳だとグループに戻るのは無理ね。2回打ちなさい。女になってわたし付きのメイドになるといいわ」
 「女ですか・・・」
 鈴木は躊躇っていた。その気がまったくない男は、やはり女になることには抵抗があるのだ。
 「女も結構いいものよ」
 そう言う映見(郷一郎)に見つめられると鈴木は何も言えず、わかりましたと答えた。

 鈴木は映見(郷一郎)に提供された100万を持って、薬を買いに出かけていった。
 「下手をすると15くらいになってしまうけど、いいんですか?」
 「構いません。お願いします」
 15歳はあんまりだけど、どうせ女になるのなら、30くらいではなく、20歳前半になれたらいいなと鈴木は考えていた。
 2回に分けて打つ必要はないと言うことで、鈴木は自宅マンションで一度に注射して若返りを待った。鈴木には妻も子どももいない。だから、若返りに何の支障もなかったのだ。
 ただ、若い頃結婚はしたことがあった。けれど、仕事にかまけていて妻に浮気されて離婚になったのだ。それ以来、独身を貫き、郷一郎に仕えてきた。
 (会長がまだ男のままだったら、女になって抱かれていたかも)
 鈴木は虐げられてはいたけれど、根本では郷一郎のことが好きで、可能ならばと考えたこともあったのだった。だから、郷一郎の無理難題にも応えてきたのだった。

 秘書長の鈴木が突然退職したと聞き、巧は少なからず驚いていた。
 (来年定年だから? 鈴木は長く我が社に貢献してきた人物だし、わたしがここまでやれたのは鈴木のお陰だ。定年だからと言って首を切ったりはしないんだが・・・)
 巧はそう考えていたけれど、井上常務は違った。井上にしてみれば、鈴木は目の上のたんこぶだったから、退職は大歓迎だったのだ。

 郷一郎の娘・裕美となっている映見は、早苗の屋敷で暮らしていた。二宮女子学園に合格し、有名デザイナーの手による制服に身を包んで高校生活を出発させていた。
 「なに? まるで中坊じゃないの」
 郷一郎の血を引くこともあって体格的には回りとそれほど変わらないのだけれど、顔はかなり幼かった。裕美の戸籍を使っていなかったら、確かに中学生でよかったのかもしれない。
 二宮女子学園は中高一貫校で、高校から編入してくる生徒は1割程度だった。だから、編入した生徒は浮いていることが多かった。裕美(映見)もその例外ではなかった。
 他の生徒たちの会話の輪の中に入れて貰えなかったり、昼食もひとりぼっちになっていた。机の中に蛇のレプリカを入られてたりもした。
 しかし、本来は35歳である裕美(映見)はそんなことに動揺することはなかった。自分の考えを貫き、簡単には他人に迎合しなかった。これまでたったひとりで生きてきたからであった。
 やがて裕美(映見)はみんなに一目置かれるようになっていった。回りに気を配り、どんな相手に対しても適切な対応をするために、やがて生徒会長になっていくのだった。こんなところは、郷一郎の血を引いているからかもしれない。

 映見(郷一郎)は、村上達夫の妻として家事に励む一方、達夫の仕事の補助もやっていた。いや、補助と言うよりも達夫の仕事を陰で動かしていた。
 「結婚してから村上の仕事ぶりが上がったな」
 「妻の内助の功とでも言うんでしょうか?」
 「そう、そのとおりだ」
 村上の活躍が映見(郷一郎)のお陰だとは誰も気づかなかった。村上のグループ内での評価は徐々に上がっていった。

 達夫の方は自分の成績向上は妻のお陰だと言うことがわかっていた。ただ、妻のお陰だと公表すれば自分の評価が下がると考えて黙っていた。
 もちろん自宅では妻にはいつも感謝していた。
 「映見のお陰で出世街道ひた走りだよ。おまえと結婚して本当によかった」
 そう言うと、わたしじゃなくてあなたの能力よと映見(郷一郎)は答え、決して前面に出ようとはしなかった。
 (わたしが前に出るのはもう少し達夫が出世してからよ)
 それに映見(郷一郎)には今すぐ前面になようにも出られない事情があった。妊娠していたからだ。
 新婚旅行から戻って2ヶ月目、むかつきを生じた。とくに飯の炊ける匂いが鼻につくようになっていた。
 映見(郷一郎)自身、女になっていることは自覚していたものの、妊娠するなんてことを考えたことがなかった。だから、胃腸科のクリニックを訪れた。
 「吐き気ですか。結婚されてますよね?」
 映見(郷一郎)のしている指輪を確認してから、最後の生理はいつでしたかと尋ねてきた。
 「生理・・・。結婚式の前、あってから・・・。先生、まさか妊娠ですか?」
 「それなりの性生活をしていれば、それをまず考えませんと」
 妊娠していなければ、胃内視鏡検査をしましょうと言われて、婦人科に回された。その足で婦人科受診し、尿検査の結果、妊娠していますねと簡単に言われた。
 「エコーで確かめてみましょう」
 婦人科診察台に乗せられて腟内エコーを突っ込まれた。
 「ここが子宮。底部に胎嚢が見えますね。拍動もはっきり確認できます。間違いなく妊娠ですね」
 その言葉に、映見(郷一郎)は改めて女になったことを確認したのだった。
 (子どもを産んで落ち着いたら、経営に参画しよう)
 そう考えていた。

 妊娠しているのにいいのかと達夫が心配げに言う。
 「大丈夫よ。これくらいで流産するようだったら、それなりの子どもだってことよ」
 映見(郷一郎)は達夫のペニスを舐めながら答えた。
 (フェラチオ、最高)
 男だったとき、映見(郷一郎)はフェラチオさせるのが好きだった。相手の女もフェラチオを楽しんでいるように思っていた。
 しかしながら調べてみると、フェラチオが好きな女性はそれほど多くはないと言うことだった。好きな男のためにいやいやながらやっていると言うのだ。
 (わたしの場合は、好きでやってるけどね)
 映見(郷一郎)の指の中でピクピクと震え、我慢汁を垂れ流すのが好きなのだ。我慢汁の味もいいと思っていた。
 「映見、出てしまうよ」
 ときどき飲んでやるのだけれど、今日は止めた。映見(郷一郎)は達夫の上に跨がって自分の中に導いた。
 「はあ・・・」
 貫かれるこの瞬間が映見(郷一郎)は好きだ。満たされていく感触がいいと思うのだ。そして、射精されたとき、感じて身体が燃え上がる。男だったときよりもずっといいと思っていた。

 まだ女にならないのと映見(郷一郎)は鈴木に尋ねた。
 《ただいま、ニュハーフ状態でございます。もうしばらくお待ち下さい》
 「どれくらい若返ったの?」
 《そうですね。30歳ほどでしょうか?》
 「じゃあ、もう少し若返りそうね」
 《あまり若返るとすぐにはメイドとして働くことができないかもしれませんが》
 「そうよね。せいぜい20歳くらいになるといいわね?」
 《わたくしもそう思っております》
 完全に女性にならなくても、若返りが止まり、衣服を着ていて女性に見えるようになったら、メイドとして雇い入れるつもりだった。
 (臨月あたりがちょうどいいんだけど)
 捕らぬ狸の胸算用は、映見(郷一郎)の強運で叶うことになった。

 妊娠8ヶ月目になった頃、女に変身した鈴木が映見(郷一郎)の前に姿を現したのだ。
 「家政婦協会の紹介で参りました。鈴木理香と申します。よろしくお願い致します」
 頭を下げる理香(鈴木)に、映見(郷一郎)は鈴木からは想像できない可愛い子になったなと思った。
 「理香ちゃん、お料理はできるの?」
 「はい、ある程度は」
 メイドとして映見(郷一郎)のそばにいるために、映見(郷一郎)に命じられて3ヶ月ほど前から料理教室に通っていたのだ。
 「それは結構ね。理香ちゃん、わたしが夫と寝なさいと命じたら、寝る?」
 理香(鈴木)は一瞬躊躇ったあと、奥様のご命令とあればと答えた。
 「若いあなたに夫が溺れたら困るから、そんなことは命じないけどね」
 そう言ってにやっと笑う映見(郷一郎)に、鈴木はかつての郷一郎そのものだなとむしろホッとしていた。
 理香(鈴木)は、その日から、メイドとして家事にいそしむこととなった。

 達夫が仕事から戻ってくるとエプロンをした若い女性がキッチンにいて料理を作っていた。
 「キミは?」
 「今日からメイドとして働くことになりました鈴木理香です。どうぞよろしくお願い致します」
 ぴょこんと頭を下げる理香(鈴木)に達夫は戸惑いながらよろしくと答えた。
 「家事がそろそろ大変になったから、家政婦協会に頼んで派遣して貰ったのよ」
 奥から出てきた映見(郷一郎)が達夫の頬にキスしながら言った。
 「そうか。いつまでだ?」
 「お産がすんで、子育てが一段落するまでよ」
 「1年くらい?」
 「それくらいになるかも」
 美人ではないが、こんな可愛らしい娘がいれば、楽しくなるなと達夫は考えていた。

 映見(郷一郎)は出産予定日の1週間前破水して、産婦人科へ入院した。高齢初産と言うことで、難産であった。
 「もういや! 子どもなんて二度と産まないわ」
 そう言ったけれど、沐浴から戻ってきた我が子を抱くと、苦しみはぱっと消えて母の顔になっていた。
 「映見、お疲れさん。よく頑張ったな」
 達夫が映見(郷一郎)に笑顔を向けてくる。
 「男の子が生まれてオヤジも喜んでいるよ」
 そんな言葉に映見(郷一郎)は違和感を覚えた。男だって女だって無事産まれればいいじゃないのと思ったのだ。
 しばらくして、鈴木(理香)がやってきた。
 「奥様、おめでとうございます。とても可愛らしい男の子ですね。さすが美男美女の子ども」
 「ありがとう。ところで、どうだった?」
 理香(鈴木)は少し小首を傾げてから、質問の意味がわかったようで答えた。
 「痛かったわ。すっごく」
 「最初はね。ちゃんと避妊はしてるでしょうね?」
 「もちろんですよ」
 理香(鈴木)はにっこりと笑った。鈴木の相手はもちろん達夫だ。妻の出産前後に不倫することが多いことは、映見(郷一郎)は身をもって経験している。
 達夫は大丈夫かなとは思ったけれど、男と言う生き物は信用できない。だから、方針変更して鈴木を宛がったのだ。達夫を他の女と不倫させないために。
 もちろん理香(鈴木)もふたつ返事で応じたわけではなかった。映見(郷一郎)の珍しく命令口調でないお願いに、渋々ながら応じたのだ。

 映見(郷一郎)が破水して入院となった日、理香(鈴木)は片付けを終えて入浴すると、ベッドに入って読書していた達夫の元に歩み寄っていった。
 「な、なんだ? どうしたんだ?」
 「旦那様、お寂しいでしょう? わたしが奥様の代わりに」
 「冗談はよしてくれ」
 「わたしが嫌いなのですか?」
 「あ、いや・・・」
 ネグリジェ姿の理香(鈴木)に達夫は欲情していた。
 「わたし、初めて旦那様にお目に掛かったときから好きになっていたんです。どうかわたしの思いを汲んで下さい」
 抱きついていった理香(鈴木)を達夫は拒むことなどできなかった。理香(鈴木)を抱き寄せ唇を合わせてその身体の柔らかさを感じると、股間はこれ以上ないほど硬くなっていた。
 「すごい。男の人ってこんなになるのね?」
 わかっているけれど、処女を演じるために理香(鈴木)はそう囁いた。
 「したことはないけど、あのう、フェラチオをやらせて下さい」
 「いいのか?」
 「下手くそでも我慢して下さいね」
 達夫の穿いていたパジャマとパンツを下ろしてやると、以前鈴木にあったものより少し大きめのものが飛び出てきた。
 舌で亀頭やシャフトを舐め回す。口の中に入れて唇でシャフトを擦りあげる。それを繰り返していると少し塩っぱいものが出てきた。理香(鈴木)はそれを舐め取り、さらに舌や唇を使った。
 「理香、それ以上やったら出てしまう」
 そう言われて理香(鈴木)は達夫から離れた。
 「コンドーム、した方がいいですよね?」
 「もちろんだよ」
 達夫としては中出ししたいところだけれど、妊娠させたらとんでもないことになることくらいはわかっていた。だから、枕元の小箱に入っていたコンドームを取り出すと手早く装着した。
 「ホントにいいんだね?」
 理香(鈴木)はにっこりと笑って、返事に代えた。達夫に耳たぶや首筋を舐められ、Aカップの小さな乳房を揉まれ、乳首を舐められ咬まれていると、理香(鈴木)は身体が熱くなり濡れてくるのを感じた。
 (女は愛撫されるとこうなるんだ。貫かれるとどうなるんだろう?)
 期待と不安混じりに鈴木は小さく喘いでいた。やがて、達夫のペニスが理香(鈴木)の腟口に宛がわれた。
 (会長、初めての時はすごく痛かったって言っていたけど・・・)
 入ってきた。覚悟していたからか、痛みはあったけれど、それほどでもなかった。
 「嬉しい。旦那様とこうなれて」
 映見(郷一郎)に命じられて抱かれていることを隠すために、理香(鈴木)はそう言って達夫に唇を寄せた。
 達夫が腰を打ち付けてくる。少し痛むけれど、耐えられないほどではなかった。体位を変えるつもりはないようだなと理香(鈴木)は思いながら、ときどき襲ってくる快感のようなものに身を委ねていた。
 「ああ、理香、行くよ」
 呻くように達夫が言い、腰を押しつけてきた。理香(鈴木)は骨盤の奥で達夫のペニスが跳ねるのを感じた。達夫が腰を押しつけるたびにそれを感じ、3度目、理香(鈴木)の意識はふうっとなくなっていた。
 達夫の体重を感じて理香(鈴木)は意識を取り戻した。
 「旦那様、ありがとう。嬉しいです」
 そう言って、理香(鈴木)は何度も達夫にキスした。
 「本当によかったのかな?」
 「わたしが望んだんですから、旦那様が気に病むことはありません」
 「映見に知れたら・・・」
 「奥様は心が広い方ですから、大丈夫ですよ」
 達夫が抜け出ていく。もっといて欲しいと思い、身体だけじゃなくて心も女になったみたいだなと理香(鈴木)は考えていた。
 「あれ? 血が・・・」
 達夫が驚いて理香(鈴木)の顔を見た。
 「処女だったのか?」
 「この年まで処女だなんて、可笑しいでしょう?」
 「いや、いや。処女だったのか・・・」
 心の中でまずいことをしたなと達夫が考えているのが、理香(鈴木)にはわかった。

 それから映見(郷一郎)が戻ってくるまでの間、理香(鈴木)は毎晩達夫を誘って抱かれた。映見(郷一郎)が女もいいものよと言った意味がよくわかった。

 映見(郷一郎)が赤ん坊を抱いてマンションに戻ってきた。その表情から、映見(郷一郎)は本物の女になったなと理香(鈴木)は感じていた。
 赤ん坊に乳を与えている様子を見て、わたしも子どもを産みたいと映見(鈴木)は考えていた。できれば、処女を捧げた達夫の子どもをと。



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