第4章 始まった若返り


 若返りの注射をした2日後の10時前、郷一郎は映見のマンションを訪れた。
 「あら? 一郎さん、いらっしゃい、どうぞ」
 薄いネグリジェ姿で出迎えて映見の郷一郎は少しどぎまぎしながら、部屋に入った。
 「若返りの薬、手に入りました?」
 「お陰さまで」
 「もう打ったの?」
 「もちろん、すぐに打ったよ」
 映見は郷一郎にコーヒーの入ったカップを差し出した。
 「わたし、いつもブラックなの。郷一郎さんは?」
 「わ、俺もブラックだよ」
 儂と言いかけて、その言葉を飲み込んで俺と言い直した。映見の着ているネグリジェは薄いけれど胸のあたりにはレースが入っていて透けては見えないけれど、ノーブラなのはわかった。真っ赤なショーツは透けて見えていた。
 「まだ、変わらないみたいね?」
 「2日目だからね。効果が出るのは早くても明日か明後日だろうね」
 「一郎さん、55歳って言ったわよね? 20歳若返ると35歳ね」
 そう言って映見はクスッと笑った。郷一郎が首を少し傾げると、わたしとちょうどいい年齢になるじゃないのと答えた。
 「ふたつ違いってちょうどいいと思わない?」
 「ふたつ違い? てことは33だと言うことか? 20代後半か、ぎりぎり30くらいかなと思ってたんだが?」
 「ありがとう。頭がパーだから、若く見えるんだ」
 「そんなことはないと思うけどな」
 映見はうふっと笑い、時間はあるのと尋ねてきた。
 「今日は休みを取ったんだ」
 「わたしに会うために?」
 そうだと答えると、嬉しいと言って映見は郷一郎に抱きついてきた。
 「一昨日で終わりだと思っていたの。会いに来てくれてホント嬉しいわ」
 唇を重ねてきた映見に、そう言う理由できたんじゃないと考えながらも、若い映見の身体に郷一郎のペニスが反応していた。

 昼までに2回も射精して、郷一郎も映見も満足していた。
 「20歳若返ったら、もっとわたしを可愛がってくれるわよね?」
 「もちろんだよ」
 郷一郎には目的がある。二宮グループを自身の手に取り戻すことだ。将来的には映見は邪魔になるかもしれないけれど、今はこの素晴らしい身体を堪能しようと考えていた。
 「もうお昼ね。何か作るから」
 そう言って映見はベッドを抜け出して、裸にエプロンを着けて料理を始めた。郷一郎にとって、裸エプロンと言うのは初めての経験だ。
 (いい臀をしているな)
 映見のヒップを見ながらそう思っていた。
 「あ、そうだ。忘れるところだった」
 脱ぎ捨てたスーツの中から封筒を取り出す。
 「何なの?」
 「一昨日借りた金だよ」
 銀行から一度に下ろせるのは50万、日を改めることもできたのだが、映見が貸してくれると言うので、その言葉に甘えたのだ。
 「返さなくてもいいのに」
 「そう言うわけにはいかないよ。金銭のいざこざは後々問題になるからね」
 これは郷一郎の経験から来るものだ。借金、特に個人的な借金は可能な限り作らないことにしているのだ。
 「こんなものでごめんね」
 うどんに卵を落としたものを差し出してきた。郷一郎はうどんはあまり好きではないけれど、せっかく作ってくれたものだ。美味そうだと言い、箸を取った。
 「あら? 100万入ってるじゃないの」
 「利息だよ」
 「こんなにいらないわよ」
 「いいから、取っておけよ。金はいくらあっても困るものじゃない」
 「じゃあ、遠慮なくいただいておくわ」
 向かい合ってうどんを食べた。味は悪くないと郷一郎は思った。

 翌日仕事に出ると、社長の大塚が髪を染めたのかと郷一郎に言った。
 「軽くですね」
 そう答えながら、若返りが始まったんだと感じた。確かに今朝起きたとき、枕に白髪がかなりついていた。白髪が抜けて、相対的に黒くなっていたのだ。
 (若返りを知られると拙いな)
 そう考えた郷一郎は、その日の仕事を終えると貴重品だけを持って映見の住むマンションへ向かった。

 出てきた映見はすでに出かける準備をしていた。
 「すまない。若返ると今いる会社に勤められないなるものだから、もし迷惑でなかったら」
 そこまで聞くと笑みは、大歓迎よと言って郷一郎を部屋に招き入れた。
 「本当は、昨日も帰らないでって言おうと思ってたの。ずっと一緒にいられるなんて嬉しい限りだわ」
 「すまないね」
 「いいのよ」
 映見は時計を見上げ、遅れると悪いからを言って部屋の鍵を郷一郎に手渡すと出かけていった。
 (別れられなくなった困るが、今は仕方がない)
 映見の後ろ姿を見ながら、今後の計画を巡らせていた。

 午前2時過ぎ、戻ってきた映見と一戦交えた。映見はかなり酔っていたけれど、嬉しそうに郷一郎のペニスをしゃぶった。そして、郷一郎に貫かれて喘ぎまくり、身体を痙攀させた。
 眠ってしまった映見を見ながら、男だったらこんなに酔ってしまったらできなくなるのになと思った。

 午前8時、先に起き出した郷一郎は、炊飯器にスイッチを入れて、味噌汁を作り、ハムエッグを焼いた。白菜の漬け物も切って皿に盛った。
 以前の郷一郎だったら、こんなことはしないし、できなかった。刑務所を出てひとり暮らしをしていたから覚えたのだ。
 「ええっ! 朝ご飯を作ってくれたの?」
 「ああ、昨日のうちに材料を買い込んできたんだ」
 「すごい、美味しそう」
 いつものネグリジェ姿で郷一郎の作った朝食を食べ始めた。
 「どうした? まずいのか?」
 箸が止まった映見に郷一郎が尋ねる。
 「母ちゃんが作ったみそ汁の味がして」
 そう言って涙を流した。
 「おふくろさんは健在なのか?」
 そう尋ねると映見は首を横に振った。
 「わたしが五つの時、死んじゃったの」
 「死んだのか?」
 「施設に預けられて施設で育ったの」
 明るい子なのにそんな過去があったのかと郷一郎は思った。
 「お父さんは?」
 「いない」
 「いない? どうして?」
 「母ちゃんが妊娠したのを知って母ちゃんを捨てたって」
 ひどい男だと言いながら、かつての郷一郎もそんな過去があったなと思った。
 「もしわたしが妊娠しても、捨てないでね」
 この状況では、捨てないよとしか答えられなかった。
 「ところで、少し若返った感じなんだけど、どうなの?」
 「ああ、確かに。若返ったような気がする」
 顔の染みが薄くなり、張りが出てきたように思えるのだ。それに髪の毛も相対的ではなく、絶対数が増えたようだ。
 何だか嬉しくなる郷一郎であった。

 炊事だけではなく、掃除も洗濯も郷一郎は買って出た。
 「家賃代わりだからな」
 「真面目なひとって大好き」
 映見に言われると面はゆくなる。これまで郷一郎がそんな人間ではなかったのだから。
 (若返るだけではなく、性格まで変えるんだろうか?)
 そんなことを考えながら、かなり派手な映見の下着を物干しに干した。
 (小さいなあ。これが入るなんて信じられない)
 男物は見ただけで体格がわかる。けれど、女性用はかなり伸びるので想像できない。
 「買い物、行ってくるわ」
 「行ってらっしゃい」
 「何か好きなものは?」
 「何でもいいよ」
 何でもいいよは困るんだけどなと言いながら、映見は買い物に出かけていった。買い物に限らず、郷一郎は外へは出ない。洗濯物を干すときにも誰にも見られないように気をつけている。若返りを他人に知られないためだ。

 郷一郎を大塚製作所に就職斡旋したあとも巧に依頼されて鈴木は郷一郎の動向を監視していた。ただ、毎日一日中と言うわけにはいかず、週に2回ほどの監視に止まっていた。
 郷一郎がパブに飲みに行ったときにも尾行していたのだけれど、パブのホステスとモーテルに入ったところで尾行を止めて帰宅していた。
 そう言うことだから、その翌日、郷一郎が若返りの薬を手に入れたことなど思いも寄らなかった。
 「え? 仕事に出てこない?」
 大塚製作所の社長から連絡が入り、鈴木はすぐに郷一郎が住んでいるアパートを訪れた。普段は郷一郎の前には姿を見せないようにしているのだが、病気でもして倒れているのではないかと心配になったのだ。そこはさすがに元は郷一郎に仕えた鈴木だったから、現在の立場など忘れてそう言う行動に出たのだ。
 「どこへ消えたんだろう?」
 鈴木には想像がつかなかった。鈴木はすぐに郷一郎の行方がわからなくなったと巧に報告した。その報告を受けたけれど、巧は実害はないだろうと考えて放置することに決めた。
 (アイデンティティーがないのだ。そのうち助けを求めてくるか、のたれ死にするしかないだろう)
 そう考えていた。

 映見のマンションに郷一郎が隠れ住んでいることなど、マンションの誰も気づかなかった。郷一郎はそれだけ注意していたからだ。
 映見がいなければテレビもラジオも付けないし、テレビを付けたとしても消音にしていて、映見に買ってきて貰った小説などを読んで過ごしていた。
 スパイ映画のように映見の部屋から出されるゴミがこのところ多くなっていることを知れば、映見がひとりで暮らしているのではないことに気づいただろうけれど、そんなことに気を遣う人間などいなかったのだ。

 少し痩せたんじゃないの?と風呂上がりの郷一郎を見て映見が言った。
 「若返って中年太りがだいぶよくなったんだよ」
 腹を叩きながら郷一郎は答えた。
 「ストレッチもやってるしね」
 毎日退屈しのぎも兼ねて腕立てや腹筋運動、スクワッドをやっていたのだ。
 「髪の毛が伸びたね。そろそろ散髪に行かないと、かまっぽっく見えちゃうわ」
 「外出するのは、若返りが完全に収まってからだな。それまでは散髪に行けないな」
 そう答えながら、鏡を見た郷一郎は、確かにこれではおかまだなと思っていた。

 映見はフェラチオしながら、少し小さくなったんじゃないかなと思っていた。根元まで飲み込めなかったのに、最近は根元まで飲み込めるようになっていたからだ。
 (睾丸も少し小さくなったような気がするけど、勃起力は変わらないからいいな)
 郷一郎に跨がり受け入れた。
 「ああ、いい。一郎さん、最高よ」
 腰を上下させながら、やっぱりおかまっぽいなと思った。
 (いい男だから、若くなると女性ぽっくなるのかも)
 そう考えていた。

 若返りの薬を注射してからひと月がたった。若返りは少しずつ進んでいる。
 (若い頃、こんなに可愛い顔だったかな?)
 もっと精悍な顔つきだったような気がすると郷一郎は鏡を見ながら感じていた。
 (髭が伸びないせいか?)
 以前は毎日のように髭剃りをしていたのに、このひと月髭剃りをした記憶がない。めんどくさくなくていいなと思っていた。
 (ズボンの裾が床に付くようになっている。どう言うことだ? 足が短くなったのか? ・・・身長が縮んだ?)
 さっそく身長を測ってみた。180あった身長が175になっていた。若くなって身長が縮むはずがないと思った。
 それに、ストレッチしているのに筋肉は一向に付かない。むしろ筋肉が落ちてきている印象だ。
 (かまっぽい?)
 確かにそう見える。どうしてだろうと考えながら、シャワーを浴びようと着ているものを脱いだ。
 バスルームに入ろうとして鏡に映った自分の横の姿に目を見開いた。
 (胸がある!)
 見下げたときには気づかなかったけれど、横から見ると胸が少し膨らんでいるのがはっきりと見て取れた。
 両手を胸に当ててみると、間違いなく膨らんでいるのがわかった。
 (おかまっぽい顔、筋肉が付かない身体、膨らんでいる胸、まさか・・・)
 若返っているだけでは説明ができなかった。郷一郎は、シャワーを浴びるのを止めて服を着込み、若返りの薬を売っている男に空メールを送った。
 なかなか返事が来ない。返事が来たのは、メールを打ってから1時間ほどたった頃だった。
 『何か問題でも起こりましたか?』
 若返りは始まったけれど、女性っぽくなっていると打って返信した。すると、電話を掛けますと返事が来た。
 すぐに携帯が鳴った。非通知だったけれど、あの男しかあり得ない。すぐに受話ボタンを押した。
 「もしもし、郷田です」
 《若返りは始まったけれど、女性っぽくなったと?》
 淡々と尋ねてくる。
 「その通りなんです。どう言うことでしょうか?」
 《先日薬をお売りしたとき、薬を使うのは初めてかどうか伺いましたよね》
 「あ、はい」
 少し躊躇いながら答えた。
 《初めてだとお答えになりましたが、実は初めてじゃないんですね?》
 「5年ほど前、一度使ったことがあります」
 《なるほど。それが原因ですね》
 「一度使ったことがあるとどうなるんでしょうか?」
 《性転換が起こって、あなたの場合、女性になります》
 「な、何だって! 女になるって言うのか?」
 《その通りです。あの薬を二度使うと性転換してしまうんです》
 「何故そのことを言わなかったんだ!」
 言葉遣いが荒くなっていることに郷一郎は気づかなかったけれど、それも仕方がないことだったかもしれない。
 《薬を使うのは最初ですよねと念を押しましたよ。2度目だと答えれば、性転換することを説明していました》
 そう言う意味だとは想像できなかった。
 「完全に女になってしまうのか?」
 《はい、完全に女性になってしまいます。妊娠、出産も可能です》
 唖然として言葉が出なかった。
 《そもそもあの薬は2CCを使うと40-50歳若返って性転換してしまうものなのです。50歳前後の男が40-50歳も若返ったら赤ん坊になってしまうと考えて半分の1CCを使ったんですね。そうしたところ、20-25歳若返っただけで、性転換しなかったんです。ですから、1CCを若返りの薬として販売しているのですが、同じ男が10年後もう一度使ったところ若返ったばかりでなく性転換してしまったんです。ですので、2度目の方には、性転換も起こりますよと説明していたんですが・・・》
 男に悪気はないようだ。正直に2度目と答えなかった郷一郎が悪いのだと考え、何かあったらまた教えてくださいと伝えて携帯を切った。
 (あああ。女になってしまうのか)
 55歳の女じゃなくて、30歳くらいの女になるのが救いだと思った。

 仕事から戻ってきた映見にそのことを話すと、女になっちゃうのと寂しそうに郷一郎のペニスを握った。
 「いつまでできるかな?」
 そう言って映見は郷一郎のペニスを咥えた。こうしてフェラチオされ、映見を貫くことができるのはいつまでだろうと郷一郎の方も考えながら、映見の頭を抱えていた。



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