第10章 愛する人に処女を捧げて


 帰りの新幹線では、村田が大丈夫か、荷物を持とうとこれまで以上に優しくしてくれる。だいたい、根が優しいのだ。こんな男に見初められて幸せだと感じた。
 2週間ぶりにマンションに戻ってきた。
 「どうぞ、お姫様」
 ドアを開いておどけてみせる。
 「ただいま」
 中に入って唖然とした。
 「なに? この散らかしようは?」
 「すまん。片付ける暇がなくて」
 「わたしが初めてここに来たときはずいぶん綺麗だったのに?」
 「あの時はちょっと頑張って楓を迎えたんだが、一緒に暮らすようになって楓が何でもやってくれてたろう? その間に元のずぼらに戻ってしまったようだ」
 頭を掻く。
 「わたしがいないとダメなんだから」
 男はこれくらいがいい。あまり几帳面な男は困る。早速片付けに取りかかった。

 片付けに3時間近く掛かってしまった。夕食の時間だ。
 「どこかへ食べにいこう」
 村田が言う。
 「ずっと外食だったんでしょう? 今日からわたしが作ってあげる」
 「疲れてるだろう? 明日からでいいよ」
 「疲れてなんかいないから、あなたはテレビでも見て待ってて」
 村田をリビングに追いやって夕食を作った。もちろん冷蔵庫の中にはほとんど食材はなかったけれど、あるもので作った。
 「楓の作った飯は美味い」
 「嘘でも嬉しいな」
 「嘘なもんか。美味いものは美味いんだ」
 食べっぷりからすると本当に美味しいようだ。
 「あれ? クスリはそれだけか? 前は2種類飲んでいなかったか?」
 ホルモン剤を飲んでいたことは村田に内緒にしていたけれど、わたしの身体の変化に疑問を持った村田がわたしの飲んでいるホルモン剤を見つけたのだ。ただのビタミン剤だといういい訳は通じるはずもなく、ホルモン剤だと告白せざるを得なかった。
 そのときも村田は、ホルモン剤なんか飲むなとわたしに忠告したのだけれど、1年だけだからと反論して飲み続け、村田がガンで死ぬと言う話が嘘だとわかったあとも飲み続けていたのだ。
 「睾丸がなくなったから、男性ホルモンを抑えるクスリは必要なくなったし、女性ホルモンの効果も上がるから女性ホルモンの錠剤も小さくなったの」
 「なるほど。少ない方が副作用が出なくてすむな」
 最初に女性ホルモンを飲むなと言ったのは、副作用と心配してのことだったのだ。

 片付けを済ませると、ソファーに座ってテレビを見ている村田の横に座る。村田はわたしの顔を見てわたしの肩を抱いた。
 「本当にこれでよかったのかな?」
 「あなたが強要した訳じゃないわ。わたしが勝手にやったことよ。気に病まないで」
 わかったと言い、村田は唇を重ねてきた。わたしは村田の舌を吸った。今日も身体が蕩けた。
 村田がわたしの胸を揉む。わたしは村田のペニスをズボンの上から撫でた。
 「まだ使えないからお口でしてあげようか?」
 村田は嬉しそうに頷いた。ズボンとトランクスを下ろしてやる。嗅ぎなれた牡の匂いがした。
 はち切れんばかりになった村田のペニスを舐める。ぴくぴくと反応するのが面白い。わたしの行為で村田が喜びを感じていると思うと、嬉しくなって自ずと力が入る。
 口の中に収めて頭を振る。すぐに先走り汁が出てきた。
 「楓。それ以上やったら出てしまうぞ」
 これまで口内射精させたことはあったけれどそれほど多くはなかった。口内射精させると、その日はダメになってしまうからだ。今日はあとがないからわたしの口で受け取るつもりだ。
 「楓。も、もう、や、止めろよ」
 根本をしごきながら唇を窄めて吸い上げると村田のペニスが急速に膨らんできた。
 「だ、ダメだ。出てしまう」
 引こうとする腰を押さえつけて、射精させた。生臭く、ちょっとしょっぱい粘液がわたしの口の中に充満した。ゴクリと飲み込み、ペニスに付いたザーメンをすべて舐め取った。すごく美味しいと感じた。
 「飲んだのか? 楓」
 「うん、美味しかったわ」
 「そうか。そうか」
 村田は満面の笑みを浮かべてわたしを抱きしめた。人造腟が使えるようになるまで毎日でも飲んであげようと考えていた。
 「先にお風呂に入って」
 「ああ。フェラチオさせるんだったら、先に風呂に入ればよかったな」
 そう言いつつ、バスルームに消えた。先に入浴させなかったのには、ふたつの理由がある。ひとつは、汗まみれのペニスの方が美味しいからだ。もうひとつは、村田にあられもない姿を見られたくなかったからだ。つまり、腟拡張する姿を見られないためにバスルームへ追いやったのだ。
 村田がバスルームに消えるのを待って、バスタオルをベッドの上に敷いて腰を下ろした。拡張用のシリコン棒を取り出して、KYジェリーを塗り、腟口にもジェリーを塗ってからゆっくりと挿入した。
 (ああ、気持ちが悪い。早く村田とセックスできるようにならないかな? そしたらこんなことはしなくていいのに)
 その日が待ち遠しい。

 拡張用の道具を片付けた頃、村田がバスルームから出てきた。入れ替わりにバスルームに入った。
 着ていたものを脱ぐ。未だに履いているサニタリーショーツに貼り付けられている生理用ナプキンはまだ汚れていた。それでも入浴していいと本田医師に言われているし、既に病院でも入浴していたからあまり怖くはなかった。
 身体を洗うとき、クリトリスに触れた。びりっとした刺激がある。ぞくっとした快感が身体に生まれた。
 (感度良好だ。本田先生、腕がいいな)
 もう触れることなくシャボンを洗い流してバスタブに身体を沈めた。気持ちよかったけれど、短時間にした。いくら大丈夫と言われてもやはり気になるからだ。

 翌日から手術前の主婦業に戻った。イヤ、主婦業に朝昼晩の膣拡張が加わった。朝昼はいい。村田がいないから気兼ねなく行える。晩の膣拡張が村田の目を盗んでやらなければならないから大変だ。
 夜のお勤めも、お口の奉仕だけになっている。ただ、フェラチオは大好きだから決めたとおり毎晩やっている。村田のザーメンを飲み込むと幸せな気持ちになる。

 退院して2週間目、手術後1ヶ月検診のため、大阪朝永病院へやってきた。
 「体調はどうかな?」
 今日も本田医師はハンサムだ。
 「すこぶる快調です」
 「どこか気になるところはないかな?」
 「大丈夫です」
 「そうか。熱もないようだね。診察しよう。診察台に上がって」
 本田医師の顔を見るのはいいけれど、これがいやだ。けれど、診察だから仕方がない。まだ履いているサニタリーショーツを降ろして婦人科診察台に上った。
 「もう汚れなくなっているようだね? 普通のショーツでもいいんじゃないかな? 生理用ナプキンの変わりにパンティーライナーというのがあるだろう? あれを付けていれば、万が一にもショーツを汚すこともないだろう」
 「わかりました」
 話している間に本田医師は薄い診察用の手袋をしている。
 「外観はパーフェクトだな。傷跡もケロイド形成なし。陰毛が生えそろえば、まず手術したとは思えなくなるだろう。村田さん、触ってみるよ」
 「はい、どうぞ」
 「クリトリスはどうかな?」
 思わず腰を浮かすほど感じる。けれど、感じますとは答えにくかった。
 「先生、痛いです」
 「あ、すまない。陰唇はどうかな?」
 「よくわかります」
 「そうか。では、中を見てみよう」
 これもいやな診察だ。
 「消毒するよ」
 ペタペタと冷たい液が塗られた。
 「クスコを入れるよ」
 無機質な冷たいものが入ってくる。何度入れられても気持ちが悪い。
 「内部の状態は良好だ。狭窄もない」
 すっとクスコが抜かれた。
 「いい状態ですね。次は一ヶ月後に」
 「わかりました。ところで、脱毛とかはやっていただけるんでしょうか?」
 「できますよ。今日からでも」
 「じゃあ、お願いします」
 例の脱毛剤でかなり薄くはなっていたけれど、やはり脱毛が必要だった。めんどくさいのでこの際、脱毛しようと考えたのだ。
 この日は腋の脱毛をしてもらって博多に戻った。

 夕方マンションに戻ってきた村田がどうだったかと尋ねた。
 「経過は順調だって」
 「そうか。まだだめだろうな?」
 「いいって言わなかったからきっとだめなんじゃないかしら?」
 「尋ねなかったのか?」
 「だって、そんなこと聞くの、恥ずかしいもの」
 村田は不満そうにしているけれど、セックスしていいかなどとは聞きにくいものだ。

 術後2ヶ月目の診察も問題なかった。やっぱりセックスしていいか聞きそびれた。今日はすね毛の脱毛をしてもらった。

 術後3ヶ月目の診察はかなり入念だった。
 「どこかおかしいところでもあるんでしょうか?」
 不安になって尋ねてみた。
 「ない、ない。そろそろ卒業だから、最終検定だよ」
 「卒業っておっしゃいますと?」
 「どうもなければ、もう来なくてもいいってことだよ」
 「本当ですか?」
 「ああ、ご主人もお待ちかねだろう。今晩からでも可能だよ」
 言い出す前に言ってくれてほっとした。
 「何かあったら必ず来るんだよ。処置は早いほうがいいから」
 「わかりました。お世話になりました」
 頭を深々と下げ、Vラインの脱毛をしてもらって病院を出た。

 仕事から戻ってきた村田に許可が出たと告げると、やったぞと満面の笑みを浮かべ、わたしを抱きしめた。付いたままでもいいと言っていたけれど、やはりない方がよかったようだ。
 夕食もそこそこに、そわそわしている村田を尻目にして、わたしはゆっくりと片付けをした。
 入浴を終えると、まだ時間は早いけれどベッドルームに移動した。抱きしめられキスされた。今晩もキスで身体が蕩けた。キスくらいでと思うかもしれないけれど、きっとわたしが村田を愛しているからだろう。
 村田はわたしの身体を愛撫しながら着ていたものを脱がせていく。最後の一枚を村田はごくりと生唾を飲んでから降ろしていった。
 「ほう。まるで本物の女じゃないか」
 村田が戻ってくる前、わたしももう一度鏡で観察してみたけれど、本田医師の腕に舌を巻いていた。
 「あん」
 クリトリスが舐められた。快感が身体を突き抜けていった。村田とセックスするとき、ガフを外したことがない。だから、フェラチオさえされたことがなかった。本当に気持ちがよかった。
 村田の舌がわたしの女を嘗め回す。薫にフェラチオされたときよりずっと気持ちがいいと思った。
 「フェラチオしてあげるわ」
 「今日はいいよ」
 這い上がってきた。わたしは膝を立てる。両膝の間に入ってきた村田がその屹立したものをわたしの新しい器官の入り口に宛がった。後ろを使わせるときのように膝を抱える必要がないので楽だ。
 入ってきた。アヌスを抜けるときのような感触はない。ズルズルとわたしの中に入り込んだ。容易に入ったのは、あらかじめジェリーを仕掛けてあるからだ。
 「楓、入ったぞ。どうだ? どんな感じだ? 痛くはないか?」
 「大丈夫よ。少し痛いだけ。でも、なんだか変な感じだわ。わたしになかった場所にあなたが入ってるのって」
 「動かすよ」
 いつものようにゆったりとした抽送が始まった。
 (ああ、いい気持ち)
 説明できない感覚がわき上がってくる。アナルファックを始めた頃のあのふわふわ感に似たような感覚だ。
 「はああ・・・」
 「楓、いいのか?」
 「気持ちがいいわ。気持ちがいい」
 「そうか、そうか」
 村田はわたしに何度もキスしながら腰を打ち付けた。その腰を動きが早まってきた。どうやら村田はこのまま果てるようだ。
 村田が呻き、腰を動きが止まった。村田のペニスがびくびくと震えるのがわかる。村田は一度腰を引き、また押し込む。そのたびにペニスがびくんと震えた。
 (ああ、気持ちいいなあ。最高の気分)
 そう考えながら、村田の背中に爪を立てた。

 つながったまましばらくキスしていた。
 「楓、最高によかったぞ」
 「わたしもよ」
 「行けたか?」
 「うーん。でも、すっごく気持ちよかったわ」
 「後ろも前も処女をいただいてしまったな」
 「そうね。この幸せ者め」
 「ああ、わたしは最高に幸せ者だ。一生離さないからな」
 「わたしだって、一生あなたのそばにいるわ。逃がさないから」
 抱き合ったまま眠った。最高の処女喪失。幸せだと思った。

 いつもの時間に目が覚めた。起き上がると股間に流れるものを感じた。それは村田がわたしの中に放ったザーメンだった。指ですくい取り舐めた。美味しかった。名残惜しかったけれど、トイレに行きビデで洗い流しておいた。
 朝食の準備をしていると、起きてきた村田が楓、愛してるぞと言ってわたしの頬にキスした。
 (いい年をして無邪気なんだから)
 村田のことが大好きでたまらない。

 手術前もほとんど毎日身体を重ねてきたけれど、手術したあとも毎日のようにセックスしている。
 変わったのは村田の愛撫の時間が長くなったことだ。それは、わたしの女の分部への愛撫が加わったことによるのだろうけれど、それだけではないような気もする。
 ともかく村田のキスと愛撫で、身体がとろとろになる。貫かれると最高の気分だ。性転換して正解だったと思う。
 ただ、アナルで得られていた気を失うほどの絶頂はまだない。けれど、この心地よさだけでも十分満足している。
 (正式に結婚できたらいいのに)
 それは夢の話だ。可能となるのは、村田がよぼよぼで寝たきりになってからだろう。

 最後の診察を受けて半年ほどたった頃、なんだか体調に変化を覚えた。気怠くて、身体が重いのだ。特に骨盤あたりが。
 (体調に変化が現れたら受診しろって言われたな)
 早速大阪へ向かった。

 本田医師は、いつものようににこやかにわたしを迎えてくれた。
 「調子が悪いんだって?」
 問診票を見ながら尋ねてきた。
 「先月もちょっと吐き気があって、治まってきたと思ったら、なんだかおかしいんです。どこがどうと説明できないんですけど」
 「そうか。ベッドに上がって。お腹を見てみよう」
 ベッドに上がると、本田医師はわたしの腹を押さえ、聴診器を当てた。
 「ご主人との夜の生活は?」
 「え? 毎晩してます」
 「なるほど」
 本田医師は、にっと笑ってから婦人科診察台にあがるように命じた。
 「お腹の中に何か変なものが?」
 「変なものと言えば、変なものかな?」
 ぎょっとしていると、超音波のプローブが腟の中に挿入された。
 「ここを見て」
 モニターを見た。ネズミのようなものが見えた。
 「これは、胎児だよ。妊娠してるんだね」
 「先生、何をおっしゃってるんですか? わたしは、本物の女じゃないことは先生が一番ご存じでしょう?」
 「でも、妊娠している。間違いなく。これが村田さんの子宮、そして、さっきも言ったこれが胎児だよ」
 モニターを見ながら、わたしは口をぽかんと開けていた。



inserted by FC2 system