第9章 女として貫かれて


 彼と別れたあと、体調の変化に気づきました。もともとわたしは子宮の機能が悪く、月経不順があって結婚2年たっても妊娠もしないままでした。生理が多少遅れても、いつもなら気にしなかったのですが、今回は違っていました。いつもと違う身体の変調でした。
 夫には内緒で簡易妊娠検査をやってみました。予想通り陽性でした。いくら帰りが遅いとは言っても夫ともセックスしていましたが、夫の子どもではないとわたしは確信していました。
 ただ、夫に内緒で堕ろすわけにはいきません。彼の子どもではなく、夫の子どもでありますようにと祈るしかありませんでした。
 結婚して2年、子宝に恵まれなかったので、妊娠を知った夫はことのほか喜び、生まれる日を指折り数えて待っていました。
 そして、運命の日、わたしはこの世にものとは思えないほど可愛らしい男の子を産み落としました。
 自分とは似ても似つかぬその子を見て夫は自分の子ではないと悟りました。万が一とも考えて、血液型を調べ、DNA鑑定までやったのです。わたしが確信していたとおり、夫の子どもではありませんでした。
 怒り狂った夫はわたしを罵り、出て行けと言いました。わたしは病院の屋上に立ち、そして身を投げたのです。



 手術後の痛みは想像していた以上だった。初めて穣にアヌスを貫かれたあの痛みの何倍もひどい痛みだった。それはそうだろう。男の一番大切な部分を切り取ったのだから。
 痛みは手術後三日三晩続いた。注射と穣の励ましがなかったら、乗り切れていなかっただろう。
 痛みが軽くなり、注射の効果で朦朧としていた意識が戻ってから、改めて自分の股間を覗いてみた。
 (はあ、何もない)
 決心して性転換手術を受けたはずなのに、後悔の嵐が渦巻いた。これで本当によかったのかと。
 その後悔も、病室にやってきた穣の笑顔で消え去った。穣が喜んでくれれば、もはや後悔はしないともう一度確認したのだ。
 わたしに新たに作られた腟の中から止血用のタンポンが引き抜かれるとき、痛みと今まで経験したことのない違和感を覚えた。それはそうだろう。膣なんて、わたしの身体にはなかったのだから。
 抜糸は思ったほど痛みはなく、綺麗に仕上がっているという犀川院長の言葉にホッと胸を撫で下ろした。
 バルーンカテーテルという膀胱に入れられていた管が引き抜かれて、初めてトイレに行って女として小便をしたときの違和感は思った以上だった。
 それに人工的に作られた膣は放置すると狭くなって、最悪なくなってしまうと聞かされ、膣拡張なるものを余儀なくされた。穣のために性転換したのだから、狭くなったりなくなってしまったら元も子もない。小便よりも違和感のある膣拡張にせっせと励んだ。
 手術後10日目、わたしは退院となった。駐車場で待っていた穣と共に我が家へと戻った。
 「こ、こでれで、け、結婚届を、だ、出せるね?」
 「まだよ」
 「ど、どうして?」
 「わたしの戸籍はまだ男で、戸籍を女に変えてもらわないと婚姻届を出せないのよ」
 「す、すぐに、か、変えてもらおう」
 「もう手続きしてもらってるわ。でも、手続きに時間がかかるから、婚姻届は2,3ヶ月先よ」
 「に、2,3ヶ月も、さ、先なのか?」
 「そう。それまで待ってね」
 「わ、わかった」
 指折り数える穣が可愛い。

 手術以前の生活にとりあえず戻ったけれど、違うのは手術した部位へのケアだ。クリトリスや大小陰唇に傷の治りを促す軟膏を塗るのだ。
 (ここがクリトリスか。ペニスを触ったような感触がするな。感じるクリトリスを作るって言ってたけど、間違いないようだ。小陰唇の形は過去に触った女たちと変わらないようだ)
 上手く仕上がっているみたいだとほっとする。
 (指だけじゃなくてこの目で見てみたいな)
 この日まで、わたしはまだ手術した場所を見ていないのだ。化粧箱から鏡を取り出して、M字開脚して覗いてみた。
 (わあ、すごい)
 人工的に作ったものには見えなかった。
 (もう少し陰毛が生えそろったら、誰にもわからないだろうな)
 穣の叔父の腕ではすごいと感心した。鏡を下ろし、膣の中に指を入れてみる。
 (アヌスを締めると締まる?)
 やってみたけれど、膣は締まらないようだ。形は完璧だが、機能はまだまだだ。機能アップはわたし自身の仕事だ。膣を締める練習をしっかりしておかないととわたしは考えていた。
 それから膣拡張。セックスできるようになるまでの辛抱と違和感の中で続けていた。

 手術後1ヶ月検診に犀川病院を訪れた。
 「変わりはないですね?」
 「ハイ、特段問題はありません」
 「じゃあ、見せてもらっていいかな?」
 診察だから仕方がない、婦人科用の診察台に上った。こんな診察台、誰が発明したのかわからないけれど、女にとっては拷問と同じだと感じた。
 「ここ、クリトリス、感じますか?」
 「はい。感じます」
 「ここは?」
 小陰唇を撫でているようだ。
 「わかります」
 「よしよし、感覚もいいようだ。膣の中を見ますよ。例によって気持ちが悪いでしょうけど、少し我慢してください」
 クスコが挿入された。確かに気持ちが悪い。入れるだけでも気持ち悪いのに、中でぐるりと回すのだ。最悪だと感じた。
 「色も良いし、狭窄もない。非常にいい状態ですよ」
 「あのう、先生?」
 「なんでしょう?」
 「まだ、だめですよね?」
 犀川院長は、一瞬間をおいてからもう少し待った方がいいですねと答えた。
 「じゃあ、来月。採血が終わったら、帰っていいですよ」
 採血されて病院を出た。もう少し待った方がいいって、待たなくてもいいのかなと考えていた。

 その気になってしまうと自制が効かない。夕食の片付けを終えたわたしは、早速穣に迫った。
 「も、もう、い、いいの?」
 わたしは曖昧な返事をして、穣をベッドに誘った。久しぶりと言うこともあって、穣もビンビンだ。わたしの新たな器官も少し濡れたような気がした。
 「す、すごい。ほ、本で見たのと同じになってる」
 本とはあの外国製の男性誌のことだろう。穣がわたしのクリトリスを舐めた。狂おしいほどの快感がわたしを襲う。小陰唇も思ったより感じた。
 「も、もう、い、入れてもいいかな?」
 穣を誘う前に膣拡張をしていた。そのジェリーがまだ残っているから大丈夫だ。わたしが頷くと、穣がわたしの身体にできた新たな器官の入り口に屹立したペニスを宛がった。
 そのままだったら、この日わたしは処女でなくなっていただろう。けれど、急に怖くなった。まだ早いのではないかと。
 「ちょ、ちょっと待って」
 「も、もう、ま、待てないよ」
 「来月まで待った方がいいって言われたのを忘れてたわ」
 「そ、そんな。い、入れたいよ」
 「わかったわ、穣。でも、今日は後ろを使って。前を使うのは来月まで待って。いいわね?」
 そう言うと、穣は仕方ないなという表情をして、わたしのアヌスにペニスを押しつけていた。
 久しぶりのアナルファックは少し痛かった。けれど、その痛みはすぐに去り、快感が押し寄せてきた。
 (ペニスがなくなって、行けるかな?)
 心配していたけれど、穣がわたしの中で弾けた瞬間、射精したような感覚があってわたしも行っていた。
 これなら膣でも行けそうだと思った。

 2ヶ月検診にやってきた。
 「何か気になることはありませんか?」
 「特には・・・」
 「では、見てみましょう」
 あのイヤな婦人科診察台に上がらされる。
 「外見はすっかり女性になりましたね?」
 「先生のお陰です」
 「クリトリスの感覚はいかがでしょうか?」
 手袋をした指で触られた。不快だけど、相手が医者で、しかも手術をやってくれた医者なのだ。非常にいいですと不快さを表さずに答えた。
 「小陰唇の方は?」
 左右のビラビラを交互に抓みながら尋ねた。
 「痺れた感じがまったくなくなりました」
 「よし、よし。内診するよ」
 指が、それも二本の指が入ってきた。何かを確かめるように熱心に中を触っていた。
 「次はエコーを入れます」
 エコーって超音波装置のことだろうなと考えているうちにその器具を入れられた。犀川院長はモニター画面をジッと見つめている。
 「ふんふん。なるほど」
 わたしもモニターを見ていたけれど、何がなにやらわからなかった。
 「よし。次はクスコを入れますから」
 今日は先月と違うなと感じながら、気持ちの悪いクスコを受け入れた。
 「中の状態は申し分なし。前嶋さん、今晩からでもセックスしても構いませんよ」
 「そうですか。穣さんが喜びます」
 「では、また来月。もし何かあったことがあったら連絡してください」
 セックスで何か変わったことが起こるんだろうかと首を傾げた。

 穣が戻ってくるのが待ち遠しい。身体が火照っていた。
 「ただいま」
 玄関を開いて入ってきた穣に、わたしはすぐさま許可が下りたわと告げた。
 「な、何の?」
 「何のって、決まってるじゃないの? 今晩から解禁よ」
 「か、解禁?」
 解禁の意味がわからないようだ。
 「セックスしてもいいって」
 そう答えると、穣は本当かいと言ってわたしを抱きしめた。
 「じゃ、じゃあ、す、すぐにしよう」
 「そうしたいところだけど、まず腹ごしらえ。それからお風呂。いい?」
 穣は渋々と言った様子でわかったと答えた。

 夕食を大急ぎですませ、片付けは後回しにして穣と一緒に入浴した。穣の勃起したペニスを見るのが何だか気恥ずかしい。
 そして身体を拭くと裸のままベッドに飛び込んだ。
 (ああ、感じる)
 穣のいつもの愛撫がまったく違って感じられ、乳首を弄ばれるとわたしは行っていた。それも手術前に比べて遙かに大きな快感の中で。
 (穣、穣、早く入れて)
 そう思っているのに、穣は焦らすようにわたしへの愛撫を続けていた。そしてついにそのときがやってきた。
 両足を立てたわたしの間に穣が入ってきた。もう両足を高く掲げる必要がない。そのままで挿入が可能だ。
 腟口に穣のペニスが押し当てられた。穣が笑顔でわたしを見ながらゆっくりとわたしの中に侵入してきた。
 「い・・・」
 充分拡張していたはずなのに、痛かった。ただ、アヌスを貫かれたときほどではなかった。ぽこっと入ったあの感触もない。
 (あ、ジェリーを塗り込むのを忘れた)
 がしかし、何の抵抗もなく穣のペニスはわたしの奥深くへ入り込んでいた。
 「は、入ったよ」
 確かに穣がわたしの中にいる。そう思うと、何故か涙がこぼれ出ていた。
 「う、嬉しいんだね?」
 「そう、嬉しいわ。とっても。穣をちゃんとしたところに受け入れられて」
 穣が抽送を始めた。違和感があるけれど、それはアヌスの違和感とはまったく違ったものだ。
 クチュクチュと音がし始めた。その音にわたしは濡れているんだと自覚した。濡れるようにしておいたという医者の言葉が嘘ではなかったことを知った。挿入が容易だったのも、愛撫されてすでに濡れていたからだ。
 穣の抽送が続く。骨盤の奥にもやもやした切ない感じがわき上がってきた。わたしは感じていた。
 「はあ、いい。穣、いい、いい、・・・」
 わたしは思わず腰を振り、大きく喘いでいた。
 「か、香澄、い、行くよ!」
 穣がわたしの中で弾けたと同時にわたしの意識は宙を舞っていた。
 (最高だ。女になって良かった)
 喜びの中で意識を失った。

 気がつくと、わたしたちはまだつながったままで、穣がわたしの顔をじっと見ていた。
 「か、香澄、あ、愛してるよ」
 「わたしも」
 そのままキスして、長くつながったまま余韻を楽しんだ。

 穣が抜け出していく。アヌスだったら抜け出さないようにひくひく抵抗するけど、そんなことはなかった。
 「ち、血が出てるよ」
 穣が叫ぶように言う。
 「血?」
 見下げると、股間あたりのシーツが血で汚れていた。膣に手をやってみる。どす黒い血液が指に付いた。
 息が止まりそうになった。
 「あ、そうだ。ショ、処女は、ち、血が出るんだろう?」
 嬉しそうに穣が言った。
 「今日、穣と初めてセックスしたから、処女なんだけど・・・」
 前も後ろも穣に処女を与えたと言うことになる。
 (出血があったと言うことは、犀川院長が処女膜まで作ったというのだろうか?)
 それよりも膣の中が傷ついたのではないかと心配になった。翌日早速病院を受診した。

 犀川院長は処女膜までは作ってないよと答えた。
 「じゃあ、どうして血が? 膣が傷ついたんでしょうか?」
 「そんなに激しくやったのかな?」
 探るような目をして尋ねられ、恥ずかしくなって下を向いた。
 「はっはっは。セックスくらいで膣が傷つくことはないですよ」
 「じゃあ、血が出たわけは?」
 わたしには想像も付かなかった。
 「簡単なことです。月経が、一般に言う生理が始まったんでしょう」
 「せ、生理!? 月経!?」
 「そうです。今夜は赤飯を炊かなければいけませんね」
 その言葉に驚きを通り越していた。



 前嶋にとっての初経が膣を使った初性交と重なるとは何という偶然だろうか? 愉快としか思えない。わかっていて破爪の血だと言った穣も人が悪い。初経だと聞かされた前嶋の驚きの表情が傑作だった。
 これで前嶋は妊娠可能となった。穣は自分の子どもが欲しいと言って譲らない。仕方がない。複数の男たちに陵辱させて誰の子ともしれない子どもを妊娠させることは諦めよう。
 代替案は?
 少なくとも、前嶋がどうして女に誘導されたか知らしめる必要があるだろう。今のままでは前嶋は女になったことを楽しんでいるように思えるからだ。
 どうやるか? 今のところ名案はない。
 しばらく様子を見ることにしよう。



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