第7章 おかまの娼婦と罵られて


 わたし好みのいい男に甘い言葉で誘われ、ついよろめいてラブホテルに入ってしまったけれど、シャンデリアがぶら下がった回転ベッドを見て正気に戻った。
 帰りますなんて言葉は通用しなかった。ここまで来てそれはないでしょうと男は優しく言ったけれど、ぎらぎらした男の本性を見せていました。
 それでも出入り口に向かったわたしを男は羽交い締めにしてベッドに放り投げました。こうなってしまったら、男は止めようがない。そんなこと、わかっていました。抵抗したのに、無理矢理犯されてしまいました。
 数日後、知らない番号の電話が掛かってきました。あの男でした。レイプされたことを夫に知られたくなくて、誘いに乗ってしまいました。あとで思えば、きっぱりと断ればよかったのです。
 その後もズルズルと関係を続けてしまい、レイプでその男を断罪することができなくなってしまいました。



 今のこのわたしを前嶋勝治と呼ぶこの男は、いったい誰なんだとわたしをその男を茫然と眺めていた。
 「か、香澄! に、逃げるんだ!」
 穣のそんな叫びにハッと吾に返り、手首をひねって男の手を振り切って裏口へ走った。
 「おっと、前嶋よ。おまえの大切な情人がどうなってもいいのか?」
 男は穣に歩み寄って、大型のナイフを穣の首筋に当てた。
 「か、香澄! お、俺のことはどうでもいいから、に、逃げろ!」
 そう言われても穣を置いて逃げるわけにはいかなかった。
 「そう、そう。素直に俺様に付いてくればいいんだ」
 男はわたしに歩み寄ってきてわたしの肩を抱いた。
 「や、止めろ! か、香澄は、お、俺のものだ!」
 立ち上がって迫ってくる穣を男は蹴飛ばす。
 「おまえのものじゃない。おまえが俺のものを横取りしたんだ。返して貰うだけだ」
 男はもう一度穣を蹴飛ばす。何度も何度も。
 「や、止めて!」
 男の手を振り払おうとするけれど、今度はできなかった。
 「大人しく俺に付いてこい。そうしないと、わかってるな?」
 気絶してしまったらしい穣の方を見てから、わたしに向かって口角をあげた。抵抗したら、穣がもっとひどい目に遭う。もしかしたら殺されるかもしれない。そう考えると、もはや抵抗できなかった。
 腕をがっちり掴まれて男が乗ってきたベンツに引っ張り込まれた。
 「あなたは誰なの?」
 「俺か? おまえのご主人様だよ」
 男はニタッと笑った。
 「あ、あなたがわたしをこんな目に?」
 ご主人様が吉良ではなさそうだと考えていたけれど、これではっきりした。
 「そうだよ。だからどうだっていうんだ? ああっ?」
 男がわたしに顔を寄せてきていった。手を挙げてぶん殴ろうとすると男の手がわたしの首に掛かった。
 「俺に指一本でも触れたら、おまえの、あのノータリンの大男がどうなるかわかってるだろうな?」
 挙げた手を下ろさざるを得なかった。
 「どうしてわたしをこんな目に遭わせたの?」
 「ただの偶然さ。誰でもよかったんだ」
 「ただの偶然? 誰でもよかった?」
 「そうさ。世の中にはペニスが付いた女が好きな御仁がたくさんいてね。そんな変態の相手をするニューハーフって言うのかな? それを調達して、身体を売らせて一儲けするのが俺の仕事だ」
 「身体を売らせてって、売春?」
 「ああ、そうだ」
 男は事も無げに答えた。
 「売春するニューハーフなら、巷にいくらでもいるじゃないの」
 「まあな。ただね。俺の趣味とも関係があるんだ」
 「あなたの趣味?」
 「そうだよ。俺はな。女になんてなりたくない男を女にするのが趣味なんだ。おまえだってそうだろう?」
 こんなことがなかったら、絶対に女になんかなっていなかった。
 「おまえみたいな美形が女にしたらダメなこともあるし、逆に女したら相手にする男がいないんじゃないかと思うような男がとびっきりの美女になることもある。スーツ姿だけで想像を逞しくする。そこが面白いんだな」
 「狂ってる! あなた、狂ってるわ」
 「ははは。その通りだ。俺は狂ってる。俺の目に止まったのが、おまえの運の尽きだ。今まで投資した分を合わせてせいぜい稼いで貰うぞ」
 「そんなことをするくらいなら死んでやるわ」
 「ははは。それはないな。死ぬならとっくの昔に死んでるさ。それに、死んだら、あの情人と二度と会えないぞ。そうだろう?」
 返す言葉がなかった。
 「おまえを買う男がいなくなってしまうか、俺が想定した金額を稼いだときには解放してやる。それまで頑張ってくれよな」
 男はわたしをドアの方に突き飛ばすとエンジンを掛けた。我が家の門柱を抜けるとき、穣がよろよろと出てくるのが見えた。わたしの名前を叫んでいるようだった。

 連れて行かれたのはマンションの一室だった。長目の廊下を抜けると広いリビングだ。左側奥の壁に大型のテレビ、中央にソファーセットが置かれ、左手前隅にカウンターバーがあった。洋酒がずらりと並んでいる。
 正面から右奥にはベランダに通じるガラス戸があり、右側の壁にあるドアを開くとそこはベッドルームになっていた。振り返って右後ろには対面式キッチンがある。玄関を入って右側、キッチンの後方にトイレや洗面所、バスルームがあったようだ。
 「ここが今日からおまえの住処だ。客が来たら、客の要望に従って、すぐさまベッドインでもよし、酒が欲しいと言えば、カウンターバーで作ってやる。腹が減っていると言えば、キッチンで作ってやる。必要な食材はおおよそ入っている。必要なものがあれば、連絡してくれればいい」
 男は冷蔵庫を開いてわたしに見せた。
 「あのボロ屋に結婚写真らしきものがあったな? 男同士で夫婦ごっこでもしていたようだが、客を夫だと思えばいい。数時間限り、あるいは一晩限りのな」
 「お客はいつ来るの?」
 「客が付いたときはそこにある電話で連絡を入れる。チャイムが鳴ったら、覗き穴から客かどうか確かめる。客である証拠は、このカードだ。このカードを見せられたら、中へ招き入れろ。わかったな?」
 カードには二匹の蛇が絡み合う図形が描かれていた。
 「くれぐれも粗相のないようにな。助けを求めたりすれば、犀川に危害が及ぶ」
 「わかってるわ」
 「あ、そうだ。名前を決めておかないとな。・・確か、犀川がおまえのことを香澄とか呼んでいたな?」
 わたしは小さく頷いた。
 「呼ばれなれているだろう。香澄と言うことにしておこう。じゃあ、頑張って稼いでくれよ。稼げば稼ぐほど、解放が早くなる」
 そう言い残して、男は去っていった。
 (ただの偶然で、わたしはこんな姿に・・・)
 あの男の目に止まったのが不運だった。自分の不運と穣の身が心配で涙を流した。

 その日の午後7時過ぎ、電話が掛かってきた。
 《俺だ、八神だ》
 「八神? どなた?」
 わかっていたけれど、しらばっくれた。
 《俺の声くらい覚えとけ。30分後、客が行く。犀川が人質だと言うことを忘れるなよ?》
 それだけ言って切れた。わたしはため息をひとつ付いてから、準備をして客が来るのを待った。
 わたしは心を決めた。嫌々やっていては、解放が遅くなってしまうだろう。できるだけ愛想よく、客に気に入られるようにして、早く解放されて穣のもとに戻ろうと。

 玄関のチャイムが鳴ったのは、きっちり30分後だった。
 「はい、どなた?」
 返事をして覗き穴から見ると、二匹の蛇が絡まったカードを翳している中年男の姿が見えた。
 鍵を開き、客に笑顔を向けてお帰りなさいと言った。客はちょっと驚いた様子だったけれど、ただいまと答えて中に入ってきた。
 「お帰りなさいはなかなかいいな」
 鍵を締めていると客が満足そうに言った。
 「お風呂にします? それとも何か召し上がります?」
 「喉が渇いてるんだ。ビールでも貰おうか?」
 冷蔵庫からビールを取りだしてコップに注ぎ、ソファーに座った客に差し出す。さらにチーズを載せた皿を出した。
 客はうんうんと頷きビールを飲むとチーズを口に入れた。
 「こうして見るとまるで女だが、本当に男なのか?」
 「お確かめになったらよろしいかと」
 「それもそうだな。では、始めるとするか」
 ベッドルームに移動する。
 「ほう、キスをしてくれるのか?」
 「この部屋の中ではわたしたちは夫婦という設定ですから」
 客はいいねと言い、わたしとキスした。ベッドの上で愛撫が始まる。あまり丁寧な愛撫ではない。先を急ぐ、わたしが男であることを早く確かめたい、そんな様子だ。だから、乳首への愛撫が短く、いけなかった。
 わたしの履いていたショーツが剥ぎ取られた。後ろに折り曲げていたペニスが姿を現すと、中々だと言った。何が中々なのかわからない。客はわたしにフェラチオした。これはクンニだといいながら。
 交代してわたしがフェラチオする。こんなふうにフェラチオすることになれてしまった自分が悲しい。
 大きく足を広げて貫かれる。もちろんコンドームは付けて貰った。穣以外の男と生ではやりたくないからだ。
 違和感はいつになっても消えないけれど、それは快感ですぐに打ち消されてしまう。
 「あん、あん、あん、あん」
 「いい声で啼くなあ」
 穣を誘惑するときから女声を出す練習をしていた。ずいぶん前から完全な女声を出せるようになっていた。
 「ペニスを勃起させるニューハーフは中々いないぞ」
 わたしの勃起したペニスを撫でながらほくそ笑んだ。騎乗位になり、後背位でフィニッシュを迎えた。
 「潮吹きニューハーフとやったのは初めてだ」
 大喜びで客は帰っていった。
 (潮吹きニューハーフねえ)
 シーツの上に広がった透明なザーメンを見て複雑な思いだった。

 翌日、午後6時過ぎに客がやってきた。腹が減ったというので、昼間作って置いた肉ジャガと卵焼きに味噌汁を作って出した。
 「なかなか美味い」
 ここまではよかった。汚れた食器を下げると、客が裸になれと命じた。客の命令は絶対と考え、着ているものを脱いだ。
 「その大きな胸は豊胸か?」
 「いえ、手術はしていません」
 「ほう、ホルモンだけでそこまで大きくなったのか?」
 「はい」
 「胸が大きくなって嬉しいか?」
 何と答えていいのかわからなかった。少し考えて、大きい方が殿方に喜んで貰えますからと答えた。
 「男を喜ばすためにその口を使うんだな?」
 「それは本物の女もやっていることです」
 「では、ケツの穴を見せろ」
 どうしてそんなことをしなければと思ったけれど、四つん這いになってアヌスを客に曝した。
 「このクソをするところで男を喜ばせるわけだ」
 指をグリグリ入れられ思わず痛いと叫んでいた。
 「痛い? 男のペニスを入れられてアヘアヘ言う癖に痛い? 気持ちいいの間違いじゃないか?」
 「き、気持ちいいです」
 「この変態おかまめ! おまえのような男はくずだ。生きている価値などない。こうしてやる」
 臀をばしばし叩かれた。
 「や、止めてください!」
 「止めろだと! 客に向かって止めろと言うのか!」
 客に逆らった穣に危害が及ぶと思うと、それ以上抵抗できなかった。客はなおもわたしの臀を叩き続けた。
 しばらくして客は持ってきた鞄の中から麻縄を取りだしてわたしを縛った。息ができないほど強く縛られ、気が遠くなる。
 「縛られて勃起させるとは何という変態。こうしてくれる」
 ペニスの根本を縛られ、わたしのペニスは真っ赤に充血した。睾丸も根本で縛られた。
 「そのままにしておくと、ペニスも睾丸も腐り落ちてしまうが、おまえにとってその方がいいだろう。ふっふっふ」
 止めてくださいというのも苦しくて言葉にならなかった。そんなわたしお客は犯した。息も絶え絶えだったわたしはすぐに意識を失っていた。
 気がつくとベッドの上に倒れていた。アヌスから流れ出ている客の放ったザーメンを感じて思わず泣いていた。
 惨めで、死んでしまいたいと思った。死ななかったのは穣にもう一度会いたいと思ったからだ。

 次の日やってきた客は、部屋に入ってくるなりわたしに要求した。
 「裸になってそこでマスターベーションしてみろ」
 悔しさを押し隠して裸になり、ソファーの上に座ってペニスをしごいた。
 「なんだ? ぜんぜん勃たないじゃないか。まあ、女を相手にしないから勃起する必要もないか」
 そう言い、男は赤い縄を取り出してわたしを縛った。昨日よりもきつくはなかったけれど、身動きはできなかった。後ろ手に縛られて、胡座を組んだ形だ。そのまま床の上に転がすと、客はわたしのアヌスに電動ディルドーを挿入して固定し、わたしが苦しむ様子を携帯のカメラに収めた。
 「止めてください、お願いですから」
 「写真を撮って悪いとは聞いていないぞ」
 そう答えて、シャッターを切り続けた。
 「さて、味見させて貰うかな?」
 転がったままのわたしの臀を掴み、貫かれた。ひとしきり抽送したあと、客はわたしを仰向けにして再度挿入した。そうしてカメラのシャッターを切った。止めてとお願いしても止めて貰えなかった。
 「ネットにあげておくからな。客が増えるぞ」
 絶望的な気分になって身の不運を嘆いた。

 その翌日は縛られただけではなく、逆さづりにされた。
 「く、苦しい・・・」
 「いいねえ、おまえのその表情。おまえは最高だ。俺が縛ってきたオカマの中で最高の表情をする」
 今日の客は本格的な一眼レフを持ち込んでいて、縛ったわたしを撮影した。フラッシュが光っているうちにわたしは失神していた。
 気がつくと、床の上に寝ていた。口の中が気持ち悪かった。客がわたしの口の中に射精していたのだ。アヌスからもザーメンが流れ出ていた。
 今日も泣いてしまった。

 八神から電話が掛かってきた。
 「もうイヤです!」
 掛かってきた八神の電話にわたしは抗議した。
 《犀川がどうなってもいいんだな?》
 その言葉に言葉が詰まる。
 《縛られたときのおまえの表情がいいと評判になってるんだ。だからそう言う客ばかりを選んでいる。まあ、罵られるのは仕方がないな。おまえは変態のおかまなんだからな》
 男とセックスして絶頂を覚えているのだ。おかまだの変態だのと罵られても仕方がないと改めて知らされた。
 八神を恨んで泣くしかなかった。



 身体を売らせれば、惨めさを感じると思っていたのに、前嶋は男とのセックスを楽しんでいるようで、わたしの目的は達せられそうもないと判断した。だから、ニューハーフを虐めて喜ぶ男たちばかりを相手にさせた。これは上手く行った。前嶋は惨めさに毎晩泣き暮らしている。
 いつまで身体を売らせるか、そこが問題だ。穣がそろそろ解放してくれと願うようになっている。



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