< いかにして蛹は蝶に変身したか

第6章 まるで夫婦のように


 何人もの男にナンパされたけれど、あの男の誘いに乗ったのは、もちろんかなり酔っていたせいでもあるけれど、あの男がわたし好みのいい男だったからです。
 一目惚れと言うんでしょうね。人妻だというのに、あの男の笑顔につい・・・・。



 男ははっきり言って醜男だ。ガッツ石松をどうかしたような顔をしている。けれど、極めて優しい。
 世の中の女性に結婚相手の条件はと尋ねると、決まって優しい人という。男はそう言う意味では、最高だろう。
 わたし自身は美形と言われていたけれど、あまり優しいとは言えなかった。もちろん、その場限りの優しさは見せていたけれど、この男ほどの優しさは持ち合わせていなかった。彼とつきあえて良かったと思う。

 レシピを見ながらの料理作りにもなれてきたけれど、まだレシピを見ないと料理を作れない。男のためにわたしオリジナルの料理を作ってやりたいと思うようになって一生懸命料理した。
 「こ、これ、う、美味いよ」
 そう言いながら、料理を残すことなく食べてくれるのはとても嬉しい。拉致される前に付き合っていた女の手料理があまりにまずくて、一口食べただけで、出前を取ったことがある。あんなことはすべきじゃなかったと反省した。
 わたしは悪い男だ。ハンサムでもてることをいいことに勝手気ままをやり過ぎた。これはそんなことへの罰かもしれない。
 「と、ところで、キ、キミのこと、な、なんと、よ、呼んだら、い、いいのかな?」
 「あ、名前。わたしの名前は・・、香澄よ。香るに水が澄むの澄むよ」
 男ははあ?首を傾げた。メモ帳に書いて渡すと、難しい字だと言った。この名前はただの思いつきではない。大学4年の時に付き合っていたお気に入りだった女性の名前だ。
 (彼女が結婚していなかったら、彼女と結婚していたのに)
 そう思いながら、香澄の顔を思い浮かべていた。
 「それはそうと、あなたの名前は?」
 相当長いつきあいなのに、お互い名前を知らなかったなんて不思議としか言えない。
 「お、俺? お、俺の、な、名前は、み、みのるって、い、言うんだ。か、漢字が、む、難しいぞ」
 わたしが書いた下に「穣」と書いた。これでみのると読むのは、普通の人では無理だろうなと考えながら、いい名前ねと言った。
 「か、香澄も、い、いい、な、名前だよ」
 香澄というのは一般的には女性の名前だろう。わたしには男のシンボルがあるのはわかっているはずなのに、わかっていないんだろうなと思った。
 逆にわかってるんじゃないかと思うこともある。女性ホルモンの週1回の注射と毎日の内服だ。ここに来てからも続いていた。
 当然拒否しようとしたけれど、穣は注射して、クスリを飲まないと胸がなくなってしまうだろうとわたしに言うのだ。
 男を女にするクスリなのだから、わたしが男だとわかっていてもいいように思うのだが、そこのところがどうもあやふやなのだ。
 そのあやふやさが穣のいいとことかもしれないけれど。

 穣とわたしは、毎晩身体を重ねる。考えてみれば、穣とセックスし始めて一日たりともセックスしなかった日はない。
 穣はやり方は、ほとんど決まっていた。キス、わたしの乳首への愛撫、わたしのフェラチオ奉仕、そして合体。最初は正常位、次いで後背位、大抵はもう一度正常位に戻ってフィニッシュ。それが定番メニューなのだが、ときどき騎乗位を加えることがある。
 今日はその騎乗位を混ぜている日だ。わたしは穣の上に乗って、下から突き上げられてピョンピョンと跳ねていた。
 「か、香澄の、お、おっぱい、ゆ、揺れてる、ゆ、揺れてる」
 ユサユサ揺れているわたしの乳房を見てご満悦だ。しばらくして穣が起き上がってくる。わたしは両足を穣の腰に巻き付けて後ろに倒れる。そうして正常位になって抽送が再開される。
 「あん、あん、あん、あん。穣、気持ちがいい、最高よ」
 そう喘ぐと、穣は嬉しそうに笑みを浮かべて、さらに腰の動きを早めるのだ。
 「か、香澄! い、行くよ!」
 穣がわたしの中でグイグイと蠢いた。
 「い、いいっ! いい。行く、行く、行く、行くう・・・」
 目の前が真っ白になり、わたしは身体を痙攣させた。恥骨のあたりにわたし自身のザーメンが撒き散らされるのを感じながら、意識を飛ばす。
 毎晩わたしは必ず行った。行かない日はまったくない。こんなことになる前、わたしは毎晩のように女を抱いたけれど、ホントに毎晩なんてことはなかった。こんなに充実したセックスライフはなかった。
 わたしは穣とのセックスにずっぽり填り込んでいった。

 穣と暮らし始めて2が月あまりがたったある日のこと、ふと玄関のノブを回すと扉が開いた。鍵を掛け忘れていったのだ。
 逃げ出すこともできた。けれどわたしは、履いていく靴がないだとかお金がまだ手に入っていないだとか理由をつけて逃げ出さなかった。本心は穣といたかっただけだ。
 夕方戻ってきた穣は、鍵を掛け忘れていたことに気づいて、大慌てで部屋に入ってきた。そしてキッチンで料理をしているわたしを見つけて、本当に嬉しそうな顔をした。
 その夜穣は、コンドームなしでわたしに挑んできた。もちろん、綺麗にしてあったけれど、わたしは少し驚いた。
 「病気になったら、どうするのよ?」
 「だ、大丈夫だよ。そ、そう、か、簡単に、びょ、病気に、な、ならないって、ほ、本に、か、書いてあった」
 生ペニスだ貫かれることを思うと、わたしはかなり興奮し、わたし自身のペニスから愛液をぼたぼた漏らした上に、アヌスも潤うのを感じた。
 いつもの段取りで前戯が進み、そしてついに生ペニスで貫かれた。その瞬間、わたしは行ってザーメンを漏らしていた。
 「はん、はん、はん、はん。いい、いい、いい、いい。ああ、いい、いい。ああ、もうダメ。ダメよ」
 穣は腰を打ち付け続け、正常位から体位を変えることなくわたしの中で果てた。
 「う、ううん・・・」
 わたしは身体を強直させて意識を失ってしまった。

 気がつくと穣はまだわたしの中にいた。満たされた感覚がまたよかった。
 「穣、愛してる」
 思わず言葉に出していた。まるで他人がその言葉を口にしたようで、自分でも信じられなかった。
 (男を好きになるなんて、あり得ない)
 これは何かの間違いだと自分に言い聞かせた。
 「か、香澄。お、俺も、か、香澄のことが、す、好きだ。大好きだ」
 そう呻くように言い、唇を重ねてきた。わたしはその舌を吸った。今まで経験したことのない最高のキスだった。
 穣がゆっくりと抜け出ていく。出て行かないでとわたしのアヌスが穣のペニスを締め付ける。しかし、やがてスポンと音がして抜け出てしまった。身体の中が空っぽになった感じがした。
 ドロッとしたものがわたしの中から漏れ出てきた。それは穣がわたしの中にはなったザーメンだ。漏れ出るのは勿体ないような気がして、アヌスを締めた。
 この日からわたしの穣に対する思いが変わった。疑似結婚生活の相手ではなく、愛するパートナーとなったのだ。

 数日後の午後、1時の時報が鳴ってすぐ、穣が戻ってきた。
 「どうしたの? こんなに早く」
 「や、休みを、も、貰ったんだ。い、一緒に、ま、町に、か、買い物に、で、出掛けよう」
 「待ちに出掛けようって、見つかったらどうするのよ?」
 「だ、大丈夫。と、隣町に、い、行くから」
 峠を越えて反対側にある町に行くのだという。それでも危ないなと考えたけれど、穣は絶対に大丈夫だという。
 「め、目立たない、ふ、服を、き、着ていれば」
 そう言うわけで、クローゼットの中からチュニックとジーンズを取りだして身に着けた。チュニックは二枚重ねにした。
 化粧も目立たないように薄くもなく厚くもないものにした。そして、この日のためにと用意してくれたピンクのラインが入った運動シューズを履いて車に乗った。
 穣の車は旧式のランドクルーザーで、あちこちぶつけた跡があった。事故は起こさないのかなと心配していたけれど、運転は結構上手い。たちまち隣町に着いた。
 最初に言ったところは、美容室だ。これまで、真ん中で分けて、ハサミで適当に左右の長さを揃えていただけだった。
 男性の店員に手早くカットされ、さらにヘヤダイで少し明るめのブラウンに染め上げられた。髪の毛の色が変わると、わたしの印象はかなり変わっていた。さらに眉の形も整えて貰った。
 「び、美人になったよ」
 穣が満面の笑みを浮かべた。それからGUで3着のワンピースを買った。穣はなかなか見立てがいい。穣が選んだ服はわたしによく似合っていた。
 それからアクセサリーを買った。ピアスとネックレス、それに指輪だ。ピアッシングしなくてもわたしの耳にはピアスの穴が空いている。普段はしていなかったけれど、夜の街にナンパに出るときにはピアスをしていたのだ。ふさがり掛かっていたけれど、ピアスをつけることはできた。
 指輪は穣とお揃いのペアリングだ。
 「お、俺たち、ふ、夫婦、み、みたいだな」
 「あら? 夫婦じゃなかったの?」
 そう答えると、そうだったなと嬉しそうに言った。

 夕方になりディナーを摂った。ディナーと言っても、一人前1980円也の料理だった。ただ、酢の物、刺身、天ぷら、煮物、吸い物、飯、デザートが揃った結構本格的なものだった。
 それから、モーテルに入った。
 「と、途中で、み、見かけた、お、大きな、ほ、ホテルで、ご、豪華な、でぃ、ディナーを摂って、お、大きな、へ、部屋に泊まりたかったけど、ご、ごめん」
 悲しそうに下を向く。
 「いいわよ。することは同じだし、ひょっとしてホテルより広いかも、この部屋」
 同じ値段ならホテルよりモーテルの方が広く、調度も豪華なことは知っている。シャワーを浴びてベッドインした。

 夜が明けて再び穣と身体を重ねた。あれからずっと穣はコンドームをしていない。穣の放ったザーメンがわたしの身体に染み渡って行くのを感じると幸せな気持ちになる。
 シャワーを浴びて部屋に戻ると、穣がわたしに手招きした。
 「こ、これを、き、着てくれるかな?」
 持っていたバッグの中から取りだしてきたのは、真っ白な下着だ。ブラジャーはサイズぴったりだが、ショーツはかなりタイトなものだ。ペニスを押さえつける機能を期待しているようだ。
 その思惑が穣にあるのかどうかはわからないけれど、ペニスを後ろに折り曲げて履いておいた。わたしの股間からペニスが消えたように見えた。
 買って貰ったばかりの淡い若草色のワンピースを着て、化粧を施すとモーテルを出た。初めに見つけたファミレスでモーニングセットを注文して食べる。
 よくよく見ると、穣は結構可愛い。澄んだ目がいいと思った。
 「帰るには早いわね?」
 ドライブでもしたいなと考えていた。穣は頷き、ファミレスを出て車に乗った。
 「あら? どこへ行くの?」
 郊外でもなく、海辺でもない、市街地に向かっていた。穣は笑顔を見せるだけだ。
やがて、ある建物の駐車場に入っていった。
 「穣、こんなところに来て何をするつもりなの?」
 「い、いいから、な、中に入ってよ」
 建物の中に入り、受付に来意を告げる。
 「犀川様ですね。お待ちしておりました。さあ、奥へどうぞ」
 奥の個室の通され待っていると、係の女性が衣装を抱えてやってきた。その衣装とはウエディングドレスだった。
 驚くわたしに穣は、似合うのを選んでと耳打ちした。タイトなショーツを着せたのは、男であることを見破られないためだったのだ。
 ウエディングドレスを着る羽目になろうとは考えてもみなかったけれど、女の身体になっているのだから、そんな経験もいいのかなと考えてひとつずつ着ていった。
 みんな純白のウエディングドレスで、スタイルがみんな違った。その中で、ベアショルダーでAラインのものがいいなと感じた。穣もそれがいいと言った。
 「じゃ、じゃあ、こ、これで」
 わたしのウエディングドレスが決まると、穣も純白のタキシードに着替えた。それから、併設する写真館へ移動して写真を撮られた。
 「花嫁さん、もう少しリラックスして、笑顔、笑顔」
 何枚かの写真を撮り終わると、そのまま車に乗せられた。
 「どこに行くの?」
 穣は黙ってニコニコするばかりだけど、おおよそ見当は付いていた。
 「着きましたよ。どうぞ」
 そこは想像していたとおり教会だった。腕を組んで入っていくと、白髪の外国人神父が待っていた。
 わたしは式の進行をまるで映画を見ているかのように感じていた。
 「犀川穣は、前嶋香澄を妻とし、死がふたりを分かつまで愛すると誓いますか?」
 穣がわたしの顔を真正面から見つめてハイと答える。
 「前嶋香澄は、犀川穣を夫とし、死がふたりを分かつまで愛すると誓いますか?」
 わたしもはっきりとハイと答えた。いったん外していた指輪を互いに填め合う。
 「神の御前で両人が夫婦であることを宣言いたします。おめでとう」
 わたしたちは誓のキスをする。レンタルショップの女性と男性がおめでとうと拍手をした。男同士なんだけどなと思いながら、笑顔でありがとうと答えた。
 教会から写真館に戻ると、写真ができあがっていた。写真に写ったウエディングドレスのわたしはすごく嬉しそうで幸せそうに見えた。

 着替えて我が家に戻った。穣は今に結婚写真ともいうべき写真を飾り、俺たち立派な夫婦だねと言った。
 わたしは頷き、唇を合わせた。
 「ず、ずっと、け、結婚していたけど、きょ、今日を、け、結婚記念日に、し、しようよ」
 「ええ、いいわ」
 世の中には婚姻届を出さずに、実質は夫婦生活を送っているカップルもいる。わたしたちはそんなカップルと同じだろう。
 (ただ、わたしは子どもを産むことができない)
 穣がそこのところがわかっているのかどうかわからない。そのことを尋ねないわたしは卑怯だ。卑怯だけれど、わたしが子どもを産めないことを穣が理解して、わたしから去っていくことが怖いのだ。

 穣はお金を貯めて新婚旅行に行きたいと言っている。
 「新婚旅行なんて、行かなくてもいいわ。穣と一緒にいられるのなら」
 「だ、だめだよ。し、新婚旅行は、ぜ、絶対に、い、行かないと」
 決して譲ることがなかった。わたしもいけるのなら行きたいなと考えるようになっていた。

 穣のペニスが愛おしくてならない。丁寧に丁寧に舐めあげる。最近、フェラチオで射精させてそれを飲んでいる。最初はあれほどイヤだったのに、むしろそれを望むようになっている。ただ、穣は続けてやれないので、週に1回程度に留めていた。
 フェラチオでザーメンを飲んでも、直腸で穣のザーメンを受け取っても、ザーメンがわたしの身体に染み渡ることには違いがない。
 穣とセックスするたびにわたしは女になっていく。もはや後戻りはできそうもない。このまま女でいたいと思う。幸せだから。
 けれど、ペニスを切り取る、性転換手術まではしたいとは思わない。心の片隅に男に戻りたいという気持ちがわずかだけど残っているし、穣にはわたしのペニスが必要に思えるからだ。

 結婚記念日からひと月目、そろそろ戻ってくる頃だと、腕によりを掛けて夕食を作っていた。この頃には、レシピを見なくてもほとんどの料理ができるようになっていた。
 (あ、戻ってきた)
 車が入ってくる音が聞こえてきたのだ。エプロンで手を拭きながら、玄関に走る。
 「お帰りなさい、あなた」
 扉を開けると、穣の後ろに穣を凌ぐ体格の人相の悪い男が立っていた。
 「前嶋勝治、捜したぞ」
 男が穣の背中を突き飛ばして、わたしの腕をグイと掴んだ。



 前嶋の心は穣のお陰でほぼ女になったと判断した。
 穣との夫婦生活(?)に、前嶋は幸せの絶頂にあるかのように見えた。
 ここから奈落の底に落としてやる。
 その落差に前嶋はズタズタになるだろう。
 それこそがわたしの望んだことだ。
 ただ、穣が抵抗し始めたことに若干の不安が残る。
 穣を関与させなければよかったと後悔している。穣の関与なしでは前嶋の心を女性化させることはできなかったのだが・・・。



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