第2章 望まない女性化が進む


 わたしと夫との出会いは最悪だった。無理矢理あの場所に連れて行かれ、否応なく女にされてしまった。そして、好きでもない夫と結婚させられた。
 わたしにはまだやりたいことがいっぱいあった。仕事も続けたかったし、恋人もいたのに、そのすべてが奪われてしまった。



 袋の中に入っていた下着は、女物の下着だ。レース飾りの付いたショーツと下着用のキャミソールだ。
 それらの下着を目の当たりにして、与えられていたクスリが何なのか理解できた。
 「あ、あのクスリと注射は女性ホルモンなんだな? おい! 答えろ!」
 男は答えず、空になった椀とカップの載ったトレー、それに汚れたわたしの下着を持って部屋を出て行ってしまった。
 「吉良! きいらあ! おまえが勝ったんだ。この上、わたしにこんなことをしてなんになるんだ! 答えろ! 吉良!」
 答えはない。わたしの叫びは吉良には届いていないのだろう。ショーツとキャミソールを床に投げつけ、床の上に丸まって眠った。

 寒さで目が覚めた。わたしが身に着けていた薄い下着でも全裸とは違って多少は保温効果があることを知った。
 (あれを着ろと言うのか?)
 床に投げ捨てた女性用下着を見てつばを吐き出した。
 「うう、寒い」
 寒くて寒くて耐えられなくなっていた。あの下着を着させるために室温を下げたのではないかと考えた。もしそうだとしても、抗議は無駄に終わるだろう。
 どれくらい我慢しただろうか? ついには寒さに耐えられなくなってそれらの下着を手に取った。
 (薄いな。これで防寒になるんだろうか?)
 ショーツもキャミソールも向こうが透けて見えるくらい薄いのだ。
 (着てみるしかないか)
 他に選択枝はないのだ。わたしがショーツを履き、キャミソールを着るところを見て吉良が大笑いしている場面が目に浮かび、しばらくの間躊躇った。けれど寒さに負けてショーツに足を通し、キャミソールを足から通して上げて肩紐をした。首かせがあったから頭からかぶれなかったからだが、やってみてそう言う着方もあるんだと初めて知った。
 ショーツから玉袋がはみ出た。けれど、持ち上げるとショーツの中に収まった。ペニスは何の問題もなくショーツの中に収まっていた。キャミソールはブラカップ付きだ。胸が少し膨らんで見えた。情けなくて涙が出た。
 「吉良! おまえの思い通りにしてやったぞ。これで満足か!」
 返事は期待していなかった。ただ、情けなくて俯いて涙を流した。

 男がやってきた。トレーにはいつものおじやと水の入ったカップ、それにクスリが載っていた。
 男はトレーをわたしに差し出さずに注射器をわたしに見せた。
 「クスリも注射も嫌だ!」
 思わずそう叫んでいた。すると男は、肩をすくめてトレーを持って部屋を出て行った。応じなければ食料を与えないというわけだ。
 「わかった、わかった。クスリも飲む注射もする。だらか食い物を奪うのは止めてくれ。お願いだ」
 ストライキしても無駄だとわかっていたから、わたしはすぐに折れた。しかし男はやってこなかった。
 やってきたのは、恐らく次の食事時間だろう。ただ、トレーは持ってこなかった。
 「食事は? クスリも注射も受けると言ったじゃないか」
 そう訴えると、男はわたしに向かってメモを差し出した。そのメモを受け取り、読んで腹が煮えくりかえった。
 「こんなことは言えない!」
 すると男はすっと部屋から出て行ってしまった。
 「お、おい! 待て! 待ってくれ! わかった。わかったから要求に応じる。だから、食べ物をくれ!」
 何と情けないことだろう。わたしには自尊心がなくなってしまったのか。わたしは無我夢中で扉を叩き、男が戻ってくるのを待った。
 ややあって男が戻ってきた。ほっとして、メモをもう一度読み直した。
 (こんなことは言いたくなけど、背に腹は代えられない)
 メモの指示に従い、着ていたものを脱いで裸になり、男に向かって跪いた。男はビデオカメラを構えている。
 「ご主人様、ご主人様、お願いですからわたしに女性ホルモンを与えてください。わたしは女になりたいのです。どうか、ご主人様。わたしの願いを聞き入れてください」
 男はクスリとカップの載ったトレーをわたしに差し出す。わたしはクスリを口に投げ込み、カップの水で飲み下した。
 「ありがとうございます、ご主人様。ありがとうございます」
 悔しさに歯ぎしりしながらそんな言葉を継いだ。次いで男は、注射器をわたしに手渡してきた。女性ホルモンが充填された注射器だ。わたしはその注射器を受け取り、左肩をアルコールで消毒してから注射した。
 「ありがとうございます、ありがとうございます、ご主人様。これでわたしは女になることができます」
 言っているうちに悔しくて涙が溢れた。男が次のメモをわたしに差し出した。考えても仕方がない。わたしはメモに従って嘆願した。
 「ご主人様、ご主人様、ひげがある女は嫌です。脱毛をお許しください。わたしに脱毛させてください」
 そう懇願すると男に脱毛剤を渡された。メモに従い、ひげのある口周り、そして腋、陰部、すねにその脱毛剤を塗り広げた。しばらくするとひりひりとした痒みと痛みが混じったような感覚がわいてきた。
 10分たって、バケツの水で脱毛剤を洗い流すと、わたしの身体から髪の毛と眉以外の毛が消えていた。股間は羽根をむしり取られた鳥のように惨めな姿をさらしていた。
 メモはまだ続く。
 「ご主人様、下着を与えてください。男物は嫌です。かわいらしいショーツとブラジャー、キャミソールを与えてください」
 そう嘆願すると、男は新しい下着を差し出した。わたしはショーツを穿き、分厚いパッドの入ったブラジャーを着け、キャミソールに足を通した。胸が飛び出し、まるで乳房があるように見えた。
 男はビデオを止めると、部屋から出て行き、すぐにおじやの入った椀を持ってきた。おじやは作り直したのか、温め直したのか暖かかった。
 「食事はこれしかないのか?」
 尋ねると、男は頷いた。もう飽きてしまったけれど、ないよりましだ。

 1日の終わり(食事の間隔でわかる)に男はバケツとタオルを持ってきた。わたしは着ている下着を脱ぎ去って身体を拭く。垢はあまり出なくなった。
 バケツとタオルを回収すると、男は新しい下着を差し出す。同じデザインのもので、白とピンク、黒の3種類だ。それが順番に渡された。わたしはもはや抗議することなくそれらの下着を身につけた。
 ただし、手足の露出が大きいため、寒さが身に堪えた。
 「これだけじゃ寒いんだ。もっと着るものが欲しい」
 男に訴えると、少し考えてからトレーを持って部屋を出て行き、しばらくして戻ってきた。その手には想像していたものが載っていた。そして、男がメモを渡してきた。
 わたしは男に向かって跪き、メモに書かれていたとおりに訴えた。
 「ご主人様、女の子らしい服が着たいです。お願いです。女の子らしい服を与えてください」
 男がわたしに衣服を渡してきた。一番上に載っていたのは、袖の短いTシャツだ。伸びがいいので足下から穿くようにして腕を入れた。袖は腕の中程までだった。
 その下に厚手のパンティーストッキングが置かれていた。厚手なのはすね毛を隠すためだったろうが、わたしのすね毛は三日に1回は脱毛しているのでほとんど目立たない。例えすね毛があったとしても、パンティーストッキングを穿いたくらいでは男であることは隠しようがないのだがと考えながら、パンティーストッキングを手に取った。
 穿き方はわかっている。付き合っていた彼女が穿くのを見ていたからだ。けれど、見るのと実際にやるのとは違う。上手くあがらず足先が残ってしまうし、股が10センチも下の位置で止まってしまった。一度脱いで穿き直した。今度は上手く穿けた。
 スカートを手に取る。
 (なんて短いんだ!)
 腰に当てると、太ももの中程までもないのだ。これでは防寒にならない。パンティストッキングが厚手なのは、すね毛を隠すと言うよりも防寒のためだとわかった。
 スカートを穿く。ウエストがゴム製だったから、難なく穿けた。見下ろしてから、自分の姿を想像した。
 (はあ、情けない)
 今日は涙は出なかった。

 下着とパンティーストッキングは毎日着替えさせられたけれど、スカートとTシャツはずっと着たきりだ。予算がないのかもしれないと考えていた。
 クスリは毎日飲まされているけれど、注射は週1回だ。いや、1回に2本注射されることがある。違う効果を持つものだろう。
 食事はいつもおじやだ。こればかりはいくら要求しても変更がない。めんどくさいのかもしれない。

 最初の頃は食事の回数で監禁されてからの日数を数えていたけれど、注射が週1回だとわかってからは、注射の回数で日数を数えた。
 監禁されて3ヶ月ほどがたったとき、わたしの身体に女性化がはっきりとわかるようになってきた。
 元々のわたしはあまり筋肉質とも言えなかったけれど、それなりに筋肉がついていた。その筋肉は徐々にその逞しさを失い、柔らかい脂肪に置き換わっていった。
 体重は量っていないからわからないけれど、食べているのに減っていっているようだ。おじやだけではカロリーが少ないのだろう。いや、意図的にカロリーを少なくしているのかもしれない。生存できる最低限のカロリーだけが与えられているのだろう。絶対にそうだ。
 そして胸が少し膨らみ始めていた。最初の頃は、ブラジャーを着けると乳首にびりっとした痛みが走るだけだった。やがて乳首の下に消しゴムほどの堅さのしこりができ、徐々に大きくなっていった。大きくなると共に柔らかくなっていき、胸全体が膨らんだ印象となった。わたしの胸に乳房が形成されつつあるのだ。
 睾丸はやや小さくなり、ペニスは勃起しなくなっていった。
 (このままでは本当に女にされてしまう。何とかして逃げ出すことはできないものだろうか?)
 首かせは何度も何度も外そうと試みた。けれど、どう頑張っても外せなかった。男に取引を持ちかけたことがある。
 「吉良にいくらもらっているんだ? 解放してくれたら、吉良の倍だそう」
 男はニタッと笑って無視した。
 「3倍だったらどうだ? 5倍出そう」
 ニタニタ笑うばかりだった。もしかしたら、この男、金の価値がわからないのかもしれないと考えた。この男に金による懐柔は無理だと判断した。

 その翌日、男がメモを持ってきた。わたしはそのメモの指示に従った。
 「ご主人様、ウエストの太い女はイヤです。コルセットを与えてください」
 嘆願するわたしを男がビデオに収めていた。そうしていったんスイッチを切ってから、コルセットを持ってきた。
 コルセットなど初めてするから要領がわからない。四苦八苦する様子もビデオに収められていたようだ。
 30分後、わたしはコルセットを装着していた。呼吸がかなり苦しい。けれど、そこまで締めろとの命令だった。
 コルセットを締め終わると、男はビデオを止めて部屋を出て行き、すぐに戻ってきた。手にしていたのは、二つ折りにされた簡易ベッドだった。さらにマットレスを運び込み、シーツを掛けた。ずっとコンクリートの床で寝ていたから、わたしにとってはこれ以上ないというプレゼントだった。
 久しぶりに曲がりなりにもベッドと呼べるもので寝た。監禁される以前だったら、硬くてとても寝られないものだっただろうけれど、今のわたしにとってはふかふかの羽布団よりも寝心地がいいと感じていた。

 次なるメモが舞い込んだ。そのメモを見てため息が出た。けれど、生きていくためにはそのメモに従わなければならない。
 「ご主人様、化粧させてください。女は素顔で人前に出るわけにはいきません。ご主人に素顔を曝すのは、恥ずかしくてなりません。ご主人、どうかわたしに化粧道具をお与えください」
 男がすぐに化粧道具を持ってきた。鏡はコンパクトに付いているものだけだ。わたしはその小さな鏡を覗き込みながら、化粧を施した。
 ぜんぜん上手く行かなかった。パンティーストッキングを穿くのと同じで、見ると実践するのとではまったく違うのだ。
 「お願いです。ご主人様に化粧の方法を書いたマニュアルをくださるように頼んでみてください」
 男に向かって頭を下げた。これはメモに従ったのではなく、わたしが考えた言葉だ。すぐにはマニュアルは届かなかった。届いたのは1週間後のことだった。わたしはそのマニュアルを見ながら化粧に励んだ。
 なかなかうまくいかない。ベースが白くなりすぎておかしい。ちょうどいいベースを見つけるのに10日もかかってしまった。
 チークが難しい。塗りすぎて、おてもやんの様になってしまう。それに位置を定めるのがなかなかだ。
 アイシャドウも全体のバランスを考えながらやらないとびっくり狸になってしまう。ますからは結構上手く行った。
 毎日、毎日化粧をしているうちに、やがてそれなりの化粧ができるようになった。女性ホルモンによる女性化と相まって、化粧を施すとわたしは女性にしか見えないようになっていった。

 監禁されて1年あまりが経過した。わたしの身体はもはや男だった痕跡がないほど女性化していた。
 胸には立派な乳房が形成されていた。手のひらに余るくらいになっていたから、恐らくCカップにはなっているだろう。
 ウエストはコルセットのお陰もあって、64のスカートが楽々着られるようになっていた。わたしのウエイストは84あったから、マイナス20センチというわけだ。腹の肉が醜いと思っていたから、この点に関しては感謝しなければならないかもしれない。
 大きな鏡がないからはっきりとは言えないけれど、股間にあるものを除いてほとんど女になっているのは間違いなかった。
 髪の毛は肩に掛かるほどに伸びていた。入浴させて貰えなかったけれど、病院などで使われている水なしで使えるシャンプーで髪の毛はかなり綺麗になっていた。
 着せられ衣服も替わった。胸の谷間が強調されるドレスや背中が露出されたドレスを与えられた。
 わたしはそれらを嬉々として着た。今のわたしにはそれらの衣服が相応しいと考えたからだ。

 吉良は今頃課長、いや部長になっているかもしれないと思うと、悔しくて涙が出た。何としてでも脱出して、吉良に復讐しようと考えていた。けれど、首かせを外すことはかなわず、どうしようもなくて泣くしかなかった。
 そんなある日、わたしはもう一度男を利用できないかと考えるようになった。男は、わたしが着替えをしているとき、ニタニタしながらわたしの身体をジッと見つめているのだ。
 (金では釣ることができなかったけれど、もしかしてこの身体を使えば、男を味方につけられるかも)
 わたしは男を誘惑することにした。ブラジャーを着けるとき、いつもは男に背中を向けていたけれど、膨らんだ胸を見せつけるようにしてやった。男がゴクリと唾を飲むのがわかった。
 いつも距離を置いていた男が、わたしに近寄ってきて臀を撫でたりするようになっていた。
 上手く行きそうな気がしていた。

 ある日わたしは行動に出た。ちょっと派手な化粧を施して、食器を片付け始めた男の手を握り、壇蜜のような目を男に向けてみたのだ。
 男は嬉しそうにわたしの腰に手を回して、唇を重ねてきた。上手く行きそうだとほくそ笑んだ。



 編集されたビデオを見ている。このビデオを見れば、100人が100人、前嶋勝治は女になりたい男だと考えてしまうだろう。事情を知っているわたしでさえそう思ってしまうほどだから。

 前嶋の女性化は思っていたより順調に進んでいる。前嶋の母親がかなりの巨乳だったことは調べて知っていた。だから、女性ホルモンを投与された前嶋の胸がかなり大きくなるだろうことは予想していた。女性ホルモンを投与し始めて1年でCカップほどに育ったことは予想していたとおりだ。
 コルセットの効果でウエストも細くなり、ヒップも大きく張って、ほぼ女性体型となっている。股間にあるものを切り取れば、男であるとは誰も思わないだろう。
 両手で胸を持ち上げ、満悦している前嶋を見ていると、本当に女になりたかったのではないかと思った。

 濃厚な化粧を施し、胸を強調するドレスを着て誘惑しようとしたことには驚いた。ただ、それは誘惑して懐柔し、脱出しようと考えているからだとわかり、納得した。
 しかし、いかにして前嶋に女としての喜びを覚えさせようかと苦慮していたわたしにとって、この前嶋の行動は好都合だった。
 ただ本音を言えば、無理矢理犯す方が前嶋にとって屈辱だと思うし、わたしの望みでもあった。しかし、わたしが行動を起こす前に前嶋自らそんな行動を取り始めたので時機を逸したと言うわけだ。


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