第10章 女は楽しい


 ボクが女になってしまったのは、沢口晶の復讐だというのはどうもおかしいと思う。大竹ではなくて何故ボクなのかという点だ。
 確かにボクが最初に彼女を犯したけれど、あのときの彼女はアルコールのせいで完全に意識を失っていたから、どちらが最初に犯したかなんてわからなかったはずだ。
 それに、ボクを女にしたことが復讐になっていない。女にした上で多数の男たちに輪姦させ屈辱を与えるというならばともかく、ボクは女を楽しんでいる。
 これが彼女の復讐というのなら、サンキューと礼を言いたいところだ。彼女がやったのなら、きっと悔しがることだろう。

 携帯が鳴っている。母からだった。
 《もしもし、正美?》
 「ああ、どうしたの?」
 《どうしたのはないでしょう? 元に戻ってないの?》
 「戻ってたら女言葉は使わないでしょう?」
 《心配しているのにそんな言い方はないでしょう?》
 「あ、ごめんなさい」
 《女になっていいこともあるみたいね?》
 「何が?」
 《ずいぶん素直になったわ》
 そうかもしれないと思った。
 《ひとりで大丈夫ね?》
 「うん。今のところは何とかやってる。お父さんには?」
 《まだ内緒にしてるわ》
 「酒の相手がいなくなって悲しむかな?」
 《そんなの、別に娘だっていいでしょう?》
 「そこは男と女の感覚の違いよ。息子と飲むのがいいんだよ」
 《そんなものかしら?》
 「お母さんだって、息子と買い物に行くより、娘と行った方がいいでしょう?」
 《まあ、そうね。ともかく、元に戻っても戻らなくても、連絡だけは絶やさないようにね》
 「わかったわ」
 親とはいいものだと思う。両親のためには元に戻った方が良さそうだと思う。
 (イヤ、母はボクが女の方がいいのかな?)
 そんな気もする。もしそうなら、母の期待に沿えそうだ。昨日の朝、女になったのならば、そうは思わないかもしれないけれど、パラレルワールドの中で1年以上女として暮らし、女の方がいいと思っていたからだ。
 そう思うと、今着ている母のださい服が気になった。見えないけれど、下着もだ。そこでデパートに出かけていった。
 パラレルワールドの中では、女装しているのがばれないかと冷や冷やしたけれど、今のボクは女だ。だから、どんな格好をしていても堂々としていられる。

 まっすぐシューズショップに行ってストラップサンダルを買った。次いで下着売り場に行き、サイズを測って貰ってブラジャーを買い、ペアのショーツも手に入れた。パンストも買った。
 それから衣料品売り場に行ってブラ付きキャミソールと細かいヒダの入ったスカートを買った。もちろんミニ丈のものだ。さらに今流行の2ウエイギャザースカートも買った。
 「これ、着て帰りたいんですけど、いいですか?」
 試着室を借りて着替える。なかなかいい。外に出た。スウスウして気持ちがいい。ボクはブラジャーはおろか、ショーツも身に着けていない。2ウエイギャザースカートだけなのだ。
 (誰か気づくかしら? ああ、興奮する)
 パスタ店に寄って昼食を取ったあと、思いついてパステルピンクのベビードールを買った。
 (大竹のやつ、喜ぶだろうな)
 今晩もきっと来ると予想しているのだ。それから化粧品を買い足し、待ちの中をぶらぶらしてからアパートに戻った。

 ノーパン、ノーブラに誰も気づいてくれなかったことが不満だ。
 (まだ4時過ぎか。あと2時間、何をして過ごそう)
 買ってきたものをタンスに収めているとチャイムが鳴った。
 (誰だろう?)
 ドアを開けると、大竹が立っていた。
 「あら? 仕事は?」
 「今日は年休を取って朝からずっと沢口のことを調べていたんだ」
 靴を脱いでリビングに向かった。ノーパン、ノーブラに気づくかなと思いながら大竹の後を追った。
 「年休なんて取ってもいいの? もう残ってなかったんじゃないの?」
 「ラスト1日だよ。あとは忌引きだな」
 「忌引きなんて取れないでしょう?」
 「祖父さんも祖母さんも殺しちゃったし、今度は親父に死んで貰うしかないな」
 「リキのお父さん、殺しても死なないでしょう?」
 高速で事故を起こして車は全損になったのに、かすり傷だけで済んだのだ。
 「そうだな」
 「で? 沢口晶は見つかったの?」
 話しながらお茶の準備をする。
 「見つかったよ」
 「どうしてた?」
 「どうしてたと思う?」
 「焦らさないで言ってよ」
 湯飲みに入れたお茶を差し出す。大竹はひとくち啜ってから答えた。
 「結婚して幸せにしてたよ」
 「へえ」
 「結婚して4年目というのに子どもが3人いた」
 「じゃあ、彼女である可能性は?」
 「ゼロだろうな」
 やっぱり沢口じゃなかった。
 「じゃあ、誰かしら? こんなことをしたのは?」
 「調べなきゃいけないのか?」
 「えっ!?」
 「つまり元に戻りたいのかってこと」
 大竹の顔を見た。
 「このまま女でいてくれないか? 俺のために」
 「うーん、女でいてもいいけど、相手がリキじゃねえ」
 どうしてだよと大竹は不満そうに言った。
 「リキみたいに女癖の悪い男と一緒になりたい女がいると思うの?」
 「心を改めて、おまえ一筋に尽くす。駄目か?」
 「信用できないわ」
 「正美い」
 ボクに抱きついてきた。肉体関係で押そうとしていることはわかっていた。
 「元に戻るかもしれないけど、元に戻るまでの間は付き合ってあげるわ」
 「ヤッホー!」
 唇を重ねた。

 ベッドの上で両足を大竹の腰に絡めて突かれていた。
 「気持ちいい。ああ、もっと突いて!」
 ボクの顔をにやけた顔で見ながら突き続けている大竹の背中に爪を立てる。
 (あれ? 何だ?)
 視界の端に何かが動いたような気がした。その方向に目をやると、ベッドルームの入り口に母が立っていた。
 「昨日女になったばかりなのに、もう男を引っ張り込むなんて、なんて子なの?」
 怒ったような呆れたような顔でそう言った。そんな声に大竹は慌ててボクから離れた。
 「大竹君なの?」
 相手が大竹と知って、母の表情がさらに歪んだ。
 「イモの煮っ転がしとうま煮を持ってきたから、温めて食べなさい。ふたり分はあるから、大竹君も一緒にね」
 当てつけがましくそう言って出て行った。
 「鍵、掛けなかったのか?」
 「掛け忘れたみたいね」
 「まずったなあ」
 「いいわよ。わたし達、いい大人なんだから」
 「そうれもそうか。しっかし、白けちゃったな」
 萎えてしまっていた。皺の寄ったコンドームが情けない。しごいて勃起させようとする大竹をボクは制した。
 「腹ごしらえをしてからにしましょう」
 ボクはギャザースカートだけを着てキッチンに立った。おかずはあるのでやることは米を研いで炊くことだ。
 (冷や奴くらい追加しとこう)
 飯が炊けるまでの間に一発やれそうだなと思ったけれど、ぐっと我慢した。楽しみは後回しにいた方がずっと楽しくなる。
 「正美! 携帯が鳴ってるぞ!!」
 トランクス一丁の大竹がボクの携帯を差し出す。母からだった。
 「もしもし」
 《正美。コンドームはしてるでしょうね?》
 いつも通り単刀直入だ。
 「してるわよ。大人の常識でしょう?」
 《そう。あなた、子どもじゃないんだから、何をしようと、お母さん、何も言わないけど、避妊だけはちゃんとするのよ》
 「わかってるわよ」
 《それとね》
 母は声を落とした。
 《どうして大竹君なの?》
 「だって、身近にいる男はリキしかいないでしょう?」
 聞き耳を立てていた大竹が、俺のことを話しているのかと自分のことを指さした。ボクは頷く。
 《どうするつもりなの?》
 「どうするって?」
 《ずっと女のままでいることになったとき、大竹君と結婚するなんてこと、言わないでしょうね?》
 「まさか」
 《結婚するつもりはないのね?》
 「当たり前でしょう?」
 《それを聞いて安心したわ》
 携帯が切れた。大竹は、やっぱり母にも信用がないようだ。
 「なんだって?」
 「ちゃんと避妊しなさいって」
 「理解あんだな。正美のお袋さんは」
 「警察に面倒を掛けなければね」
 「あのことはよかったのかな?」
 もちろんレイプのことだ。
 「お母さん、知らないもの」
 「あ、そうか。じゃあ、知られなかったら、何をやってもいいってことか?」
 「いいわけないでしょう? もうあんなことは二度としないわよ」
 「そうだな。・・飯はまだか?」
 「まだよ」
 「できる前に?」
 スカートの上からお尻を触る。
 「駄目!」
 大竹の手を叩き、ボクは冷や奴用に豆腐を切った。

 炊きあがった飯を茶碗につぎ、料理を並べて大竹と向かい合って食べる。
 「なんか、新婚さんみたいだな?」
 「そうね」
 逆立ちしても、そんな日は来ないだろう。
 「美味いねえ。この煮っ転がし、最高!」
 確かにそうだと思う。料理はできるようになっているけれど、こんな味は出せない。母に料理を習わないといけないなと思った。

 美味い、美味いと言いながら、大竹はあまり味わう様子もなくがつがつと食べてしまった。夕食がすんだらすぐにベッドに行くつもりらしい。
 「片付けをするから、先にシャワーを浴びて」
 「シャワー? まあ、いいけど。正美、女になって変わったな?」
 「どこがよ」
 「以前だったら、片付けなんかしなかったぜ」
 ボクは肩をすくめて、食器を洗い始めた。

 烏の行水とは大竹のことだ。どこをどう洗ったら、そんなに早く出てこられるんだろうかと思う。
 「ちゃんと洗った?」
 「洗ったさ」
 「じゃあ、わたしもシャワーを浴びてくる」
 ショーツをベビードールを持ってバスルームに行く。ギャザースカートは洗濯することにした。
 身体を入念に洗い、長い髪の毛も洗ってトリートメントしておいた。
 「正美! まだか?」
 ドライヤーで髪の毛を乾かしていると大竹が顔を出した。
 「もう少しよ」
 「おっ! すげえの着てるな」
 「気に入った?」
 「いいね、いいね」
 涎を流さんばかりにして目を爛々としている。トランクスの前が盛り上がっていた。

 ドライヤーを定位置に戻すやいなや、大竹がボクに抱きついてきた。
 「ベッドに行きましょう。ベッドに」
 少し不満げな表情を見せたけれど、ボクをお姫様だっこしてベッドルームに運んでいった。
 キスが好きだ。体中を這い回る舌先の感触が好きだ。クンニされるのが好きだ。もっと好きなのは、フェラチオすることだ。ボクの舌や唇でペニスが反応するのが面白い。
 「お、おい! どうするつもりだ!? 出てしまうぞ!」
 「うっふっふ」
 反り返り膨らんできた。さらにしごくとボクのくちの中に迸り出てきた。どくどくどくんと。
 一滴も残さないように飲み込み、最後はペニスに付いた粘液を舐め取っていく。大竹の顔を見ると、嬉しそうな顔をしていた。今は女でも元は男のボクだから、フェラチオされて出したものを飲んで貰うとすごく嬉しいのがわかっているのだ。
 (美味しいから飲むのが好きなんだ)
 それも理由のひとつだ。
 (ボクは一度射精すると当分駄目だったけど、大竹はすぐ二度目ができるものね)
 這い上がって大竹の乳首を舐めながら、萎えてしまったものをユルユルと撫でているとムクムク起きてきた。
 「リキ、コンドーム、棚から取って」
 「コンドームなんてしなきゃいけないのか?」
 「当たり前でしょう? 妊娠したら困るもの」
 「妊娠するのか?」
 「するに決まってるでしょう?」
 「男から女に変わったのに?」
 「そんなこと関係ないわ。ちゃんとした女なんだから」
 「どうしてちゃんとした女になってるってわかるんだ?」
 パラレルワールドで妊娠・出産したからわかるのだけれど、そんなことを言っても信じてもらえないだろう。
 「ちゃんとした女は生理があるだろう? 正美は女になったばかりで、まだ生理がないだろう?」
 「まあ、そうだけど・・・」
 「てことは、生理が始まる前の子どもだってことだよな」
 ムッと来た。
 「そうかもしれないけど、妊娠しないって言う保証もないわ」
 「・・・そうか」
 「生理が来れば、それを基準にしていつ妊娠するかわかるでしょう? だから、生理が来て、安全日がわかったら生でさせてあげる」
 「生理が来なかったら?」
 「そのときも生でさせてあげるけど、それまでは駄目。わかった?」
 大竹は仕方がないなとブツブツ言いながらコンドームをボクに手渡した。手早くコンドームを付けてやると、大竹の上に乗ってボクの中に導いた。
 「騎乗位。いいねえ。ベビードールを脱げよ」
 全裸になって、腰を上下させる。
 「騎乗位は胸が大きい方がいいねえ。ユサユサ。最高だ」
 そう言いながら下から突き上げてきた。ボクもそれに合わせて腰を上下させる。ボクを見上げている大竹を見る。一瞬大竹を犯しているような錯覚に捕らわれていた。

 週休二日の会社に勤めているから時間はたっぷりあった。以前大竹と面白半分に集めた性技48手をひとつひとつ試していった。
 こんなことはよほど好き者の女が相手でなければできないことだ。その好き者の女にボクがなっているからことは簡単だったのだ。

 日曜日の昼前、やり過ぎて膣がすり切れそうだと感じ、倦怠感でくたくたになっていたころ、チャイムが鳴った。
 「正美! 開けて!!」
 母だった。



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