第9章 胸ができた


 翌日も、その翌日もペニスバンド相手にフェラチオさせられ、貫かれて行かされたけれど、豊胸の話は出なかった。
 (あれで立ち消えだな。結局はお金だ。お金がなければ何もできない)
 人工乳房を接着して、今日も主婦業に励んだ。

 仕事を終えて戻ってきた純が、その手に紙袋をぶら下げていた。
 「お帰り。それ、何?」
 「内緒。あとで説明するわ」
 何だろうと思いながら、夕食を並べていった。

 夕食がすんでも袋の中身について説明はなかった。このところの定めとして、人工乳房を外してシャワーを浴び、ネグリジェを着てベッドルームに行くと、純が袋の中から妙なものを取りだしていた。
 「これを着けてみて」
 「何なの? これは」
 それはカップレスのブラジャーのようなものだった。
 「いいから、早く着けなさい!」
 怒ったように言われて、そのブラジャーもどきを身に着けた。
 「凄くきついんだけど?」
 「それでいいの」
 純は袋の中から、注射器や点滴に使う針などを取りだしている。
 「何をするつもりなの?」
 「簡易豊胸術よ」
 「簡易豊胸術? どうするの?」
 「黙ってそこに寝ていたらわかるわ」
 ボクをベッドの上に寝かせると、右の乳首の内側あたりを茶色の液体で消毒して点滴の針を刺した。
 「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
 注射器で透明な液体を注入し始めた。
 「い、痛い!」
 「我慢、我慢」
 小さな注射器で5回注入された。そうすると、胸がふんわり膨らんでいた。
 「ふむ。Aカップって言うところね。じゃあ、左もやりましょう」
 左も膨らまされた。
 「何を入れたの?」
 「生理食塩水って言って、血液と同じ塩分濃度の水よ。塩分が濃くても薄くても身体に害になるんだけど、これなら大丈夫なの」
 「このブラみたいなもの、もう取ってもいい? 苦しくて」
 圧迫感が酷くて息苦しいのだ。
 「だめ、だめ。それを取ると、せっかく膨らんでいるのが、周りに広がって縮んじゃうのよ」
 「このままなの?」
 泣き出しそうだけれど、許してくれそうもない。
 「これをしている限りは膨らんだままなのね?」
 苦しみに耐えているのだ。それを期待していた。けれど、答えは違っていた。
 「違うの。身体の中に吸収されてだんだん縮んでくると思うわ」
 「なんだ。いつまでもつの?」
 「さあ。せいぜい2、3日かな?」
 「たったそれだけ?」
 痛くて苦しい思いをしているのに、2、3日だなんてとガッカリした。
 「じゃあ、始めましょうか?」
 注射器などを片付けた純がボクを抱き寄せ、膨らんだ胸を揉んだ。妙な気分だった。膨らんでいる上に、乳首を舐めたり噛まれたりすると感じる。これはいい、我慢した甲斐があったと思った。

 朝目覚めてみると、膨らみは半分以下になっていた。さらに1日たつと、完全に元に戻っていた。
 「二日間の寿命か。ちょっと大変ね」
 そう言いながら、純はボクの胸に生理食塩水を注入した。入れるときの痛みは初日ほどではなかったけれど、量を増やしたらしく、緊満感は強かった。
 2日おきに生理食塩水を注入された。少しずつ量が増やされていき、ついには1回に250ml注入できるようになり、胸もCカップほどに膨らんだ。
 大量に入れれば入れるほど、数日はもつようになった。
 「せめて1週間もてばいいのにね」
 「贅沢は言わないの。ただみたいなものなんだから」
 豊胸術を受ければ、5、60万はかかるのだ。それからすれば安いものだ。
 「2日おきに少しずつ補給しておけば、膨らみが維持されるんじゃないの?」
 「そうしましょう」
 毎日補充すれば、Cカップが維持されるけれど、痛みがあるから純の言い分に従った。

 Cカップに膨らませた翌日は、まだCカップ近くの膨らみが残っていた。しかも、カップレスブラを外してもすぐには縮まらなくなっていた。だから、襟ぐりが開いた服を着て外出することができた。
 純から借りた服を着て外出してみた。開放感があっていいなと思った。こんな簡易豊胸術じゃなくて、本当に豊胸してもいいと思い始めていた。
 (そのためには、お金を稼がなきゃ)
 そこで、そのまま近くにあるクリニックに健康診断書を取りに行った。健康診断書は保険を使わないから、名前や住所を自己申告のまま書いてくれる。それに、上半身は診察しても下半身を診察することはない。だから、今のボクにとっては好都合だ。
 梓の名前で健康診断書を作ってもらい、履歴書も梓の生年月日と学歴を記入して、あるスーパーのレジ係として就職することができた。もちろんパートだ。時給800円で、1日5時間労働。月25日ほどの勤務で10万になった。
 その中から実家に3万円を仕送りし、2万を食費として純に渡して、残りは貯金した。
 「食費なんていらないわよ。そう言う約束になってるじゃない?」
 「それじゃあ気が済まないから」
 女装して、レズのタチである純に貫かれて行かされてはいるけれど、すべてを純に依存するのには男の自尊心が許さなかったのだ。
 ロッカールームで着替えるとき、胸があるからぜんぜん心配がない。同僚たちのセミヌードを見ても、純のヌードでなれてしまっているからまったく動じなくなっていた。
 真面目に働いたら正社員にしてくれるという店長の言葉を信じて、一生懸命に働いている。

 純と暮らし始めて3ヶ月がたった。伸ばし続けている髪の毛は肩まで届くようになっていて、女らしいヘヤスタイルを楽しめるようになっていた。
 締め付け続けているウエストニッパーのお陰で、ウエストは60近くになった。胸は相変わらずCカップだけれど、最近乳首の下にしこりがあるような気がする。
 (脂肪が付いて身体が丸くなったような気もするし・・・)
 同僚からは少し太ったねと言われるけれど、体重はあまり変わっていない。
 (筋肉も落ちた気がする。あれも小さくなってきているし、吐き出すザーメンも薄くなっている。もしかして・・・・)
 簡易豊胸に使っている生理食塩水に女性ホルモンが混入されているのではないかと考えている。そうでなければ、ボクの身体の変化は説明できないのだ。
 そう思うけれど、ボクは黙っていた。純との同居を続けるには胸があった方がいいと思うし、もし別れることになったら、切り取ればすむことだからだ。

 7月に入った最初の月曜日、店休日で同僚と3人で映画を見に行った。恋愛ものなど、以前は見たくもないと思っていたけれど、映画が終わる頃には涙で顔がくしゃくしゃになっていた。
 トイレで化粧直しをしてから、居酒屋にでも繰り出そうと言うことになった。純には遅くなることは伝えてあった。
 「いいわよ。たまには同僚と付き合わないとね」
 純はそう言って笑顔で送り出してくれたのだ。どこにしようかななどと話ながら歩いていると、スーツ姿の男が道を遮った。3人で一斉に男を睨み付けた。ところがボクはすぐに顔を伏せることになった。
 「加藤じゃないのか?」
 ボクの顔を覗き込んでくる。上目遣いに見上げるその男は、横山だった。
 「やっぱり加藤じゃないか。可愛くなったから見違えたぞ」
 同僚のひとりが誰なのとボクに尋ねた。
 「以前働いていた職場の先輩よ」
 ボクは小声で答えた。
 「久しぶりだな。ちょっと付き合えよ」
 付き合わないというと、同僚たちにボクの秘密をばらすと言い出しかねないと思った。
 「わたしたち、ふたりで行くから、梓は彼とご一緒にどうぞ」
 ボクと横山の雰囲気がおかしいのを、横山が昔付き合っていた彼だと勘違いしたのだろう、ふたりはボクに手を振ると足早に去っていった。
 「なかなか気が利く連中じゃないか。何が喰いたい? 奢るぜ」
 ボクの腕を取り、強引に引っ張っていきながら尋ねた。
 「ステーキ」
 「ステーキ? ちっ! 贅沢言いやがって。まあ、いい。奢ってやるさ」
 ステーキなどと言ったら、絶対に別のものにしろと言うと思ったのに、あっけなくオーケーを出したので、ちょっとビックリしてしまった。
 (きっと安いところだろうな)
 そう思っていたのに、かなり高級なステーキハウスにボクを連れて行った。
 「大丈夫なの?」
 「ドンと任せろや」
 胸を張って答えた。横山はメニューを眺め、ワインと1人前が2万円もするセットを頼んでいる。2万円と言ってもその店では下から2番目だった。
 「俺たちの再会に」
 横山はグラスを上げた。どういうつもりなんだろうかと訝りながらグラスを合わせた。
 「しっかし、綺麗になったな」
 ボクに笑顔を向けてくる。
 「驚かないの?」
 「驚かないさ。おまえは女顔だったし、背が低かったから、もしかしてと思っていたんだよ」
 「あなたが裏で糸を引いていたんじゃないの?」
 これは最初から疑っていたことだ。
 「俺が? まさか。何で俺がそんなことをしなければならないんだよ」
 怒ったように言われると、違っているのかなと思ってしまう。確かにこんなことをしたって、何の得にもならない。
 「おお、来た。来た。このパフォーマンスが堪らないんだよな」
 コックがやってきて、講釈を垂れたあと、肉や野菜を焼いてボクたちの前に差し出す。その他にサラダとスープも運ばれてきた。
 肉は美味しかったけれど、ガーリックトーストは辛くて口に合わなかった。
 「満足、満足」
 横山は、腹をパンパンと叩いた。
 「お金はあるの?」
 恐る恐る尋ねてみた。
 「男に使う金はないが、女に使う金はたんまりあるんだよ」
 そう答えてにんまりと笑った。
 「さあ、行くぜ」
 横山は席を立った。
 「どこに?」
 「どこにって、決まってるだろう? ホテルだよ、ラブホテル」
 回りの席に聞こえるように答え、ボクは顔を赤くした。
 「冗談は止めてよ」
 「冗談と坊さんの髪はゆったことがない」
 真顔で答えて、会計に向かった。本気なんだろうかと思いながら横山のあとを追った。

 横山は真っ直ぐにラブホテルに向かった。
 「横山さん!」
 「何だよ。ステーキ喰わしてやったんだから、やらせてくれてもいいだろう?」
 「そんなつもりで言ったんじゃ・・・」
 「なら、付いてこなけりゃいいんだよ。そうだろう?」
 男だとばらされるのが怖かったなどと答えても、恐らくそんなことをするもんかと言われるに違いなかった。ボクは黙り込むしかなかった。
 「やれるんだろう?」
 ボクは黙ったまま横山の顔を上目遣いに見た。
 「美どりが紗也伽から聞いたって言ってたぞ。おまえが男と関係を持っていたってな」
 知られていたんじゃ仕方がなかった。ボクは横山についてラブホテルに入っていった。

 ラブホテルの一室に入ると、横山はボクを抱きしめて唇を重ねてきた。躊躇いもなく男とキスできるようになってしまったなと自分自身に呆れながら横山の舌を吸った。
 着ていたものが脱がされていき、ついにはショーツ一枚になった。横山はボクを抱き上げると、ベッドの上に優しく降ろし、ボクを見つめながら服を脱いでいった。
 (うひゃあ、あまり太くはないけど、長いなあ)
 まだ半立ちの横山のペニスに目を奪われた。横山は跪くと、ボクのショーツをさっと降ろして、ボクのペニスをぱくりと咥えた。
 純と同居し始めてフェラチオされたことがなかった。久しぶりの感触に酔っていた。
 (だけど、荒々しいなあ)
 まるでフェラチオでボクを行かせようとしているみたいに激しいのだ。でも、行く前に疲れたみたいでボクのペニスから口を離した。
 腹に付くくらいに勃起してしまった横山のペニスを握り、舌を這わせ始めた。
 「おおっ! 加藤、おまえ、上手いな」
 「加藤は止めてよ」
 「じゃあ、なんて呼んだらいいんだ?」
 「梓って呼んで」
 「梓? ああ、そうだったな」
 紗也伽から聞いているのだろうと理解した。一生懸命舌を使い、しゃぶっていると、先走り汁が漏れ出てくるようになった。
 「よし、もう充分だ」
 ボクに仰向けになるように命じて、横山はコンドームを着けた。膝を抱え上げられて、そして貫かれた。
 (ああ、気持ちがいいっ!)
 ボクは横山に素直に付いてきた理由が今わかった。純が使う作り物のペニスではなく、本物の欲していたからだ。
 硬いようで柔らかく、柔らかいようで硬い、本物のペニスに偽物は敵わない。
 「ああ、いい。ああ、いい。ああ、素敵よ。もっと、もっと、突いてえ」
 ボクは呻く。
 「梓、おまえ、淫乱な女になってしまったな」
 にやにやしながら、横山は腰を打ち付け続けた。20センチ近くあるペニスで、引抜き押し込んでくる。そのストロークの長さは今まで経験したことがなかった。さらに前立腺あたりを丁寧に擦る。気が狂いそうに気持ちがいい。
 横山が行くまでに何度行ったかしれない。
 (横山、凄いや)
 感心したけれど、それだけじゃなかった。終わったあともボクに挿入したままで、枕元に置いてあったタバコを吸い始めたのだ。
 「その胸はいつ大きくしたんだ?」
 「えっ? ああ、4月に」
 簡易豊胸だけどそう答えておいた。
 「Cくらいだな。もっと大きくすればいいのに」
 これくらいでいいわよと答えると、横山は少し不満げな表情を見せた。
 「さて、そろそろ始めようか?」
 ゆっくりとタバコを吸い終わると、その火を揉み消してから再び腰を動かし始めた。
 「もうできるの?」
 「ったりまえだろう? できなきゃヒモなんてやれないよ」
 信じられなかった。挿入したまま体位が変えられ、突き続けられた。再びボクは快楽のルツボの中で狂わされた。

 横山と共にホテルを出たとき、午後11時を回っていた。腰に力が入らず、横山にしがみついてよたよたと歩いた。
 「梓、気に入ったぜ。連絡するから、出てこいよ」
 ボクは思わず頷いていた。タクシーで純のマンション近くまで送ってもらって部屋に上がった。
 「ただいま。遅くなっちゃった」
 横山とホテルに行ってきたことを悟られないように、できるだけ明るく振る舞う。
 「お帰り。ご機嫌ね。シャワーを浴びてきなさいよ」
 「うん。ちょっと待ってね」
 横山の匂いを消すためには、いち早くシャワーを浴びる必要がある。そそくさと浴室に入った。

 純に愛撫されている。時々探るような目をボクに向けてくる。疑っているのが、如実に伝わってくる。
 「梓!」
 「は、はい」
 「浮気しちゃ、だめよ。いいわね?」
 「わかってるわ」
 これは警告かもしれないと感じた。



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