第6章 女の復讐は恐いぞ


 バッグに入れた携帯が鳴っている。ボクはのろのろと起き上がり、バッグを開いて携帯を取った。紗也伽からだった。
 「もしもし」
 《梓、どこにいるの?》
 「どこかホテルらしい部屋の中よ」
 《わたしもよ。電話に611って書いてあるわ。梓の方は?》
 「電話に? ちょっと待って」
 ホテルの電話を見ると、612と書いてあった。
 《じゃあ、隣ね。そっちに行くわ》
 わかったわと答えて自分の姿を見た。ふたりに犯られたとき、ブラは外されていなかったはずなのに、今は人工乳房だけが胸にくっついた裸だった。
 いくら肉体関係があるとは言え、このままでは恥ずかしい。浴室に入ってバスタオルを取り出して、胸の高さに巻いたときドアがノックされた。
 ドアを開くと、コートを羽織り両手にバッグと着ていたものを抱えた紗也伽が辺りを窺いながら入ってきた。
 「梓、あなたも犯られたんでしょう?」
 ボクは小さく頷いた。あなたもと言うことは、もちろん紗也伽も犯られたのだ。
 「ったく。男も女も見境がないんだから」
 ベッドの上に持っていたものをどさっと投げ捨てた。
 「ああ、頭が痛い。あいつら、何か薬をわたしたちに盛ったみたいね?」
 「そうみたいね」
 ボクも頭がガンガンしていた。
 「梓、あなた、大丈夫? 男に犯されて」
 「え? ええ」
 「後でわたしの部屋に来た男、新納って言ったかな? あいつが、梓がすっごくよがってたって言ってたけど、本当なの?」
 ボクは顔を赤くして下を向くしかなかった。
 「梓、あなた、経験があるの?」
 「そ、そんなの、ないわよ」
 「男って、経験がなくても感じるものなのね」
 「そんなこと、知らないわよ。それより、あいつらのこと許せないわ。会社はわかってるんでしょう? 薬を盛られてレイプされたって、会社に訴えましょうよ」
 「そのことだけどね。わたしも頭に来たから、目が覚めてすぐに純に電話を入れたの。わたしの話を聞いて純も頭に来て、一緒に二次会に行った高橋って男に電話を入れてくれたの。ところがね。村田と新納のふたり以外は××商事に勤めているらしいんだけど、あのふたりは違うって言うのよ」
 「どう言うこと?」
 「あのふたりとはどこかのスナックで一緒になって、看護婦と合コンやるんだけど来ないかって誘われただけらしいのよ」
 「じゃあ、会社名を利用されたってことなの?」
 「そう言うことらしいわ。あのふたり、どうも常習犯みたいな気がするのよ。有名な会社の人間を誘い込んで、その会社の人間になりすまして、薬を使ってレイプするって言う」
 「卑劣なやつらね」
 「ホント、頭に来るけど、どこの誰かわからないんじゃ復讐しようがないわ。野良犬に噛まれたと考えるしかないわね」
 どこかで出会ったら、ぎゃふんと言わせてやろうと紗也伽と話した。
 「シャワーを浴びて出ましょう」
 「紗也伽、先にどうぞ」
 「一緒にシャワーしましょうよ」
 手を引かれて一緒に浴室に入った。浴室の中でシャワーを浴びながらボクたちはキスをして、そして愛し合った。昨夜の出来事を吹き飛ばすように。

 いつもの生活に戻った。少し違ったのは、裸にされるまで男だと見破られなかったという自信から、外出が多くなったことだろう。
 例のウエストニッパー機能の付いたブラをして、ヒップを大きく見せるガードルを穿いて出掛けた。胸の谷間が少しできるので、襟ぐりの開いた服を着ることもある。
 町に出ると、たまにナンパされることもある。こいつ馬鹿だなあと思いながら、お茶くらいは付き合ってやっている。
 2月に入ってすぐのある日のこと、近くのスーパーに買い出しに行っていると、ポンと肩を叩かれた。振り向いて驚いた。村田が立っていたのだ。
 「いよう。奇遇だね。いつぞやのオカマちゃんじゃないか」
 耳元で周りの人たちに聞かれないようにして囁いた。ボクは無視して歩き始めた。
 「おい、おい。邪険にするじゃないか。俺と梓の仲なのに」
 ボクは振り向いて村田を睨み付けた。
 「そんな顔も可愛いな。なあ、ちょっと付き合ってくれよ」
 「お断りです!」
 はっきりと答え、再び買い物カートを押して歩き始めた。
 「いいんだな? こいつはオカマです。女装した男ですって叫んでも」
 ニタリとしてボクに告げた。
 「それに、あののっぽ姉ちゃんと一緒に暮らしてるって言ってたよな。女装したオカマと暮らしてるってご近所の皆さんに言いふらしてもいいんだな?」
 ボクはともかく、紗也伽に迷惑を掛けるわけにはいかなかった。
 「付き合うってどうすればいいのよ?」
 村田はフフッと笑って付いてくるようにボクに命じた。

 会計を終えた食料品の入った袋をぶら下げて、駐車場に停めてあったスカイラインに乗った。
 「古いけど馬力があるんだぜ」
 旧式なのを恥ずかしがるように言った。ボクにとってはそんなことはどうでもよかった。この先に起こることがボクを憂鬱にさせていたのだ。
 5分ほど走って、村田は目にしたモーテルに車を入れた。
 「じゃあ、この前できなかったことをやって貰おうかな?」
 部屋に入ると、ベッドの端に腰掛けて両足を開いてボクに命じた。
 「何をやって貰うって言うのよ?」
 ボクは惚けて尋ねた。
 「わかってるだろう? フェラだよ。フェラチオ。早くやってくれよ」
 「後ろを使うだけじゃ駄目なの?」
 「だめだめ。・・まさか、フェラをやったことがないなんて言わないだろうな?」
 ボクは黙り込む。
 「ホントかよ」
 言いながら、信じてない様子だ。
 「とにかくやれよ。男が感じるところはわかるだろう? まずは適当に舐めてみろよ。悪かったら、俺がコーチしてやる。さあ」
 仕方なくボクは村田の両足の間に跪いた。ボクは自分は女だと思いこむことにした。そうしなければ、男なのに男のものを舐めるなんてことはできない。
 「ベルトを緩めてズボンとトランクスを降ろす。そうだ」
 勃起した村田のペニスが出てきた。こんなふうにして男のペニスを見るのは初めてだ。不思議な光景だなと思った。プンとイヤな臭いが鼻を突いた。
 「さあ、両手で握って舐めてみろよ」
 紗也伽もボクのこんなものを口の中に入れてくれてるんだなと考えながら、村田のペニスを舐めた。
 「そこだ、そこだ。わかってるじゃないか。さすが男だな」
 男だと言われて、ボクの脳裏から消し去っていた自尊心がガラガラと崩れていくのを感じた。
 「咥えて唇でシャフトを擦ってくれ。その時にだな。上あごのくぼみにあるざらざらしたところで亀頭を擦るんだよ。そうすれば完璧だ」
 言われた通りにすると、いいねと村田は呻き声を上げた。
 「おお、何か、行きそうだ」
 ぐぐっと持ち上がってきて膨らんできたのを感じた。口を離そうとすると、頭を押さえつけられた。
 「いいか、行くぞ。出すときには息を止めていろよ。そうしないと、気管に入って咽せることになるぞ」
 腰を前後に振り始め、そして呻いた。生暖かいものがドクドクと注ぎ込まれてきた。
 「全部飲めよ。吐き出すな!」
 ウイッグごとボクの髪の毛を掴み、ボクの口の中に押し込んだまま吐き出し続けた。飲み込もうとしたけれど、身体が拒否した。村田の放ったザーメンがボクの口から溢れ出て床の上に落ちた。
 そのことには何も言わず、村田はベッドの上にばたりと倒れ込んだ。
 「男と女でそんなに変わるもんじゃないな。フェラチオは」
 そう言い、しばらく天井を見ていた。このまま終わりになってくれればいいのになと思っていたけれど、やがて村田は頭だけを上げてボクに命じた。
 「パンツを脱いで、俺の上に跨れ」
 ボクは村田を睨み、それからパンストとガードル、ショーツを下ろして村田の上に跨った。その間に、村田はコンドームを装着していた。
 「梓、おまえの手でおまえの中に導いてくれ」
 黙ってボクはスカートの下に手を入れて村田のペニスを手に取った。村田のペニスはまだ半立ちで挿入できそうもない。
 「少ししごいてくれたらいいぜ。そんな悲しい顔をするなよ。ホントは嬉しいくせに」
 反論したら余計に言葉で辱められると思った。だから、村田の言葉は聞かないようにして、しごいた。
 ゆっくりと硬度を増してきた。頃合いを見計らって、アヌスに宛がい、そして腰を沈めていった。ボクのアヌスがピクピクと痙攀する。
 「おおっ! いいねえ。この締め付け。女じゃ、こうはいかないね。梓ちゃん、ジッとしてないで腰を動かせよ」
 ボクは村田は見ずに、天井の角あたりを見ながら腰を上下させた。嫌々やっているのに、徐々に上ってくるのがわかって悲しかった。
 しばらくして村田が上体を起こしてきてボクを抱きしめ、唇を合わせてきた。顔を背けると、頬と撲たれた。
 「俺の望む通りにしないとどうなるかわかってるだろう?」
 ボクは心の中で悪態をつきながら、差し入れられてきた村田の舌を吸った。村田はキスしながらボクの腰を抱いてボクを上下に振っている。
 やがて村田はボクをベッドの上に押し倒して、ボクの両膝を抱えて突き始めた。
 「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! ああっ! ああん。あっ! あっ! あっ! はああ・・・」
 「へい、へい。感じてるね。梓は感度良好だ。これはいいペットを手に入れたぞ」
 どうしてこんなことになってしまうんだと思いながらも感じていて村田の背中に爪を立てていた。

 スカートの裏がザーメンで汚れてしまった。村田のものではなくボクのものだ。塗らしたトイレットペーパーで一生懸命拭ってから穿いた。
 「メールアドレスを教えろ。暇ができたらメールする」
 唇を噛みながら、アドレスを教えた。
 「じゃあ、スーパーまで送ってくよ」
 ボクをモーテルからスーパーの駐車場まで送り届けると、毎日メールをチェックしろよと言い残して走り去っていった。
 悔しくて涙が出た。

 3日後、朝食の準備をしながら紗也伽に気づかれないようにメールチェックすると、村田からのメールが届いていた。
 (午後2時、この前のスーパーの駐車場かあ)
 溜め息をつきながら紗也伽出て行くのを待った。ところが、毎日午後になると出掛けていく紗也伽が今日は着替えもせずにテレビを見ていた。
 「紗也伽、今日は出掛けないの?」
 「あら? いちゃ、悪いの?」
 「そ、そんなことはないけど。いつも出掛けてるのになって思って」
 「たまには休まないと、疲れちゃうからね」
 「いつも何をしてるの?」
 「何だっていいでしょう?」
 怒ったように言われて、黙り込むしかなかった。
 (この様子じゃ村田には会いに行けないな)
 トイレの中で、今日は無理だとこっそりメールして置いた。

 さらに二日後、村田から誘いのメールが入った。今日は紗也伽は朝食が済むとすぐに出掛けていった。だから、仕方なくボクも出掛けていった。
 「一昨日はどうしてこられなかったんだ?」
 「紗也伽が出掛けなかったからよ」
 「今日は出掛けた?」
 「ええ」
 「何をしに行ってるんだ?」
 わからないと答えるしかなかった。そもそも紗也伽が夕方出掛けていって何をしているのかも知らないのだ。
 「看護婦じゃなかったのか?」
 村田にそう言われて、例の合コンの女性陣は看護婦だという触れ込みだったことを思い出した。
 「でも、夕方にしか出掛けていかないわよ。看護婦って、2交代か、3交代でしょう? あり得ないわ」
 「毎日夕方出掛けていく? じゃあ、夜の蝶ってところかな?」
 「そう思うけど・・・」
 確証はない。そうこうしているうちにモーテルに着いた。
 「さて、今日も楽しませて貰おうかな?」
 項垂れながらモーテルの階段を上っていった。

 数日おきに村田に抱かれた。ボクのフェラチオの腕は上がり、女としての感度も上がっていった。
 (村田はどうして紗也伽がいない夜の時間を指定しないんだろうか?)
 村田もまた夜の仕事をしているとしか思えなかった。

 3月も終わりに近づいたある日のこと、ベッドの中で紗也伽がボクを睨んだ。
 「梓、あなた、浮気しているでしょう!」
 「そ、そんなこと、してないわ」
 「あなた、嘘をつくのが下手ね。すぐにわかっちゃう」
 「嘘なんかついていないわ」
 「そう言うんだったら、説明して。このキスマークは何よ!」
 右の腋の下にキスマークが付いていた。
 「こ、これは・・・」
 「説明して! 場合によってはわたしにも考えがあるわ」
 詰め寄られて、村田とのことを白状した。
 「バカだね、梓は」
 紗也伽は呆れ顔で言った。
 「どうしてよ」
 「こっちの弱味よりも、あいつらの方が立場が弱いのよ。薬を盛って女を犯す。拒否できたのに」
 「あ、そうか・・・」
 「ホント、梓はバカなんだから」
 「わたしが女装した男だとマンションの人たちに知られたら、紗也伽が迷惑すると思って」
 「そんなことを考えていたの。あんたって、ホントにいい子ね」
 紗也伽はボクを抱きしめた。
 「今度はいつあいつから誘いがあるの?」
 「明日はないと思うわ。恐らく明後日か明明後日」
 「じゃあ、時間を空けて置くわ。やつから誘いがあったら、必ずわたしに伝えて。いいわね?」
 わかったわと答えて、紗也伽との交合を再開した。

 二日後、村田からメールが入った。紗也伽と一緒にデパートに買い物に行くから駄目だと返信すると、一緒でもいいからと返事が戻ってきた。
 「引っかかってきたわね。さあ、行きましょうか」
 ふたり揃って、デパートに出掛けていった。

 婦人服売り場でワンピースを選んでいると村田が声を掛けてきた。
 「いよう、久しぶりじゃないか。元気にしていたかい」
 村田は、ボクとも久しぶりに再会した振りをしていた。
 「あんなことをしておいて、いったい何の用よ!」
 紗也伽が鬼のような表情を浮かべて村田に詰め寄った。
 「紗也伽って言ったよな。このオカマちゃんと同棲してるって、マンションの住人に知られてもいいのかな?」
 紗也伽は言葉に詰まり、オロオロとする様子を見せた。もちろんこれはお芝居だ。
 「言いふらされたくなかったら、付き合って貰えるかな?」
 「わたしたちふたりを相手にしようって言うの?」
 「新谷を呼び寄せてあるよ。俺はこのオカマちゃんが、新納はあんたがお気に入りなんだよな。おお、来た、来た」
 新納がにやけた顔をして歩み寄ってきた。

 村田はボクたちを普通のホテルに連れて行った。部屋はツインだ。同じ部屋でボクたちを犯そうというのだ。まったく悪趣味なやつらだ。
 「さて、どっちがフェラが上手いか競争だ」
 ふたりとも下半身を露出させ、ベッドの端に腰掛けた。ボクたちはそれぞれ男たちの股の間に跪いた。
 男たちがぎゃっと悲鳴を上げたのは、そのすぐあとだった。思い切り噛んだ村田のペニスが見る見るうちに晴れ上がっていった。紗也伽の方を見ると、紗也伽の口から血が流れ出ていた。新納のペニスが半分ちぎれて血が噴き出していた。女の方が怖いと思った。
 「もう使い物にならないかもね。わたしたちのことは忘れることよ。そうしなかったら、薬を盛って女を犯したことを公表するからね」
 そう言い残して、ボクたちは笑いながらホテルを出た。最高に気分がよかった。



inserted by FC2 system