第20章 自信を持って実家へ


 滝沢は、信じられないと何度も漏らした。
 「いったい、どこの医者に手術して貰ったんだ?」
 「内緒です。口外しないように念を押されてるんです」
 「そうか。それにしてもよくできている。本当に梓そっくりだ」
 座らせたボクの胸を見つめながら言った。
 「膣の締まりまでは整形では無理だろう? どうやったんだ?」
 「それは鍛錬ですよ。毎日締める練習をしたんです」
 これは本当だ。けれど、それだけではない。滝沢は形成外科では無理だと言ったけれど、長谷川はそれをやってのけたのだ。
 「中国では、肛門括約筋の一部を膣の方に回して締まるようにする手術が行われているらしい。そのうちわたしもやってみようと思っているが、キミの場合は、今からでは無理だ。そこでだ。別の方法を試みることにした」
 「どう言う方法ですか?」
 「睾丸には睾丸挙筋という筋肉があってね」
 「睾丸・・挙筋・・ですか?」
 「そうだ。寒いとき、睾丸がきゅっと上がるのを経験したことがないかな?」
 ボクはああと頷いた。随分遠い記憶のように思える。
 「睾丸を切除したときにその筋肉を採取して、培養しておいたのだよ。培養したその筋肉を膣の周りに移植しようというのだ」
 「また切るんですか?」
 「いや、培養した筋肉細胞を注射器で注入するだけだよ」
 「それだけでいいんですか?」
 「上手く行くか行かないかは五里霧中だよ。上手く行けば万々歳と言うところだな」
 やる価値はあると思ってやって貰ったのだけれど、どうやら上手く行ったようなのだ。自分で指を入れてみても、かなり締まるようになったと感じていた。
 「明後日から2日休みを取ってあります。明日の最終便で向こうに行って、明明後日の夕方最終便で東京に戻ってくるようにしましょう」
 「わかった。手配しよう」
 そう言いながら、滝沢はジッとボクを見つめていた。実は、滝沢がボクになびいてくれないかなと考えていた。それはボクのためではなく、梓のためだ。要するに梓の浮気を止めさせるためだ。
 (ボクが滝沢を奪ったことにならず、自然に別れて、滝沢がボクを受け入れるのが一番だけど。あ、そうか。結局ボクのためでもあるのか)
 滝沢も好みの女性を手に入れることになる。一石三鳥になるはずだ。

 翌日の午前中、滝沢の元を訪れた服装を写真にとって梓にメールしておいた。下着姿もだ。同じ服を着ていれば、裸になって着替えるという手間が省けるからだ。
 (どうしてもっと早くに気がつかなかったんだろう?)
 少し濃いめの化粧を施し、ウイッグを被り、サングラスをした上でコートを羽織って滝沢の迎えを待った。
 「昨日は騙されたな」
 迎えに来た滝沢は苦々しげに言った。
 「うふふ。梓には黙っていてね」
 「当たり前だ!」
 騙されたとは言え、梓が知れば怒るに決まっているのだ。

 同じようにレンタカーで市内へ向かう。ボクは後部座席に座って、化粧をいったん落として薄化粧に変えておいた。
 例の公園に着いた。ライトを消して間もなく、梓がゴミ袋を持ってやってきた。連絡した服装をしている。
 ゴミ袋をゴミ捨て場に収めるとまっすぐ後部座席に乗り込んできた。梓にコートを脱いで渡し、ウイッグを外して梓に被せた。シューズはすでに脱いで左側の席の下に置いてある。梓から突っ掛けを貰って履けば、ボクは準備が終わりだ。
 「じゃあ、お願いね」
 ボクが渡したバッグから化粧品を取りだして口紅を引きながら梓が言った。
 「任しといて」
 ボクは右のドアを開いて車を降り、振り返ることなく実家へ向かって歩いた。
 「ゴミ捨ては朝にしないといけないんじゃないの?」
 母がそうぼそりと言った。
 「朝は忙しいから」
 夕方ならともかく、この時間に外に出る理由をつけるのは大変だ。もっとも、この時間の方が暗いから、チェンジにはうってつけなのだが。
 「ママ、お風呂、入ろう」
 澪が抱きついてきた。10時近いのにまだ起きてたのかと思ったけれど、ハイハイと返事をして、着替えを準備して入浴した。
 翔太、澪を順番に洗ってやる。湯船に浸かった翔太が澪を洗っているボクを見ている。
 「なに? 翔太。おっぱいが欲しいの?」
 そう問うと、慌てて頭を横に振って浴室から飛び出していった。
 (フフフ。恥ずかしがって)
 「ママ。おっぱい」
 「あら? 澪もおっぱいが欲しいの?」
 澪の方は、うんと頷いた。抱き上げると、乳首に吸い付いてきた。吸われると痛いけれど、心地よかった。
 外に出て身体を拭いてやりパジャマを着せてやっても澪は物欲しそうな顔をしている。
 「お義母さん、2人を寝かせてきます」
 そう断って、2人を二階に連れて上がった。布団に寝かせて見守っていると、今度は澪もおっぱいには吸い付かなかったけれど、可愛い手をボクの胸に当てて眠ってしまった。

 階下に降りると、居間ではいつものように父と兄が焼酎を飲んでいた。母は浴室へ行き、ボクは朝食の準備に取りかかった。
 30分後、浴室から出てきた母に冷茶を入れてやり、一緒にテーブルに座って飲んだ。
 「梓さん、あなた、時々人が変わったようになるけど、どうしてかしら?」
 ギョッとした。
 「女は気分が変わるものがあるだろう? 母さんにはもうないだろうけど」
 兄がニタニタしながら言った。母はもうと言いながら、兄を睨んでいる。それですみそうで安心した。
 兄は焼酎のお湯割りをちびちび飲んでいる。64のお湯割りを3杯飲むときはそのまま眠ってしまうから大丈夫、1杯の時は迫られる可能性が高いと梓が忠告してくれていた。
 今日はどうも1杯の水割りを時間を掛けて飲んでいるようだ。
 (チェンジした日に早々かよ。まあ、いいか)
 セックスは嫌いじゃない。けれど、相手は兄なのだ。そう思うけれど、それが却ってボクを燃え上がらせる。背徳の快楽という奴だろう。
 「さあ、お父さん、そろそろ寝ましょうかね?」
 10時の番組が終わると母が言い出した。11時5分前だ。兄がボクに目配せしながら、俺も寝ようと言って階段を上がっていった。おまえも早く上がってこいよと言う意味だ。
 後片付け、火の始末、鍵を点検して灯を消し二階に上がった。子どもたちはぐっすり眠っているのを確かめてから部屋に入った。
 兄が笑顔を向けてきた。

 滝沢を欺せたのだ。絶対にばれないという自信がボクの感度を上げていた。
 「あん、あん、あん、あん。あなた、いいわ。いいっ!」
 声が大きいよと言いながらも、兄は嬉しそうに腰を動かした。自分のテクニックで女が喘ぐ姿を見るのは男冥利に尽きる。ボクにはそれがよくわかっている。
 今日は正常位だけではなく、バックでも突かれ、バックのまま兄はボクの中で弾けた。腕を折って俯せになったボクの背中の上に兄が倒れ込んできた。その重さが心地よく感じられた。

 忙しい主婦のきつさも、セックスというご褒美で相殺される。でも、翌日兄は焼酎をガブガブ飲んで寝てしまった。心の中でボクは悪態をついてやった。
 そして翌日夕方には帰京した。来月またお願いするわねとの梓の言葉がすごく嬉しく感じられた。

 楽しみにしていたのに梓から連絡がない。ボクの方から請求するのもおかしいと思って、まだかな、まだかなと首を長くして待った。
 連絡が入ったのは、12月の半ばだった。
 《茜さん、クリスマスイヴを滝沢と過ごしたいの。23日から1週間、お願いできないかしら?》
 甘ったるい声で言われると、くらっと来てしまう。今やボクは女なのに、梓と話すときは心はどうしてもボクに戻ってしまう。
 「一週間は無理よ。それにクリスマス時期はお店が忙しくて休めないもの」
 《何とかならないかしら?》
 「そうね。梓さんが、わたしの仕事をやってもらえるのなら、1週間でも2週間でも構わないけど?」
 《スーパーのレジだったわね?》
 「そうよ。できる?」
 《うーん。やってみないとわからないわ》
 「どうしてもわたしとチェンジしたいのなら、頑張って覚えて。やり方を送るから」
 《わかったわ。少し時間があるから、頑張ってみる》
 そう言うことで、スーパーに入ってからのボクの行動、つまり着替えの場所・仕方、キーのもらい方、レジの操作、その他諸々をメールで送っておいた。

 1週間後、梓から決行のメールが入った。そして、23日の最終便で大分に行き、梓と入れ替わった。
 久しぶりの実家だ。翔太も澪も凄く大きくなったように思えた。今日も早速入浴タイムだったけれど、翔太は兄と入ると言う。幼稚園で女と入ってると笑われたかららしい。
 ボクは小学校の間ずっと母と入浴していた。それが幼稚園からとなると、時代が変わったのかもしれないなと思う。
 澪はやっぱりボクの乳房を見つめているけれど、ねだったりしなかった。恐らく梓が叱ったのであろう。可哀想だけど、梓の方針に従うしかない。
 子どもたちを寝かしつけて階下に降りると、兄は父と豪快に飲んでいた。
 (今日は、なしだな)
 ちょっと残念。

 いつものように翌日の朝食の下ごしらえをしたり、片付け、戸締まりなどをして部屋にあがった。
 兄はゴウゴウ鼾を掻いて寝ていた。もしかしたらと期待していたけれど、朝日の前の露と消えた。
 (まあ、いいか。今度は一週間あることだし)
 兄の横に滑り込んで眠った。

 兄がボクの身体をまさぐっている。チラリと時計を見てみると、午前2時だ。
 (もう止めてよ。やるんだったら、飲まないで寝る前にやってよ)
 そう思っているのに、ボクは両足を少し開いて兄の手の進入を許していた。
 「ううん・・・」
 ボクの中に兄の指が入ってゆるゆると動かし、ボクは感じていた。徐々に潤いを増していくのを覚える。指でそのことを感じたのか、兄はボクの履いているショーツを降ろし、本格的に指ピストンを始めた。
 「ああん、あなた」
 唇が重ねられた。舌が入ってくる。ボクはその舌を吸った。兄がボクの両足をこじ開けて間に入ってきた。太股に勃起したペニスを感じる。そしてそれが腟口にあてがわれ、入ってきた。
 ボクは兄の背中に両手を回し、兄に合わせて腰を振った。

 眠いけれど、心地よい目覚めだった。
 「あんな時間に起こさないでね」
 起きてきた兄にそう言うと、肩を竦め舌を出した。同じようなことは、今後も起こるだろうなと思った。
 「クリスマスプレゼントは買ったのか?」
 話題を変えてずるいなと思ったけれど、どう答えていいのかわからない。買っているのに買っていないと言ったらおかしいし、買っていないのに買ってると言ったら疑いの目を向けられる。
 「知らない!」
 すねた振りをして、飯と味噌汁をドンとテーブルの上に置いた。
 「何だよ。もう!」
 兄は不機嫌そうに朝食を食べ始めた。ボクも向かいに座って、箸を進める。
 「何が気にくわないんだよ!」
 「あなたが急に話題を変えるから」
 ハッとした表情になった。
 「おまえだって、楽しんだだろう?」
 「わたし、あなたと違って朝が早いんだから、あんな時間は止めて欲しいの。そう言ったのに、謝りもしないで」
 「・・・ごめん」
 「わかってくれたら、いいの」
 「じゃあ、今晩はあまり飲まないで」
 その言葉にボクが笑顔を返すと、兄もにやっと笑った。

 兄を会社に送り出したあと、洗濯機にスイッチを入れ、トイレの中から梓にメールした。子どもたちのプレゼントについての問い合わせだ。応接間にあるタンスの上に置いてあるとの返事だった。
 応接間にはあまり行きたくない。ボクの遺影が飾られているからだ。父や母に親不孝していることを思い知らされてイヤなのだ。けれど、確かめておくために居間に入った。
 (ホント、女の子みたいだな)
 自分の遺影を見てそう思う。プレゼントを確認し、主婦業に戻った。

 夕方、買い物をして変えると、母が電話に出ていた。
 「ああ、今帰ってきたわ。代わるわ。梓さん! 昭彦から」
 買い物袋を置いて受話器を受け取る。
 《出掛けるときは携帯を持って行けよな》
 「ちょっとそこまでだったから。何なの?」
 《今日、T洋ホテルに来いよ。ディナーを一緒に取ろう。午後6時だ》
 「えっ! 子どもたちは?」
 《お袋に頼んだ。いいな?》
 電話が切れた。
 「お義母さん、いいんですか?」
 「たまには羽を伸ばしてきなさい。翔太と澪のことは任せて」
 「すみません」
 大急ぎでシチューとハンバーグを作る。
 「お母さん、ご飯はタイマーを掛けてあります。シチューは温めて、ハンバーグは食べる前に焼いてください」
 「はい、はい。楽しんでいらっしゃい」
 この頃の母はやけに機嫌がいい。ボクは部屋に上がって、着ていくものを探した。
 (うーん。みんな地味だな。あ、これがいいな)
 トキ色のドレスだ。
 (このドレス、梓が着ているのを見たことがある。綺麗だと思ったんだよな)
 着替えてみると、凄く似合っていた。化粧を入念にやり、髪をすいておく。
 (こんな事とわかっていたら、美容室に行っていくのに)
 思いながら階段を下っていった。
 「あら? 梓さん、凄く綺麗よ」
 ボクは少し照れながら、行ってきますと挨拶して家を出た。

 自宅近くにあるタクシー待期場にタクシーがいなかった。どうしようかなと困っているとタクシーが戻ってきた。
 「T洋ホテルまでいいですか?」
 「おっ! イヴのデートですか?」
 ボクは顔を赤らめハイと答えた。
 「いいねえ。今の若い人は」
 「主人とデートなんです」
 左の薬指を見せると、そりゃまたいいねとバックミラーで笑顔を送ってきた。

 タクシーを降りてホテルに入ってくると、後ろから肩を叩かれた。
 「梓、見違えたぞ」
 兄の笑顔があった。
 「ありがと」
 レストランに上る。市内が一望できるレストランだ。
 「よく予約が取れたわね?」
 席は若いカップルで満席だ。
 「ちょっとコネがあってね」
 「職権濫用?」
 「違う、違う。高校の先輩がいてね」
 「いい先輩ね」
 「おまえ、いつもと違うな?」
 どきっとする。
 「イヴなんだもの。恋人同士に帰ったつもりで」
 「そうだな。今日は2人きりだものな」
 翔太と澪を預けて2人でデートなんて久しぶりだろう。そのデートをボクが奪って悪いような気もしたけれど、梓は今頃滝沢と楽しい時間を過ごしているはずだ。構わないよなと考えていた。

 美味しい料理に舌鼓を打ちながら、ゆったりとした時間が過ぎていく。カップルたちがひと組ふた組と消えていった。
 兄はボーイを呼び、バーボンのオンザロックを頼もうとしていた。
 「あなた。飲み過ぎはだめって言ったでしょう?」
 「あ、ああ。そうだったな。じゃあ、もういいよ。会計を頼む」
 かしこまりましたと頭を下げてボーイが去っていった。兄は時計を確かめた。
 「チト早いけど、部屋に行くか?」
 「部屋? 部屋を取ってるの?」
 兄はニタッと笑って頷いた。



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