第19章 より梓に近く


 三日後、滝沢から電話が入った。
 《茜さんだね?》
 「この電話は、滝沢さんと梓しか知らないでしょう?」
 《ははは。そうだったな》
 「何の用なの?」
 できるだけ突っ慳貪に言ってやる。
 《冷たいな。明日は休みだろう?》
 「そうですけど。それがどうかしましたか?」
 《飯でも一緒に食おう》
 「どうしてわたしと?」
 《デートだよ。アリバイ作り。わたしが小川茜とつきあってるという》
 「ああ、なるほど。食事だけなの?」
 《いっぱいやって、キミが望むなら、ホテルに行ってもいい》
 「梓に知られたら、どうするの?」
 《キミが言わない限り、知られることはないさ》
 「浮気者!」
 《わたしは小川茜とつきあってる。それだけだ。違うのか?》
 反論できない。食事だけにするわと答えて、待ち合わせの時間と場所を聞いておいた。

 仕事を終え、着替えて裏口から出る。
 「茜、一緒に帰らないの?」
 山崎がボクの腕を取った。
 「ごめん。今日はちょっと用事が」
 「何? デートなの?」
 「あ、うん。まあね」
 「例の彼氏?」
 ボクは曖昧に頷く。
 「じゃあ、わたしは一人で寂しく夕食を食べるわ」
 バイバイと手を振ってアパートに向かって歩いていった。
 「遅いなあ」
 店の裏口に6時に迎えにくると約束したのに、午後6時はとっくに回っていた。それから5分ほどしてタクシーがやってきた。
 「ごめん、ごめん。事故で道が混んでてね」
 ウインドーを下げて滝沢が言い、早く乗ってと命じた。滝沢が運転席の後ろへ移動し、乗り込んだ。滝沢が口にした行く先は中華料理店のようだ。
 10分少々でその店の前に着いた。
 「ここの中華は美味いぞ」
 そう言いながら、ボクに腕を取らせて中に入った。個室が予約してあった。
 「いろいろと話しやすいからね」
 そう言ってボクのために椅子を引いた。すぐに料理が運ばれてきた。滝沢が言ったように美味しい料理だ。
 「まあ、もういっぱい」
 「酔わせて、わたしの自制心をなくすつもりなのね?」
 「もちろんだよ。酒はそのためにある」
 本気なんだろうかと思いながら、紹興酒を口にした。

 デザートが運ばれてくると、店員が出て行くのを確かめてから滝沢は持っていた鞄の中から茶封筒を取りだした。
 「梓から、これをキミに渡してくれと頼まれてね」
 受け取って中を覗いてみた。写真が入っていた。
 「例の写真ね」
 「それを元にキミの身体を整形するんだって?」
 「ええ。ご主人に見破られないために」
 「そこまでやる理由は何なんだ?」
 「さあ、どうしてかな? わたしにもよくわからないわ」
 滝沢には教えられない。
 「この写真、滝沢さんが撮ったのよね?」
 「そうだ。それがどうかしたか?」
 封筒の中の写真は、滝沢の部屋で見た梓のヌード写真が主で、胸の部分やホクロの部分を拡大したものが混じっていたのだけれど、その中に女の部分を大写ししたものがあったのだ。それは陰毛の生え方をボクに伝えるためのものだろうけれど、元々は梓の女を滝沢の目に晒したものなのだ。
 「よくこんなものを撮らせましたね?」
 「普段は隠しているが、梓は、多少露出癖があるようだよ」
 信じたくない事実だった。
 「さて、どうする?」
 「どうするって?」
 「一勝負するかな?」
 「締まりが悪いって言われているのに、乗ると思う?」
 「梓よりはと言う意味だよ。他の女と比べて遜色はないって言わなかったかな?」
 それは覚えているけれど、劣ると言われているのに乗る気にはならない。
 「でも、今日はその気にならないわ」
 「残念だな。では、デザートを食べ終わったら、送っていこう」
 お願いしますと告げ、デザートを食べた。

 アパートに戻ると、山崎がテレビからボクに視線を遣って言った。
 「ずいぶん早いご帰還ね」
 「だって、彼女が待ってるんだもの」
 そう答えると、山崎はにっこりと笑った。写真の入った封筒はボクの部屋に隠して、シャワーを浴びた。
 それから、しばらく山崎と飲んだ。ボクたちは結構一緒に酒を飲む。ボクはともかく山崎に彼氏ができない理由だ。
 「そろそろ休もうか?」
 「お休み」
 頬にキスしあったりして各々の部屋に入った。部屋に入ると、ボクは早速茶封筒を取りだし、梓の女の部分を大写しにした写真を抜き出す。
 (ったく、もう。こんな写真を撮らせるなんて!)
 これをネタに離婚を迫ってきたりしたらどうするんだろうと思う。
 (ホント、薄い陰毛だな)
 ボクの陰部を携帯で撮って比べてみた。ボクの半分くらいの面積しかない。
 (兄貴、これで気がつかないなんて、鈍感だな)
 まさか別人だとは思っていなかったのだろう。それに1週間もご無沙汰で焦っていた。だから、少々の違いは見過ごされたのだろうと思う。けれど、明るい場所で、冷静だったらきっとばれる。そう思う。
 (明日は長谷川に会いに行こう)
 写真を茶封筒に戻して明かりを消した。

 仕事を終え、いったんアパートに戻り、茶封筒の中身を確かめてから長谷川の病院へ向かった。
 「二度と来るなと言わなかったかな?」
 「そうでしたっけ?」
 ボクはとぼける。
 「いったい、何の用だ?」
 「マイナーチェンジをお願いしようと思いまして」
 「マイナーチェンジだって?」
 「はい。先生、わたしのこの顔、初恋の女性だって言いましたよね?」
 「そう聞いた覚えがある」
 「もっと彼女に近づけて欲しいんです。顔だけじゃなくて、身体も」
 「身体も? データがなければそれは無理な話だ」
 「彼女の最新のデータが手に入ったんです。これがそうです」
 ボクは茶封筒の中から写真を取りだして渡した。
 「なんと。どうやって手に入れたんだ?」
 写真を一枚一枚捲ってから驚嘆した。
 「それは聞かないでください。やっていただけますか?」
 「ちょっと待ちなさい」
 写真をじっと眺める。
 「彼女は経産婦なんだね?」
 「はい。子どもがふたりいます」
 「むむ。ちょっと裸になって」
 ボクは着ていたものを脱いだ。
 「今のこの乳房の方が形がいいと思うが、この写真のように少し垂らして乳首も大きく、乳暈も大きくしたいのか?」
 「はい」
 「クリトリスの位置が恐らく少し違うと思うが、それは?」
 「可能ならば」
 「小陰唇もあたって欲しい?」
 「できる限り彼女に近づけたいんです」
 「まるでバービー人形になりたい男だな」
 笑いながら、やってくれると言ってくれた。
 「すぐにできることは、陰毛の脱毛だな」
 「お願いします」
 そのまま婦人科診察台に乗り、レーザーで脱毛された。
 「他の部分の形成が終わったら、もう一度やろう。それで完璧になるだろう」
 「明日は仕事が終わってから来ます。いいでしょうか?」
 「午後8時には時間がとれる。その頃来なさい」
 「お世話になります」
 頭を下げて長谷川の元から退出した。

 翌日、ボクのホクロを梓のホクロの位置に移動させ、足りないホクロは特殊な色素を注入してホクロの形成は終わった。
 そのまま病院に泊まり、翌日クリトリスの位置を少し下げる手術を受けた。局所麻酔だったからすごく痛かった。
 「小陰唇は触らなくてもいいようだな」
 撮ってくれた写真を見て、ボクも賛意を示した。剃毛された女の陰部はすごく卑猥に見えた。

 アパートに戻ると、山崎がウイスキーの水割りを飲みながら、どこに行ってたのと尋ねた。
 「ちょっとね」
 「変な歩き方ね。一晩中やってて、あそこがすり切れたんじゃないの?」
 「馬鹿ね。よく、そんなイヤらしいことが言えるわ」
 「うらやましがってるだけよ。あああ、蜘蛛の巣を払ってくれる男が欲しいわ」
 山崎はまったく脳天気だ。

 1週間たって、ウエスト周りの脂肪吸引が行われ、その脂肪を乳房に注入して少し垂れさせ、乳首にはコラーゲンが、周りの茶色の部分に色素が注入された。
 「おっぱいも乳首も少し大きくありませんか?」
 「少し縮むんだ。前回も言わなかったかな?」
 「そうでしたね」
 「外陰部を見せてみなさい」
 婦人科診察台に乗った。長谷川は梓の写真と見比べている。
 「いいようだな。ついでにわたしなりのマイナーチェンジをプレゼントしよう」
 「プレゼントって何ですか?」
 「いいから、じっとしていたまえ」
 女にとってもっともイヤな診察器具、クスコが挿入された。
 「麻酔をするぞ。ちょっと我慢して」
 言うほど痛くはなかった。麻酔がすむと、長谷川は小さな容器をボクに見せた。オレンジ色の液体の中に丸いものが浮かんでいた。
 「なんだと思う?」
 「さあ、わかりません」
 「以前キミの身体から取り除いた睾丸組織を使って卵巣を作ったんだよ」
 「えっ! 嘘でしょう?」
 「本当だ。卵巣と言っても、卵子を作る能力はないが、女性ホルモンを作ることはできる。これを移植すれば、キミは今後女性ホルモンを補給しなくてすむ。キミの睾丸を使って作ったから、拒絶反応もない。どうだ? 素晴らしいだろう?」
 「は、はい。こんなことができるなんて信じられません。でも、どこに移植するんですか? 膣の中ですか?」
 「膣の中というのは正確じゃないな。女性の膣の前壁には、ポルチオと呼ばれる子宮の一部が突出した部分がある。これをその位置に移植して、ポルチオに見せかけるんだよ」
 「女性ホルモンも出るし、より女性に近くなるんですね?」
 「そうだ。これはある小説に書かれていたことなんだよ。それを実行したと言うわけだ。男とセックスすれば、移植された卵巣が刺激されて女性ホルモンが分泌され、より女性らしくなると言う寸法だよ」
 「なんだか嘘くさいですね?」
 「小説にはそう書いてあったが、わたしも眉唾だと思うね。さあ、移植するよ」
 何のことはない。鶉の卵大ほどの組織を少し開いた腟壁の下に埋め込むだけだった。

 さらに1週間後、診察を受けた。
 「外見は、ほぼこの写真通りだ。ポルチオはどうなっているかな?」
 クスコを挿入される。
 「おお、思ったよりも大きくなっている」
 「えっ! いいんですか?」
 「イヤ、ちょうどいい大きさになっているんだ。大成功だよ」
 その言葉にホッとする。
 「最終的な脱毛をやっておこう」
 追加脱毛され、採血された。女性ホルモンレベルを計るためだという。
 「移植した卵巣が機能し始めていれば、通常の男性よりはレベルが高いはずだ」
 五日後結果を聞きに行くと、かなりのレベルの女性ホルモンが分泌されていると長谷川に言われた。
 「これで、キミは立派な女だよ。梓と言ったかな? この女性と瓜二つだ」
 「ありがとうございます」
 涙がこぼれて仕方がなかった。

 10日後、ボクは滝沢のマンションのチャイムを鳴らした。
 「うふふ。来ちゃった」
 ドアを出して顔を出した滝沢に言う。
 「今頃、どうしたんだ? ・・茜」
 梓が来るはずがないから茜と呼んだ。そんなところだ。
 「酷いい。わたしがわからないの? 梓よう」
 甘えた声で言い、滝沢を押しのけて部屋の中に入っていった。
 「梓? 梓がどうして来られるんだ?」
 鍵を締めながらボクを追ってきた。
 「茜さんが、大分にやってきて、向こうでチェンジしたの。だから、そのまま最終便で飛んできたのよ」
 コートを脱ぎ、ウイッグを外す。コートの下は、梓の家で見かけた淡いピンク色のセーターに、裾にレースが付いたベージュの膝下丈のスカートだ。同じものを手に入れて着てきたのだ。
 「そうだったのか。しかし、連絡もなしに来るなんて驚いたよ」
 そう言いながらも疑っている様子だ。ボクはそんな滝沢の抱きつきキスした。
 「おい、おい」
 「1ヶ月ぶりよ。早く抱いて」
 滝沢は嬉しそうな顔をして、ボクを抱き上げるとベッドルームに運んでいった。

 滝沢はボクを愛撫しながら身体の隅々を点検している。乳首の大きさ、色素の具合、ホクロの位置、陰毛の生え方などを入念に点検している。茜なのか梓なのか確信が持てないようだ。
 そして、クンニをしながら、膣の中に指を入れてきた。
 「あ、あん」
 久しぶりだと指でも気持ちがいい。
 「梓なんだな?」
 「まだ疑ってたの? 梓だって言ってるじゃない?」
 「いや、茜が身体を梓と同じに整形してくると言ってたからな。しかし、他は整形で誤魔化せてもこの締まり具合は、すぐには真似できないよ」
 そう言いながら、ボクを貫いた。
 (ああ、感じる。ペニスで貫かれるって最高)
 男だったのに、こうなってしまうなんて自分でも信じられない。
 「ううう。やはり梓は最高の女だ」
 呻きながら滝沢は腰を動かす。もちろんあまり性急ではない。膣の締まり具合を楽しみながら動かしているのだ。
 正常位からバックに移行し、もう一度正常位になってから果てた。ひと月ぶりのセックスは本当に快感だった。

 滝沢に抱きついて微睡んでいると、滝沢の携帯にメールが着信した。滝沢はメールをチェックしている。
 そして、驚きの声を上げた。
 「どうかしたの?」
 「梓からだ。明日、こっちに来るという連絡だ」
 「あら? わたしが昨日打ったメールよ。今頃着くなんて」
 そう誤魔化そうとした。
 「発信時刻が3分前だ。おまえ、茜だな?」
 「ふふふ。すっかり騙されたでしょう? これなら、ご主人も完璧に騙せるわね」
 ボクがそう答えると、滝沢は狐にでも化かされたような顔を見せた。



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