第13章 すべてがネットに


 桜井は、ベッドから抜け出してそそくさと服を着込むと、横山のいるベッドルームの入り口に向かった。
 「山口さん、お疲れさんでした。また、お願いしますよ」
 横山は桜井の肩をポンと叩いて、見送った。
 「や、山口さんって、どう言うことなのよ!」
 「奴の本名だよ」
 「ええっ!」
 「会社社長って言うのも嘘っぱち。どっかの会社の係長とか言ってたな」
 ボクの顔から血の気が失せていくのが自覚できた。
 「で、でも、戸籍謄本が・・・」
 「ああ、あれ? あれは、実在の人物。若い嫁さんを貰うって話を小耳に挟んだから、ちょっと利用させて貰ったんだよ」
 「わたしの結婚は嘘だったのね?」
 「そう言うことだ」
 ボロボロと涙がこぼれ落ちた。
 「あれ、あれ。ホントに女になってしまったみたいだな」
 「全部、最初から全部、あなたが仕組んだことなのね?」
 「ああ、そうだよ。気づかないおまえが馬鹿なんだ。早く気づけば、女になることもなかったのにな」
 早くから疑っていたのに、まんまと罠にはまってしまうなんて。
 「くそっ! おまえなんか、殺してやる!」
 ボクはベッドから飛び起きて横山に殴りかかっていった。ところが、振り上げた手をあっさりと掴まれてしまった。元々体格が違う上に、女になったボクはさらに力がなくなっていたのだ。
 「くそっ! 離せ!」
 足で蹴上げようとしたら、思い切り頬を撲たれた。ふっと意識がなくなった。

 気がつくと、右手をねじり上げられてベッドの上に俯せにされ、バックから犯されていた。
 「山口には聞いていたが、なかなかの仕上がりだ。モノホンの女と変わらねえや」
 「イヤだ! 止めろ!!」
 ボクは力の限り叫んだ。
 「女の癖して、はしたない言葉を使うなよ」
 右腕がさらにねじり上げられた。正常位なら、何とか反撃できただろう。けれど、俯せで上に乗られていてはどうしようもなかった。
 無理矢理犯されているのに、レイプされているのに、ボクは感じていた。
 「ああ。ああ。あああ・・・・」
 「ふふふ。レイプされても感じる。女って言うのは悲しい性よなあ」
 言いながら横山は腰を打ち続け、そして果てた。行かなくてもいいのに、ボクも行っていた。
 「なかなかよかったぞ」
 横山はボクから離れ、ズボンを上げ始めた。
 「どうしてこんなことをしたんだ!」
 「趣味や遊びでやってんじゃないぜ」
 えっとボクは驚きの声を上げた。ボクの考えとしては、遊びでやっていると思っていたからだ。
 「何の目的でボクにこんなことを?」
 「ボクとか言うなよ。女らしくしろよな」
 尻を蹴飛ばされた。
 「簡単なことさ。俺はな。ネットであるサイトを開いているんだ。会員しか見られない秘密のサイトだよ」
 横山はフッフッフと含み笑いをした。
 「どう言うサイトだと思う?」
 ボクは黙ったまま横山の顔を見上げた。健全なサイトだとは思えない。怪しげなサイトに決まっている。
 「説明してやろう。いなくなっても誰も探さないような男を誘拐して、女に仕立て上げるんだよ。最初は抵抗するけどな。結局は女になって、歓んでフェラして、男を受け入れるようになる。その一部始終をビデオに撮ってネットで流しているんだよ」
 「ネットで? ボク、わたしも?」
 「もちろんだぜ。ただ、おまえの場合、嗜好を変えて、拉致しないで女になる様子を流したって訳だよ」
 「ビデオなんて撮られてないわ」
 「ふふ。最近のビデオカメラは高性能でな。小型でもかなり鮮明に写せるんだよ。そんなカメラで隠し撮りしていたんだよ」
 「嘘。いつから?」
 「最初からだ。見せてやろう。来い!」
 どの時点からビデオに撮られていたか知りたかった。ボクは身体にシーツを巻き付けてリビングに移動していった。
 横山はテレビにスイッチを入れ、テーブルの上に置いてあった鞄の中からDVDを取り出してプレーヤーにセットしている。
 撮りっぱなしではなく編集されている。だから、タイトルが出た。
 「『女になる・カトウヨシヒコの場合』。いいタイトルだろう?」
 横山がニタリと笑ってボクの方を見た。
 「実名は出してあるが、漢字じゃないからすぐにおまえに結びつかないだろう。ちょっとした俺の親切だ」
 ボクは歯ぎしりをした。サブタイトルが出た。『シーン1・パート1』だ。トイレの個室の中が映し出された。右斜め上から見下ろす形で映像が流れる。
 個室のドアが開き、恐怖に顔を歪めたボクが喉にナイフを当てられて入ってきた。
 「いい表情だ。やらせでは、こうはいかんな」
 横山がボクの顔を指さして言う。目出し帽を被った男、そう、あの時ナイフを首筋に当てられていた恐怖で、そんなものを被っていたなどとは気づかなかった。男に命じられてボクはズボンとトランクスを降ろし、両手を便座に突いている。
 男はカメラに向かってVサインを出したあとボクの尻を撫で、ポケットの中らかチューブを取り出してボクの肛門に塗りたくった。
 男がボクの肛門に指を突き立てているところは写っていない。けれど、そうしていることは明々白々だ。
 ハンカチを噛まされ、そして肛門の犯される。途中でトイレに誰かが入ってきて中断されたはずだけど、そこはカットされていた。
 男が抽送を続け、ボクの口から『あーっ! あーっ!』と声が漏れ始めていた。ボクは恥ずかしくなって画面から視線を逸らせた。
 男が果て、ボクから腰を引いてズボンをあげ、千円札をボクの背中の上に置いて出て行く。ボクが嗚咽を漏らしている場面で画面がブルーに変わった。
 「なかなかいいだろう? 初めてで行くなんて、おまえには素質があるって事がよくわかったよ」
 何も言えない。ボクは唇を噛み締め、悔し涙を流していた。画面がブルーから変わった。今度は『シーン1・パート2』のタイトルだ。カメラのアングルがまったく違う。下から斜め上に見上げる形だ。
 ドアが開き、ズボンを穿いた足が入ってくる。話の内容からすると、最初犯されたときのものだ。つまり、カメラは2台あったということだ。
 ズボンとトランクスを降ろすボクの顔が画面にチラリと映っていた。ボクが便座に両手を突くと、カメラの中央にボクのペニスと睾丸、そして肛門が写るようになっていた。
 ジェリーが落とされ、男の指がボクの肛門を弄ぶ。ボクの肛門がピクピクしているのがよくわかる。
 (よく写ってるな。かなり解像度がいいみたいだ)
 他人事のようにそう思っていた。男の指が引き抜かれ、代わりに勃起した男のペニスが画面に現れた。
 ボクのアヌスに押し当てられ、そして侵入していく。ズブズブと。奥まで達すると男の腿で見えなくなる。けれど、男が腰を引くと貫かれている部分が丸見えだ。しかも、ダラリとぶら下がっていたボクのペニスが持ち上がっていくのがはっきりと見える。
 やはり中断部分はカットされていて、男の抽送だけが映し出されていた。ボクの喘ぎ声がイヤに強調されて耳に届く。男が果てたと同時に、ボクのペニスからも白濁した液体が漏れ出ているのがはっきりと写っていた。
 男が抜けていく。ボクのアヌスがヒクヒク震え、白濁した粘液と共に血液が流れ出ていくのが写っていた。
 「これをネットに載せたとき凄い反響でな。なんせ、処女喪失の瞬間だろう? アクセス数が倍増したもんだよ」
 悔しい。そして恥ずかしい。
 「どうやってビデオカメラを?」
 「従業員に鼻薬を嗅がせれば一発オーケーだよ」
 ニヤリと笑って、そう答えた。画面には『シーン2』のタイトルが映し出されている。シーン1では、男に個室に連れ込まれた。だから、ビデオカメラを仕掛けた個室を選べる。けれど、2回目に犯されたときは、ボクが3つある個室のひとつを選んだ。だから、予めビデオカメラは設置できないはずだ。
 そう思いながら画面を見ていると、映し出されたのは男の後ろ姿で、トイレに入るとき目出し帽を被った。
 カメラの方を振り返って、ここかと個室のひとつを指差して確かめている。ボクが入った個室がどこであるかわかった上でビデオ撮影を始めたのだろう。
 ドアが開くと同時に、一瞬ボクの横顔が写り、目出し帽の男がボクの胸を押してトイレの中に押し戻した。
 ドアが閉まると、ビデオカメラがいったん天井を撮し、それからトイレの中を上から写し出した。椅子か何かに乗って、上から撮っているのだ。
 ボクはすでに四つん這いにされていて、男がカメラに向かってウインクしてからジェリーをボクのアヌスに塗り込め始めた。そして、犯された。
 二人目の男の声が入ってきた。1回3000円で、しかもレイプを装った売春のような話が続く。
 5人の男に犯される場面が延々と続いた。

 『シーン3』が始まっていた。見たくはなかったけれど、どうしても画面に目が行ってしまう。
 横断歩道で信号を変わるのを待ているボクの後ろ姿が写し出された。男が近づいていってボクの肩を抱いた。耳元で何かを囁いているけれど、音声は入っていない。代わりにテロップが流れた。
 《兄ちゃん、3000円で一発やらせてもらえるんだってな?》
 ボクが抵抗して部分はカットされている。
 《あそこでいいかい?》
 ボクがそう言ったようにテロップが出た。トイレに押し込まれる場面は写っていない。両手をタンクに突いたボクの背中が上から写し出されている。個室ビデオ店と同じ手法だ。
 ジェリーが塗り込められ貫かれる。カメラが角度を変えて、結合部分を大写しにしていた。
 《兄ちゃん、あんたは名器だ。なかなかいい》
 ホモ野郎と蔑んだ言葉は聞こえない。射精した男が抜け出て、ボクのアヌスにコンドームがぶら下がっている場面がアップになり、シーン3が終わった。

 『シーン4』はタイル張りの狭い部屋から始まった。そこは紗也伽のマンションの浴室だと悟った。
 (紗也伽もグルだったんだ)
 それは当然の成り行きだ。ドアが開き、全裸のボクが入ってきて、全身に白い液体を塗り広げていく。
 《女はむだ毛があっちゃいけないものね》
 などというテロップが入った。早送りされ、シャワーを浴びるシーンになった。湯気でカメラが曇る。
 シーンが変わった。ベッドルームだ。シリコンの人工乳房を胸に接着する場面や、女性用の下着を身に着けている場面が写し出されていく。紗也伽の書いたメモを見るシーンはカットされていて、ボク自らが女装しているように思わせていた。
 次は化粧をするシーンだ。紗也伽がコーチした部分は当然のことながら写し出されない。それに紗也伽とのセックスも。
 「ここらはあまりアクセスが上がらなかったんだよな」
 化粧している場面の半分は早送りされた。
 「さて、これだ。これがないと、シーン4は視聴がゼロに近い」
 そう言って早送りを止めたのは、紗也伽にペナルティーを課せられて、ストリップをしてオナニーをする場面だ。紗也伽は写っておらず、ボクひとりがストリップをしてオナニーをして楽しんでいるかのように写っていた。
 「男がマスを掻くのを見て、何が面白いかって思うだろうな。けどな。世間にはこういうのを見て喜ぶ人種がいるんだよ」
 化粧をしてマスを掻いているところを見られたなんて、恥ずかしい。
 「次は、合コンの場面か。スキップしよう」
 『シーン5』として、あの合コンまでも撮影されていた。出席していた全員がグルなのか、一部だけなのかボクにはわからない。
 早送りが止まり、新納がボクの着ていた服を脱がしていくシーンから再開された。こうして撮影されているところを見ると、こいつらもグルだったと言うことだ。
 「ふたりともなかなか演技がうまい。おまえが男だと知っていて、これだからな」
 「紗也伽は犯されたの?」
 「まさか。奴らに犯されたのはおまえだけだよ。紗也伽はドアの隙間からおまえが犯されて喘ぐところを覗き見していたんだよ」
 完全に騙されていた。
 「本当はこれで終わりのはずだったんだが、村田のやつがおまえのことを気に入ってね。やらせてくれってせがむものだから、しばらくあいつに犯させてやったんだ。ま、このときの収穫は、おまえがフェラチオをやれるようになったことだ。フェラチオを教えるのは、純の役割だったんだが、手間が省けたってところだ」
 「紗也伽が新納のペニスを噛み千切ったのは、本当なの?」
 「ははっ! あんなの。見せかけに決まってるだろう? ただ、おまえに噛まれた村田は、再起不能になってしまったようだがな」
 横山は嬉しそうに笑った。
 「仲間なのに、そんなに笑ってもいいの?」
 「仲間? あいつらは仲間なんかじゃないさ」
 「えっ? じゃあ、何なの?」
 「俺のネットを視聴している連中の中で、おまえとやりたいと申し込んできた奴らを抽選で選んだだけだ。だから、奴らがどうなろうと、俺には関係ないんだ」
 ネットカフェや個室ビデオでボクを犯した連中も同じだと横山は言った。
 「『シーン6』は、フェラを覚えさせるために計画したんだな。しかし、おまえはフェラのやり方を覚えてしまった。だから止めようかという話にはなったんだが、純がどうしてもやりたいって言うものだから、計画通りに進めたんだよ。ま、ペニバンをつけた女に女装した男が犯されるこのシーンは結構人気があってな。簡易豊胸術も結構反響があってな。アクセスがずいぶんあったよ。止めないで正解だったぜ」
 「あなたとのベッドシーンはないのね?」
 「当たり前だ。俺の顔を出すわけにはいかないさ」
 「じゃあ、どうしてわたしを抱いたの?」
 「おまえ、頭が悪いな。純と別れさせる口実を作るために決まってるだろう?」
 横山が突然ボクの前に現れた意味がようやくわかった。確かにボクは馬鹿だ。
 「で、今回、おまえに女性ホルモンを与えて女性化させ、性転換させた上で結婚して、処女をいただく栄誉にめでたく当選したのが山口だって事よ」
 『シーン7』が始まっていた。桜井、イヤ、山口とのベッドシーンだ。ベッドシーンとベッドシーンの間にボクが鏡に向かって身体の変化を確かめている場面が挿入されていた。
 「徐々におまえの身体が女性化していくのがよくわかるだろう?」
 ヒッヒッヒとイヤらしい笑い声を上げた。
 『シーン7』は性転換手術の様子だった。
 「これも視聴数が凄かったな。性転換手術を見たいという奴らがいかに多いか思い知らされたぜ」
 ボクが見た映像と同じだ。ボクに見せるためではなく、ネットに載せるためにビデオを撮っていたのだ。
 結婚式の様子をビデオで写していたけれど、思い出作りとは真っ赤な嘘で、これもネットに載せるためだ。
 「おまえの処女喪失の場面は、アクセスが過去最高だったね。あれほどとは思わなかったぜ。ま、もちろん、長谷川先生が気を利かせて処女膜などを作ってくれたお陰でもあるんだけどな」
 『シーン8』の後半、初夜のベッドシーンでは、ボクの人工腟から精液に混じって血が流れている場面が遠景だけど撮されていた。
 「マンションに戻ってからのベッドシーンはあまりアクセスが上がらなかったが、おまえが初めて行った場面では、かなりアクセスが増えたな。『シーン11』だ。しかし、最近は頭打ちだ」
 「だから、わたしは用なしなのね?」
 「おや、わかってるじゃないか。そう言うことだ。しかしだ」
 横山はボクの前に座り込んで、人差し指でボクの顎を上げた。
 「ネットでは稼げなくなったから、他の方法で稼いで貰う」
 「えっ!」
 「ソープで男の相手をして貰おうと思ってるんだ」
 「誰が、そんなことを!」
 「イヤだって言うのか?」
 「当たり前でしょう!」
 「ま、そう言うだろうな」
 立ち上がって、DVDプレーヤーからディスクを取り出す。
 「これをおまえの実家に送ると言ったら、どうする?」
 ボクは横山に飛びつきディスクを奪い、へし折ってやった。
 「ははは。そんなことをしても無駄なことくらいわかるだろう? 何枚だって焼けるんだ」
 あんなビデオを実家に送られたら、生きていけない。
 「ソープで働いてくれるな?」
 「・・・イヤだ」
 「じゃあ、ディスクをおまえの実家に送るしかないな」
 「止めて! それだけは・・・」
 「じゃあ、どうするんだ!」
 項垂れるしかなかった。
 「24時間やろう。明日の21時まで返事を待つ。じゃあな」
 横山は肩で風を切って出て行った。ソープで働くなんて絶対にイヤだ。けれど、拒否すれば、あんな内容にディスクを実家に送られてしまう。
 (もう死ぬしかない)
 ベッドルームに山口が残していったネクタイが見えた。それを手にして、リビングのドアの金具に通し、椅子に載って首をかけた。
 (母さん、ごめん。親孝行できなくて)
 椅子を蹴飛ばす。首が絞まり、ふわっと気持ちがよくなった。
 「やれやれ。そっちを選んだか。しょうのない奴だ」
 空耳かと思ったけれど、横山の声だった。
 「ビデオがまだ動いているのがわからなかったのか? リアルな首吊りを見たがる人間も多いんだ。きっとアクセスが増えるぞ」
 そんな声を聞きながら、ボクは意識を失った。



inserted by FC2 system