第6章 急変した事態


 20日が過ぎた。この20日で、俺は完璧に女の子のように振る舞うことができるようになっていた。こんなのは自慢にならないけれど、今の女装した俺は、誰が見ても女に見えると思う。
 3日に2日は目出し帽の男がやってきて貫かれた。恥ずかしいことに、この頃俺は、貫かれて女の子のように行くのが好きになっていた。
 だから、進んでフェラチオをし、男のペニスをケツの穴に導いて腰を振った。目出し帽の男は、そんな俺をニタニタしながら見ていた。

 昨日の夜、目出し帽の男が帰り際に俺にこう命じた。
 「明日は浣腸をして腸の中を綺麗にしておけ」
 「えっ! それは・・・」
 「生で中出ししてやろうって言ってるんだよ。返事は?」
 「は、はい。わかりました。やっておきます」
 俺は浣腸液を男から受け取った。俺は男に中出しされることに興奮を覚えていた。俺はもはや完全にホモに陥っている。

 そして今日、俺は言われた通りに準備を整えて、目出し帽の男がやってくるのを待った。松田がマンションを出るとほとんど同時にやってきた男と抱き合い、唇を重ね、その舌を吸った。
 下半身を露出させた男のペニスを頬張り、懸命に頭を振った。男は行かずに今度は俺の愛撫を始めた。
 着ているものを剥がれることはないけれど、ブラジャーがずらされて乳首を吸われた。そうされると、俺は感じて悶えた。
 「あっ! そんなこと・・」
 男が俺のケツの穴を舐め始めたのだ。
 「膣を舐めてるんだよ。おまえの膣をな」
 信じられないほど感じた。そして貫かれ、男のザーメンが俺の中に放出されたとき、これまでで最高の快感の中で意識を失っていた。

 目出し帽の男がマンションを去ってから1時間ほどして松田が戻ってきた。相当に機嫌が悪い。
 皮のジャンバーをソファーの上に叩きつけながら喚いている。どうやら、今日は麻雀に負けたらしい。いくら負けたか聞けばやぶ蛇になるだろうと考え、黙っていた。
 「コーヒーか、何か、飲むか?」
 少し低いけれど、女らしく聞こえる声も出せるようになっていたけれど、松田の前では男の声、男言葉で話している。
 「ああ。頼む」
 ぶっきらぼうに言って、ソファーの座った。俺はコーヒー豆を挽き、ドリップして、カップを松田に渡した。
 「美味い。おまえ、コーヒーを入れるのが上手いな」
 一口飲んでから俺を見ていった。
 「普通にやっただけだよ」
 「そうか」
 何か意味ありげな表情で俺を見ながらコーヒーを啜った。

 コーヒーカップを洗っていると、トイレに行った松田が俺のそばにやってきた。
 「何だよ」
 「おまえ、可愛いな」
 そう言って俺の尻を撫でた。さっきは感じなかったけれど、アルコール臭い。少し酔っているようだ。
 「止めろよ。俺は男だ」
 「わかってるさ。わかってるが、チンポが勃っちまってるんだよ」
 「おまえ、アホか? 俺はホモじゃねえぞ」
 ホントはホモに陥っているけれど、松田の前ではそんな素振りは絶対に見せていなかった。
 「いいじゃねえか。ちょっと尻を貸してくれ」
 「馬鹿言うなよ。お断りだ」
 跳ね避けようとしたとき、俺の首筋にナイフが当てられた。キッチンの果物入れの中に置かれていた果物ナイフだ。
 「ひとり殺すもふたり殺すも同じだ。良美と同じ運命を辿りたくなかったら、俺の言うことを聞け」
 目がおかしかった。アルコールだけの影響じゃない。狂った人間の目だ。頷くしかなかった。
 「ベッドに行け」
 背中にナイフを突きつけられてベッドルームへ向かった。
 「こんなこと、止めろよ」
 「うるさい!」
 ベッドの前で背中をドンと押され、つんのめってベッドの上に倒れた。ミニスカートが捲り上げられ、パンティーが引き下ろされそうになった。
 「止めろ!」
 反射的に後ろに向かって蹴飛ばすと、俺の足が松田の腹をとらえていた。
 「ぐわっ!」
 振り向くと、腹を押さえて後ろに倒れていく松田の姿が目に入った。ガンと大きな音がした。松田の後ろ頭がタンスの角にぶち当たったのだ。その弾みでタンスの扉が開いた。
 起き上がってパンティーを戻し、スカートの裾を引っ張り下ろしてベッドのそばに立ち上がった。
 「おい、松田」
 ピクリとも動かない。
 「松田。冗談は止せよ」
 心臓に耳を当ててみた。動いていなかった。
 「し、死んでる。ど、どうすりゃ、いいんだ」
 力が抜けて、俺は床の上にへたり込んだ。

 どれくらいの時間がたっただろうか? パトカーか救急車か知らないけれど、ともかくサイレンの音でハッと正気に戻った。
 もう一度松田の鼓動と呼吸を確かめる。
 (やっぱり死んでる・・・)
 良美の時は、見た目で死んでいると思い確かめなかったから、もしかしたら死んだ振りだったかも知れないと思う。けれど、目の前に転がっている松田が死んでいるのは疑いがなかった。
 「待てよ、待てよ、待てよ」
 状況を考える。
 「酔って戻ってきて、何かの弾みでひっくり返って頭を打って死んだ。そうだ。これは事故死だ」
 俺が蹴ったことが原因かも知れないけれど、そんなこと、誰も気づかないと思った。
 (松田がいなくなってしまったんだから、良美の振りを続ける必要はないな。着替えて逃げよう)
 俺は大急ぎでスカートを脱いだ。脱ぎながらあることに気がついた。ここには松田と良美しかいないことになっている。男の俺が出て行ったら、何らかの疑いを掛けられるかも知れないと思った。
 (女装して出て行って、男に戻ればいいんだ)
 そう考え直し、再びスカートを穿いた。それから、俺がこの部屋に来てから松田に買い込ませたものを思い出しながら、バッグに詰めていった。俺がこの部屋に着てきた服と女物の下着やスカートなどだ。
 (指紋は?)
 妙に消すと、かえって事件性を疑われると考えた。だから、何もせずに部屋を出た。この時は、逃げ出したら殺されるなんてことは頭になかった。逃げ出さなければ、松田を殺した殺人犯になってしまうことを恐れたのだ。

 午前1時半、マンションを出入りする人間はいないだろうと思っていたのに、玄関で酔っぱらった男に出会った。俺に抱きついてきたので、思い切り頬を撲っ叩いてやった。
 (これで女が出て行ったと証言してくれるだろう)
 電車とタクシーを使って俺のアパートへ戻った。
 「灯がついていない。まだ仕事だろうな」
 午前2時を回っている。そろそろ戻ってくる頃だなと考えながら、鍵を開けて部屋の中に入った。
 スイッチを入れると、部屋の中がパッと明るくなった。
 (イヤにかび臭いな。埃が溜まってる。真夕美のやつ、あのまま戻っていないのか?)
 部屋の中をよくよく調べてみた。どうもあの時出て行ったまま戻っていないようだ。待っていることを期待していたからガックリ来た。
 (これも自業自得だな)
 バッグの中から着替えを出そうと腰を下ろしたとき、ドアがバタンと開いた。人相の悪い男たちが雪崩れ込んできた。
 「ヒロシはどこだ!」
 「し、知らないわよ」
 咄嗟に女声、女言葉で答えた。
 「どこへ行った!」
 「わたし、3週間前、ヒロシと喧嘩して飛び出たから、そのあとのことは知らないわ」
 通じるかどうかわからないけれど、真夕美の振りをした。
 「ホントだな?」
 「ええ。あんたたち、誰? 借金取り?」
 「そうだ。期限はとっくに切れている。見つけ出して、ぶっ殺してやる!」
 ぞっとしながら、代わりに俺にソープで働けと言い出さないかと恐れた。それが奴らの常套手段だからだ。しかし、男たちは、舌打ちをして出て行った。
 ホッとしたとき、別の男たちがやってきた。
 「何よ、あんたたち」
 「警視庁のものだ」
 警察手帳を俺の目の前に突きだした。
 「こに住んでいたタツカワヒロシを捜している。心当たりはないか?」
 「どうしてあいつを捜してるのよ」
 サツが絡んでくるとは思ってもみなかったので確かめた。
 「今日の午前中、いや、正確に言えば昨日の午前中、大菩薩峠の山中で身元不明の女性が遺体で発見された。その遺体の手に、タツカワヒロシからの手紙が握られていたんだ」
 ギョッとして尋ねた。
 「どんな手紙なの?」
 「よりを戻したいから会ってくれと言った内容のものだ」
 嵌められたと感じた。
 「あの人、わたしという女がありながら浮気していたのね! あんなやつ、捕まえて死刑にして!!」
 「行く先は知らないんだね?」
 「知ってたら、今すぐ行って、絞め殺してやるわ!!」
 俺にしては上手い芝居だったと思う。警察官は、連絡があったら、通報するようにと俺に告げて去っていった。
 借金取りの男たちは、サツが近くにいることを知っていたから、俺を連れて行かなかったのかも知れない。つまり、サツに助けられたと言うことだ。
 (それにしても松田のやつ、借金を帳消しにしてやるなんて言ったのは嘘だったみたいだし、しかも良美殺しの罪を俺に着せるなんて。死んで当然だ。待てよ。てことは、俺をニューハーフに仕立て上げて借金を支払わせると考えたのは間違いか)
 考えながら大変なことに気づいた。松田が死んでしまっては俺が好美を殺していないことを証明する手段がなくなってしまうのだ。
 (例え無実を証明できたとしても、今度は借金取りの男たちに殺されてしまうかもしれない。どうしたら・・・・)
 考えていると、ふと気がついた。
 (借金取りの男たちもサツも、俺のことをタツカワヒロシだと認識しなかった。てことは、このまま女装を続けていれば大丈夫と言うことだ)
 女装したままでいるのはいいけれど、ここにいてサツの目が届かなくなったとき、借金取りの男たちに拉致されて売り飛ばされそうな気がした。
 (早くどこかに逃げないと)
 けれど、行く宛はまったくない。金もない。
 (困った、困った、困った)
 考え倦ねていると、携帯が鳴り始めた。
 (誰だ? 俺に電話を掛けてくるやつは?)
 心当たりはひとりしかない。番号を見ると、間違いなくやつだった。
 (俺を抱きたいって言う話だろうな。どうするかな? やつなら俺を助けてくれるだろうか?)
 呼び出し音は鳴り続いている。迷ったあげくに受話スイッチを押した。
 「もしもし」
 《どこにいる?》
 「あなたの知らないところよ」
 《マンションで待っているから、すぐに戻ってこい》
 「マ、マンションって!」
 やつ・目出し帽の男は鍵を持っているから部屋に入られるのだ。マンションにいると言うことは、松田の死体を見たに違いない。
 「そ、そこには・・・」
 《松田の死体が転がっていると言うんだろう?》
 やっぱり松田の死体を見つけているのだ。
 「え、ええ」
 《おまえが松田をやったのか?》
 「ち、違うわよ。勝手にひっくり返って、頭を打って死んだのよ」
 《勝手にねえ。まあ、いい。戻ってくるんだろうな?》
 「松田の死体はどうしたの?」
 《心配しないでいい。俺が処分した》
 「処分した?」
 《ああ。絶対に見つからないところだ》
 「ホントに絶対見つからない場所なの?」
 見つかったら、事故死ではないと疑われるかも知れないのだ。
 《ああ。絶対に見つからない場所だ》
 「でもわたし、そこへは戻れないわ」
 《どうしてだ?》
 「わたし、酒井良美じゃないもの」
 《その良美とか言う女、どこへ消えたんだ?》
 言おうか言うまいか迷う。
 《生きていないんじゃないのか?》
 そう問われれば答えないわけには行かない。
 「・・・ええ」
 《松田がやったんだな?》
 ここははっきりと言っておくべきだ。
 「そうよ」
 《どうしておまえが良美の振りをして松田をかばう?》
 「借金があるのよ。200万ほど」
 《ああ、なるほど。で? 死体はどこに隠したんだ?》
 「知らないわ。わたしが良美を演じている間に松田がどこかに捨てに行ったから。でも、見つかったってサツが言ってたわ。大菩薩峠の山の中で」
 《はい、はい。夕方のニュースでやってたやつだな。しかし、身元不明だと報道されていたぞ》
 サツもそう言っていたことを思い出す。松田は身元を証明するようなものは何もないとも言っていた。
 《だったら、おまえがこのまま良美になればいいじゃないか》
 「そんなこと・・・」
 《良美という人間が存在してる以上は、あの死体は良美とは判断されない。そうじゃないか?》
 「良美を知っている人間がいて、わたしは良美じゃないって証言したら?」
 《良美を知っている人間がいないところに引っ越す。そうすれば、おまえは良美になれる》
 「だいじょうぶかしら?」
 《案ずるより産むが易しと言うだろう? ともかくマンションに戻ってこい》
 「わかったわ」
 俺は部屋の灯を消し、荷物を持ってアパートを出た。サツや借金取りに追われないように、まずは駅前のビジネスに泊まり、始発電車に乗って、1日中あちこちと動き回ってからマンションに戻った。
 「ずいぶん遅かったな?」
 「回り道をしろと言ったのはあなたよ」
 「それはそうだがな」
 俺はベッドルームの中を覗いてみた。松田の死体があった痕跡もない。
 「今日は遅くなってしまったから、予定を1日ずらそう。明日、キミ・酒井良美は霧島譲と婚姻届を出した上で、大宮のマンションに引っ越す」
 「えっ! 婚姻届? 結婚するの」
 「そうだ。そうすれば、姓が変わる。霧島良美になる」
 「霧島譲って誰なの?」
 「バカだな。わたしに決まってるだろう?」
 「あなたと結婚。いいの? わたし、男なのよ」
 「いいに決まってるじゃないか」
 目出し帽の男、イヤ霧島は笑いながら言った。
 「キミのような素晴らしい女と結婚できるんだ。しかも、正式にね」
 霧島は男しか愛せないんだろう。その霧島が男を法律上正式な形で妻にできるのだ。
 「キミにとってもいいことばかりだ。借金は返さなくてすむし、確か警察にも重要参考人として追われているだろう? それもなくなる」
 確かにその通りだ。
 「それに、わたしに愛してもらえる」
 俺は顔を赤くして下を向いた。
 「どうしてここまでやってくれるの?」
 「それは、おまえを手に入れられるからに決まってるだろう?」
 「そんなにわたしのこと、気に入ったの?」
 霧島は頷いた。
 「話が決まったところで、前祝いと行こうか?」
 霧島がニタリと笑って俺を抱き寄せた。

 ショートカットのウイッグに取り換えさせられ、スカートスーツに着替えると、いつもの俺ではないように見えた。
 目出し帽を取り払った霧島譲は、岡田准一ふうのいい男だ。こんな男がホモだなんて信じられない。
 霧島は俺を創作フランス料理の店に連れて行った。ファミレスしか行ったことのない俺にとってはハードルが高い。
 「そんなに緊張しなくてもいいぞ。箸を出してくれるからな」
 ナイフにフォークの使い方くらい知っている。しかしまあ、気を使ってくれて嬉しかった。
 ただ、こう言う料理は俺の口に合わない。フォアグラなんて油の塊にしか思えないし、トリュフのどこが美味いのかさっぱりわからない。俺にとってはホカ弁や牛丼の方がご馳走だ。
 ディナーを終えると、霧島は真っ直ぐにホテルへ向かった。
 「引っ越しの準備はしなくていいの?」
 「引っ越しは偽装だ。あの部屋の中にあるものはすべて処分して貰う」
 「家財道具を全部買い直すの?」
 「そうだ」
 「勿体ないですね?」
 そう言うと、霧島は俺の顔を見て微笑んだ。
 「主婦には勿体ないと思う気持ちが大切だ。良美は合格だ」
 良美と呼ばれてどぎまぎする。
 「今回は特別だ。それに、他人が着た服は着たくないだろう?」
 「あ、まあ」
 俺はあまり気にしないタイプだけれど、新しいものを用意してくれる方がありがたい。
 「さあ、奥様、お先にどうぞ」
 「奥様だなんて」
 「では、愛しの我が妻よ。どうぞ、先に入って」
 「もう。うっ!」
 抱きしめられ、唇を塞がれた。ドアが閉まり、ベッドに運ばれていく。
 「良美、愛しているぞ」
 霧島のそんな言葉をぼっ-として聞いた。スーツを脱がされ下着姿にされた。そして愛撫され、貫かれる。
 男の性器に排泄口を貫かれることに喜びを感じる自分が異常だと思わなくなっていた。
 (異常だと思うのは他人の勝手だ。俺がよければそれでいいのだ)
 霧島のザーメンを身体の奥深くに受け取りながら、俺は身体を痙攀させた。



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