第8章 脱出

 どんなに太田への復讐を考えたとしても、意識が混濁し、身体の自由がきかない状態では、すべては机上の空論だ。
 田中看護師に言葉で辱められ、木村看護師にほとんど毎日性器を蹂躙される日々は変わらない。

 節分の行事が終わったある日、偶然がボクに一条の光を与えた。その日の夜、ボクに寝る前の薬を与えた看護師が、薬を飲み込んだことを確認せずに部屋を出て行ったのだ。
 いつも薬とコップ一杯の水を与えられるのだけれど、薬は水と共にボクの喉を通り抜けて胃の中に入ってしまう。ところがその夜は、3個のうちの2個が頬の内側に留まっていたのだ。
 看護師が出て行った後、ボクはその薬を吐き出した。しかし、1個の薬だけでも強力で、すぐに眠り込んでいた。けれど、翌朝起きたときの状況は変わっていた。頭がかなりすっきりしていたのだ。
 起きてすぐ、吐き出した薬を唾液で溶かして部屋の隅にゴミのように捨てておいた。朝食が済み、薬を飲まされる。5個のうち2個は飲み込まないつもりだったけれど、4個飲み込んでしまった。
 またもや朦朧状態になり、昼も夜も全部の見込む羽目になってしまった。夜勤の看護師は前日と同じ看護師で、やはり3個中2個を飲み込まずにすんだ。
 翌日は、3回の投薬のすべてで2個ずつ飲み込まずにすませた。寝る前は2個を飲み込んでしまったけれど、朝の朦朧状態はかなり少なかった。
 1週間もすると、眠気はあるものの、朦朧という状態ではなく、ボクの意識はかなりハッキリしていた。ただ、ボクはずっと朦朧状態を装っていた。

 意識がハッキリした状態で、おむつの中に大小便をするのは、惨めで恥ずかしい。それに、木村看護師による陵辱も以前のように朝昼晩ではなくなっていたものの、毎日のように行われていて、屈辱以外の何者でもなかった。けれど、この地獄を脱出するためだとぐっと我慢しておむつの中に排出し、ダイレーターの抽送に悶えて見せていた。
 「木村。あんた、ホントに好きねえ」
 ボクの右足を抱え、ダイレーターを挿入しようとしている木村看護師に向かって、田中看護師は侮蔑の表情を浮かべた。
 木村看護師は無言のままダイレーターをボクの中に挿入した。
 「先にナースステーションに戻ってるわよ」
 言い残して田中看護師は病室を出て行った。
 (チャンスだ)
 ボクは上体を起こして、木村看護師の首に両手を回して唇を合わせた。木村看護師は驚いたけれど、ボクが差し入れた舌を吸った。さらにボクは、木村看護師の穿いていたトレパンのファスナーを降ろした。
 ボクはフェラチオをしようとしていた。ボクを陵辱している木村看護師のペニスを銜えようとしていた。
 ボクはこの女の身体を使って木村看護師を味方に引き入れ、脱出の手助けをして貰おうと考えていたのだ。
 フェラチオなんて当然初めての経験だ。出てきた木村看護師のペニスは、臭くて反吐が出そうだった。けれど、明確な目的のあるボクは、躊躇うことなく口の中に入れた。
 よほど溜まっていたのか、それともボクのやり方はうまかったのか、何分もしないうちにボクの手の中、口の中で膨らんできて痙攣を始めた。
 ボクの口の中に吐き出された粘液は生臭く気持ちが悪かった。けれどボクは、それを喉を動かして飲み込んだ。そして、そのままボクはベッドの上に仰向けに倒れ込んだ。
 トレパンのファスナーを上げた木村看護師がボクに近寄ってきて、口角から垂れている粘液をハンカチでぬぐい取り、嬉しそうにニタリと笑ってボクの頬にキスして病室を出て行った。
 自分で決めたことだけど、こんなことをしなければならないなんて、悔しくて情けなくて涙が出た。涙を流しながら、太田への怒りを倍増させた。

 翌日の夕食の時、木村看護師はいつもにも増してもたもたとして田中の怒りを買っていた。
 「あんたなんかと仕事をするのはもうイヤだわ!」
 捨て台詞を吐いて出て行った。ドアの隙間から田中看護師の姿が見えなくなったのを確かめると、木村看護師はボクの目の前に来てトレパンのファスナーを降ろした。ボクは出てきた隆起を口に銜えた。
 今日はイヤな臭いがわずかだった。木村看護師はボクにフェラチオをして貰いたいために、洗ったか拭いたかしてきたようだった。
 (ふふ。可愛いやつ)
 ちょっと丁寧に舐めてやった。そして、今日も吐き出された白い粘液を飲み込んだ。

 ほとんど毎日フェラチオをしてやった。木村看護師は次第に耐えられるようになり、フェラチオ以上のことを期待する様子を見せ始めた。
 8回目のフェラチオの時、ボクは途中で口を離してベッドの上に仰向けになった。木村看護師はボクの顔をジッと見てゴクリとツバを飲んでから、パンツ型のおむつをそっとズリ下げた。
 それからドアの方に戻って外の様子を確かめてからボクに覆い被さってきた。フェラチオという行為でボクも性的に興奮していて、あそこは濡れそぼっていた。だから、容易に挿入された。
 フェラチオでは耐えられていたのに、木村看護師は挿入してすぐにボクの中で果てた。早漏だと蔑まれる心配がないせいか、木村看護師はボクのあそこを丁寧に拭き取って満足げな表情を浮かべて病室を出て行った。
 その日以降、フェラチオと中出しがセットになった。

 木村看護師は初めからボクに気があった。だから、ボクを手に入れられてすごく喜び、満足していた。ボクを抱きながら、好きだと耳元で囁き始めたのは、10回目のセックスの途中だった。ボクも好きだと言ってやった。その時の木村看護師の顔は世界中の幸せが木村看護師ひとりに降り注いだというように輝いていた。
 それからさらに5回目のセックスが終わったとき、ボクは結婚して欲しいと告げた。
 「無理だよ。美穂は患者で、ここから出られないから」
 「ここから出て、木村さんと結婚したい」
 木村看護師はちょっととろい上に舞い上がっていたから、ボクがまともな言葉を口にしたことをおかしいと思っていなかった。
 「木村さん、わたしを外に連れ出して。連れ出して結婚して。愛してるのよ」
 木村看護師はボクの肩を抱いて、どうしたらいいだろうと呟いた。
 「木村さん、田中看護婦さんのこと、嫌いでしょう?」
 「ああ。大嫌いだ」
 吐き捨てるようにして言った。
 「わたしの代わりに田中看護婦さんをここに閉じこめて、わたしが看護婦さんに化けて出て行くことはできないかしら?」
 「いいアイデアだ」
 ただ連れて出るなら、賛成しなかったかもしれない。大嫌いな田中看護師をボクの身代わりにするというアイデアに飛びついてきたのだ。
 「どうしたらいいかな?」
 ボクはあるアイデアを木村看護師に伝えた。
 「木村さんとわたしの秘密だよ。もし人に話したら、結婚できなくなるからね」
 念を押すと、わかったよと言って病室を出て行った。

 木村看護師が出て行った後、もしも木村看護師がボクとの約束を忘れて他の人間に話したら終わりだと急に怖くなった。ちょっとでもおかしな行動があったら、殺せという太田の命令が耳に焼き付いていたからだ。
 しかし、翌日になっても何事なく時間が過ぎていった。そして、夕方になった。予定通り木村看護師はゆっくりとボクの口にスプーンを運んでいた。
 「もう! もっと早く食べさせてよ! 帰りが遅くなるでしょう?」
 イライラし始めていた。
 「木村! どうせ、また、美穂のおまんこを弄ぶんでしょう? わたし、先に帰るわよ。いいわね?」
 これ以上は引き延ばせない。ボクは木村看護師が手にしていたトレーから茶碗をつかんで、止めてと叫んで壁に向かって投げつけた。
 「わあ、急にどうしたの?」
 「どうしたのかな? 美穂ちゃん? 美穂ちゃん?」
 ボクは止めて、止めてと両手を振り回して喚き散らす。
 「木村! 鎮静剤を持ってきて。早く!!」
 計画したとおりに事が運んでいた。
 「静かにしなさい!」
 田中看護婦がボクの上に馬乗りになって、頬を撃った。ボクは暴れる。やがて、注射器を手にした木村看護師が戻ってきた。
 「木村! 早く注射をして」
 「わかったよ」
 田中看護婦に気づかれないように木村看護師に目配せすると、頷いてボクたちに近づいてきた。
 ボクは田中看護婦に抱きつく。
 「もう! 離しなさいよ!」
 叫んだとたん、木村看護師が田中看護婦の尻に鎮静剤の入った注射を突き立てた。
 「痛い! 何をするの!」
 ボクから離れようとする田中看護婦をボクは放さなかった。大声を上げようとする田中看護婦の口を木村看護師が塞いだ。田中看護婦は藻掻く。しかし、やがて身体から力が抜けていった。
 「うまくいった?」
 木村看護師が恐る恐る田中看護婦の身体をつついた。ボクはベッドから起き上がった。
 「服を脱がせて」
 一緒になって田中看護婦の着ていたものを脱がせた。そして、ボクもワンピース型の病衣とパンツ型のおむつを取り去って全裸になった。
 パンツ型のおむつを田中看護婦に穿かせて、ワンピース型の病衣を頭からかぶせて着せた。
 「木村さん、誰も来ていないか確かめて」
 木村はドアのそばに行って外を確かめ、誰も来ていないよと答えた。
 「化粧道具は?」
 「これ、買うの、恥ずかしかったんだ」
 照れながらボクに渡してきた。
 「わたしの木村さん、愛してるわ。今晩から、毎日人の目を気にしないでセックスできるわね」
 木村看護師は満面の笑顔を見せた。そんな木村看護師を見て、可愛いと思った。
 「木村さん、外を見張っててね」
 そう命じて、ボクは田中看護師から剥ぎ取った下着を身に着け、白いパンスト白衣、白いシューズを履いた。
 髪の毛を田中看護師に似せてまとめ上げてピンで留め、コンパクトの鏡に向かって化粧を施した。
 「美穂。君は美人だ」
 「ありがとう」
 木村看護師に向かって笑顔を見せ、田中看護師の化粧を落とした。壁に向けて寝かせ、布団をかぶせる。髪の毛と足は少し出しておいた。田中看護師はボクよりも背が低いけれど、寝かせておけばその差には気づかないはずだ。
 「木村さん。出よう」
 木村看護師は喜んでボクの腕を取った。
 「木村さん。田中看護婦さんとは仲がよくないんでしょう? 腕を組んだらおかしいわ。アパートに着くまで我慢して」
 「わ、わかった」
 「それから、鎮静剤を打ったから今晩の薬はしなくていいって、夜勤の看護婦さんに言うのを忘れないでね」
 「う、うん」
 「じゃあ、わたしは先に出るから、木村さんはすぐに追いかけてきて」
 「どこかに行っちゃわないか?」
 「どこにも行かないわ。真っ直ぐあなたのアパートに行くから」
 ボクは木村看護師にキスした。かなり濃厚なディープキスを。ボクは木村看護師のアパートに行くつもりだ。ずっとボクを弄び辱めたけれど、最後はこうして助けてくれたのだから、それなりのお礼をしておきたかった。

 病室を出るとき、心臓が口から飛び出しそうに激しく打っていた。鍵を閉めて、木村看護師に渡す。田中看護師に打った注射は、ボクの経験からすれば、10時間は効く。寝る前の投薬はしないようにして貰うから、朝までは見つからない。その間は絶対に大丈夫だ。
 さらに、こういった場合、明日の朝も鎮静剤を打たれることが多い。その注射をするのは、田中看護師か木村看護師だった。明日の朝は、木村看護師が注射をするだろうから、あの病室にいるのがボクでないと気づくまでは丸一日はあるのだ。
 閉鎖病棟の出入り口に向かって歩く。急がず慌てず。木村看護師はボクの言葉を信じて閉鎖病棟内にあるナースステーションへ鍵を置きに行った。別れるとき、ちょっと不安げな表情を見せたけれど、ウインクするとにこりと笑った。頭は少し鈍いけれど、純な男だと思った。
 閉鎖病棟と外を隔てる扉をドキドキしながら抜けた。見つかったら、即、死の文字が脳裏をかすめる。
 すぐ外にある受付にいた女性が視線をあげたけれど、すぐに読みかけの雑誌に目を落とした。ボクの着ている看護服が免罪符になっているのだ。
 木村看護師に教えられたとおりに廊下を曲がってロッカールームへ入った。『田中(小)』のネームが付いたロッカーを見つけ、ポケットの中から鍵を取り出す。
 (これだな)
 小さなキーを差し込んで回すとくるりと回って鍵が開いた。大急ぎで看護服を脱ぎ、着替える。白いタンクトップに超ミニのデニムスカートだ。
 (看護婦のくせにこんな服を着るなよ)
 そう思いながら、パンストは脱いで膝まであるブーツを履いた。サイズが少しきついけれど、ずっと履き続ける訳じゃない。何とかなりそうだ。
 ピンを外して髪の毛を降ろし、ブラッシングして鏡で姿を確かめる。恐ろしいほど似合っていた。化粧も大丈夫のようだ。
 ロッカーの底に転がっていたバッグを肩に掛けて鍵を閉め、外の様子を確かめてからロッカールームを出た。
 職員通用口に向かう。最後の関門だ。
 「お疲れ様」
 横目でぼんやりとテレビを見ているガードマンに、顔は向けないで挨拶して通り過ぎた。ガードマンはお疲れさんと戻してきた。
 外はすでに暗くなっていた。半年ぶりの外気は冷たかった。
 (こんな格好だからな)
 職員駐車場へ向かい、ポケットの中からキーを取りだしてボタンを押す。右手前6台目の車からアンサーバックがあった。
 (こう言うとき、アンサーバックの機能は便利だよな)
 ドアを開いて中に乗り込む。ボク自身、運転免許は持っているけれど、ほとんど運転したことがない。しかし、早くここから離れなければならない。キーを差し込み、エンジンを掛けた。
 (おっ! 軽の癖してナビが付いている)
 バックして方向転換し、駐車場を出た。病院の門を抜けると、ようやく自由になった実感がわいた。およそ一年ぶりの娑婆だ。嬉しくて涙が出た。
 500メートルほど走って路肩に車を停め、渡されていたメモを見ながら木村のアパートの住所をナビに設定した。8キロの道程らしい。ナビに指示されるままに車を走らせた。

 木村のアパート近くに着いたけれど、どのアパートなのかわからない。フロントウインドーから周りを見回していると、後ろから車がやってきた。木村が運転席から身体を乗り出して右へ行けと知らせてきた。右へ曲がると、白塗りのアパートが真正面に見えてきた。
 木村がクラクションを鳴らす。停まると、追い抜いていって駐車場に車を入れて車を降り、木村の車の真後ろに付けろと指示してきた。指示に従って、車を停めた。
 「約束通り、来てくれたんだね?」
 「何度も裏切られてきたから、自分はひとを裏切らないって決めてるの」
 木村は102号室のドアを開けた。調度は一応揃っているけれど、殺風景な部屋だった。
 中に入ると、木村はボクを抱き寄せた。
 「ちょっと待って、夕食は食べたの?」
 「夕食なんていらないよ。すぐに美穂を抱きたい」
 「時間はあるわよ。腹ごしらえをして、ゆっくりやりましょうよ」
 ゆっくりと言うところは強調して言った。
 「そ、そうだな。腹ごしらえしてからの方がいいな」
 「どこかに食べに行く? それとも、何か作ってあげようか? 料理はあんまり得意じゃないけど」
 木村は、答える代わりに首を傾げてボクを見た。
 「どうかした?」
 「急に正常になって、まるで別人みたいだなって思って」
 「ああ、それはあなたのお陰よ」
 「ボ、ボクの?」
 もう一度首を傾げた。
 「木村さんがわたしにいっぱい精気を送り込んでくれたから」
 「セイキをかあ」
 木村はニタニタした。『精気』ではなく『性器』と勘違いしたかもしれない。
 「木村さんといたら、わたし、どんどん元気になるわ」
 「うん。どんどん元気にしてやるよ」
 「で、どうするの?」
 「俺、手料理なんてしばらく食べてないんだ。作ってくれるとありがたいな」
 「わかったわ。でも、材料はあるの?」
 木村は冷蔵庫の扉を開き、肩をすくめた。
 「材料を買い出しに行くよりも食べに行った方が早いかな?」
 「遅くなっても、美穂の手料理が食べたい」
 言い出したら聞かない子どものように言った。
 「じゃあ、買い物に行こう」
 すぐ近くに午後8時まで開いているスーパーがあるという。炊飯器をセットしてから、そこまで歩いて買い物に出かけた。

 肉や野菜、豆腐や納豆などを冷蔵庫に入りきれないほど買い込んで木村のアパートに戻った。
 「何を食べたい?」
 「何でもいいよ」
 「何でもいいって言うのが一番困るんだけどなあ」
 木村は考え込む。
 「お刺身の盛りを買ってきたから、それと肉じゃがに冷や奴でいい?」
 「いいねえ」
 木村は頷いた。作るものは肉じゃがだけだ。ジャガイモ、タマネギ、にんじん、糸こんにゃくを刻み、炒めた薄切りの豚ロースに加えて、味付けをして煮込んだ。
 あまり美味しくできなかったけれど、木村は美味しい美味しいと言って食べてくれた。日頃の食生活がひどいのか、それともボクに気を使っているのかわからない。
 片付けをしていると、後ろにやってきてお尻を撫でた。
 「まだ、お預けよ。お風呂に入って綺麗にしてから」
 「もう!」
 「早くお風呂を溜めて。遅くなる一方よ」
 木村はそそくさと浴室へ姿を消した。

 浴室の中で木村は鼻歌を歌いながら身体を洗っている。ボクは着ていたものを脱いで、浴室の扉を開いた。ギョッとした顔がにやけた表情に変わった。ボクは、これは失敗したなと思っていた。浴室はビジネスホテルのもののように狭かったのだ。
 「背中、擦ってあげる」
 泡の付いたタオルを取り上げて背中を擦ってやった。広く大きな背中だ。子どもの頃、父の背中を擦ってやったことを思い出した。
 「美穂。交代だ。今度は俺が擦ってやる」
 ボクはタオルを木村に渡し、背中を向けた。背中からお尻を擦る。
 「駄目! そんなところを触っちゃ!」
 睨み付けると、首をすくめた。
 「前も洗っていいか?」
 ボクは立ち上がり、木村の方に向き直った。木村はボクを眩しそうに見ながら、首筋から胸、腹を洗っていった。木村のペニスが天を向いているのが目に入った。
 お湯で泡を洗い流すと、木村は立ち上がってボクを抱きしめ唇を重ねてきた。そして、乳房を揉みながら、首筋に舌を這わせてくる。
 「ここじゃ、狭いわ」
 ボクの言葉が聞こえなかったのか聞こえない振りをしているのか、木村はボクへの愛撫を止めない。
 (仕方ないな。最初からそのつもりだったから)
 これまでフェラチオをし、木村を受け入れてきたのは、ただあの精神病院を抜け出すためにボクの女という道具を使ったに過ぎない。けれど今は、木村へのお礼も含めているけれど、快楽のためにセックスしようとしていた。
 しばらく愛撫された後、ボクは跪いて木村の雄々しく堅くなったものを手に取った。口に入れ頭を前後に動かし、舌を使って舐め回す。石鹸のためか舌が少しピリピリした。
 味が変わった。先走り汁が出始めたのだ。これ以上やると、口の中に爆発されてしまう。ボクは口を離して立ち上がった。そうして木村にキスしてから、背中を向けて壁に両手を突き、お尻を突き出した。
 木村は腋から両手を差し入れてきてボクの乳房をつかみ、挿入を試みる。入らず焦っているのが伝わってきた。ボクはお尻を少し移動させて導いた。
 「あん」
 ズブズブと入ってくる。この感触が何ともいい。本来ボクにはない場所に、ボクが永遠に失ってしまったものを受け入れる。
 (ああ、感じる)
 木村の抽送が始まる前にすでにボクは小さく行っていた。木村がボクの乳房を揉みながら激しく突き上げてくる。気持ちがいい。
 ボクは女とセックスしたことがない。童貞だ。だから、マスターベーションの快感しか知らない。そのマスターベーションよりは遙かに気持ちがいいと思った。
 「はあ、はあ、はあ、木村さん、いい、いいわ」
 「タケシって呼んでくれ。美穂」
 そう言えば、ネームプレートに『木村剛』と書いてあったと思い出す。
 「ああ、剛。もっと、もっと」
 バックから入り込んでいる木村のペニスがボクの一番奥まで入っている。引き抜かれ、押し込まれるたびに快感がボクを貫いた。
 「ああ、美穂。行くぞ。行くぞ。い、く、ぞ」
 ボクの中で大きく膨らみ、ずんずんという感じで蠕くのを感じた。タイルの目地が見えなくなり、足に力が入らなくなった。木村がボクの身体を抱きかかえるのを感じながら、ふうと意識を失った。



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