第3章 助けて貰ったお礼に

 曲がりくねった道を1キロほど下っていくと、車が通れるくらいの道に合流した。さらに1キロほど下って何軒かの農家が立ち並ぶ集落に着いた。その真ん中を国道が通っていた。バス停がある。バス停のそばに雑貨屋があり、赤い公衆電話があった。太田さんはここまで電話を掛けに来てくれたのだ。
 バスの時刻表を見る。バスは1時間おきで、30分ほど待たなければならない。雑貨屋の前に据えられているベンチに座って待つことにした。
 バス停のそばにある自動販売機でジュースを買って座る。リングプルを引いたところで、目の前に黒塗りの車が停まった。
 (バス停に車を停めたら違反なんだぞ)
 もちろん、そんなことを叫ぶ勇気はない。後部座席から男が降りてきた。ボクは知らんぷりをしてジュースに口を付けた。
 「あのう、ちょっと尋ねたいことがあるんだが?」
 ボクに声を掛けてくるなんて思ってもみなかった。
 「はい?」
 「もしかして、奥田大樹君じゃないかね?」
 「そうですけど、どうしてボクの名前を?」
 驚くボクに男はにっこりと微笑んだ。
 「失礼。わたしはこういうものです」
 男はスーツの内ポケットから取り出した名刺をボクに差し出した。
 「太田純一? もしかして、この奥の太田さんとご関係が?」
 ボクは立ち上がった。
 「父です」
 「あ、ああ。そうですか。昨夜はお父さんとお母さんに大変お世話になりまして」
 太田ジュニアは30の半ばくらいに見える。『純一』と言う名前からすると長男だろう。そうすると太田さん夫妻は60前後か、老けて見えるんだなと思った。
 「イヤ、困っている人を助けるのは当然のことですよ」
 「ボクに何かご用でも?」
 「そう、そうなんですよ。奥田君に是非力を貸して欲しいことがありましてね。助けて欲しいのですよ」
 表情が悲壮なものに変わった。
 「助けてくれって、いったい何を?」
 「こんなところでは。とりあえず車へ」
 促されてボクは車の後部座席に乗り込んだ。
 「松本。屋敷へやってくれ」
 松本と呼ばれた運転手は、かしこまりましたと返事をして、車を発進させた。
 (今夜もまた民宿に帰れそうにないな)
 そんな予感がしていた。

 車は国道をひた走り、20分ほど走ったところで山手方向に曲がった。さらに10分ほど走り、大きな門構えの屋敷に滑り込んだ。
 車は玄関先ではなく、少し裏手に回ったところに停まった。
 「奥田君。降りて」
 車を降りると、太田ジュニアはあたりを気にしながら屋敷の中にボクを押し込んだ。長い廊下を進んで、書斎のような部屋に導かれた。
 「大きなお屋敷ですね。太田さんの家なんですか?」
 「まさか。この屋敷はわたしが顧問弁護士をしている八木沢家の屋敷だ」
 「はあ、そうですか」
 太田の名刺の肩書きに弁護士と書かれていたのを思い出す。
 「ボクに力を貸して欲しいとおっしゃってましたけど、どういうことですか?」
 太田弁護士は、こほんとひとつ咳払いをしてから話し始めた。
 「この矢木沢家は江戸時代から続く旧家なんだが、先月、第13代の当主であった矢木沢海壱郎氏が50歳という若さでクモ膜下出血のため急逝してね」
 なるほどこの屋敷の大きさも理解できると思った。
 「海壱郎氏の死亡から50日以内に第14代の就任を行わなければならないんだ。本家の血筋が跡を継ぐのが当然なんだが、分家も虎視眈々と14代を狙っていてね」
 財産相続を巡るおどろおどろしい事件が巻き起こる図式が頭に浮かんできた。
 「ボクに何をしろとおっしゃるんですか?」
 「まあ、話は最後まで聞き給え」
 眉を顰めて睨むようにしてボクを見るので、ボクは身体を小さくして話に集中した。
 「本家の跡継ぎ候補である美子様が当主就任をいやがって家出されてしまったんだ。方々手を尽くして探しているんだが、就任式が残り10日に迫っているというのに、まだ見つからないんだよ。就任式に出席しなければ、分家の跡継ぎ候補が第14代に就任することになるんだよ」
 「ボクに身代わりをして欲しいと?」
 「そう。そうなんだよ」
 「美子様っておっしゃいましたよね?」
 太田弁護士は頷いた。
 「女性ですよね?」
 再び太田弁護士は頷いた。
 「ボクは男ですよ」
 「それはわかっている。しかし、体格や顔の印象が美子様によく似ているんだよ」
 「よく似てると言っても、男が女の身代わりなんて無理ですよ」
 「父から電話があったとき、わたしもそう思った」
 太田さんが民宿に電話を掛けたとき、太田弁護士にも電話したのだ。今朝ハツさんがボクの顔を見て首を傾げ、太田老人にひそひそ話をしていた意味がわかった。女物の浴衣を着たボクが美子という女性に似ていたからに違いない。
 「しかし、バス停にあるベンチに座っている君を見たとき、これはいけるんじゃないかと思ったんだよ」
 「それは恐らくボクの髪の毛が長いせいですよ」
 「イヤ、それだけじゃないんだ。何というか、雰囲気がよく似てるんだよ」
 「でもですね・・・・」
 「そうだ。美子様の世話をしていた女性がいるんだよ。彼女に君を見て貰って、意見を聞こう」
 ちょっと待っていてくれと言い残し、太田弁護士は部屋を出て行った。いくら何でも女の子のまねなんてと思いながら、ボクは部屋の中を眺めていた。

 数分後、太田弁護士がドアを開いた。外に向かってなにやら言って一人で入ってきた。
 「奥田君。そちらのソファーに座ってくれるかな?」
 「は、はあ」
 理由がわからなかったけれど、命じられるままに向かいのソファーに移動した。
 「膝を合わせて、その膝の上に両手を置いて、背筋を伸ばして少し斜めになってもらえるかな?」
 女の子のように座れと言うことだなと理解した。
 「ヘヤーバンドも取りましょう」
 髪の毛を束ねているゴム紐が取り去られた。ボクは手櫛で少し髪の毛を整えた。そんなボクを角度を変えてみた後、太田弁護士はドアを開いて外に向かって手招きした。すぐに初老の女性が入ってきた。そうして、ボクの方を見た。
 「お、お嬢様! いつお帰りに!」
 ボクに駆け寄ってきて跪き、手を握ってきた。太田弁護士の方を見ると、したり顔でにやりと笑った。
 ボクの手を握っているその女性を見ると、首を傾げてボクの顔をじろじろと見始めた。
 「お嬢さん・・ではないのですね?」
 「里子さん。美子様によく似てるだろう?」
 里子さんは目を丸くしてボクの顔を見続けている。
 「でだね。美子様が見つからなかったら、美子様の身代わりをやって貰おうと思っているのだが?」
 「そうですね。よく見るとお嬢様ではないですけれど、一見しただけでは、ホント、お嬢様に見えますわ」
 「どうだね? 奥田君。いつも世話をしている里子さんも見間違えるほどなんだよ」
 「でも、よく見れば美子さんとは違うことがわかるんでしょう?」
 「すっぴんだからね。化粧をすれば、恐らく見破れなくなるだろう」
 「化粧なんてイヤですよ。ボクは男なんですから」
 答えると、里子さんが男の方ですかと驚嘆の声を上げた。
 「そう言えば、うっすらとひげが・・・」
 「だから無理だって太田さんに言ってるんですよ」
 「男の方ですか。だったら、無理ですよ。太田さん」
 里子さんもふうと溜め息を吐いて立ち上がった。
 「里子さん。ずっとというわけではないんだ。儀式の時だけなんだよ。儀式さえ乗り越えられればいいんだ」
 「儀式の時だけですか・・・」
 里子さんはもう一度ボクの顔を見た。
 「そうねえ。お化粧をすれば、誤魔化せるかも?」
 ボクは頭をブルブルと横に振った。
 「頼むよ。奥田君。儀式の時だけでいいんだ。もし、美子様が戻ってきたら、その時は何もしないでいいから」
 「けどですね・・・」
 「タダとは言わないよ。報酬は出すから」
 「報酬なんて・・・」
 やっぱりあった方がいい。けれど、女装だよ。女装。ボクは考え込む。
 「儀式は1時間だ。1時間、頑張って貰えばいいんだ。頼むよ。わたしたちを助けると思って」
 太田弁護士は床の上に土下座する。
 「太田さん、止めてくださいよ。頭を上げてください。わかりましたよ。お父さんに命を助けて貰ったようなものだから」
 あのままだったら、もしかすると、凍死していたかも知れないのだ。
 「やってくれるんだね?」
 ボクは頷いた。
 「太田様。ともかく化粧をしてみましょう。化粧をしてみないことには」
 「そうだね。それでは、早速やってみてください」
 ボクは里子さんに託され、太田弁護士は後でもう一度来ると言い残して去っていった。
 「奥田さんっておっしゃいましたね? お嬢様の部屋へ行きましょう」
 先に立った里子さんの後についていった。

 お嬢様の部屋というのは、寝室と居間が一体になったような部屋だった。ピンク色の上掛けが掛かったセミダブルのベッドが端にあり、部屋の真ん中にテーブルがあって、クッションがいくつか置かれていた。床に座って寛ぐようになっているようだ。50型のプラズマテレビが置かれている。ベッドの反対側には大きなデスクがあり、液晶モニターが載っていた。パソコン用のものだ。
 (すげえ)
 「こちらへどうぞ」
 ドアの向こうは、洗面所のような化粧室のような作りになっていた。
 「その椅子にお座りになって」
 値段が想像できないような椅子だ。その椅子に座ると、真正面にある大きな鏡にボクの姿が映っていた。
 (髪の毛は長いけど、女には見えないよな)
 そう思っていると、里子さんがボクの後ろに立って、ボクの髪の毛を両手で触った。
 「ひげを脱毛しましょう。いいですね?」
 ひげくらい何でもない。ボクは頷いた。
 「ヘヤースタイルを変えてもいいかしら?」
 「どんなふうに変えるんですか?」
 「真ん中で分けて、前髪を目の高さに切るんですけど?」
 こんな事が終わったら、短く切ればいいんだと考えた。
 「いいですよ」
 「それでは始めましょう」
 里子さんは、霧吹きを使ってボクの髪の毛を濡らし、櫛で真ん中分けにした。それから大きなカーラーを巻いていった。そうしてから、アンモニア臭い液体を振りかけ、ビニル製の帽子をかぶせた。
 「これで内巻きのウエーブがついて、真ん中で分ける癖がつきますわ」
 そう言いながら、スプレー缶のようなものを手にした。
 「脱毛剤を塗りますよ」
 顎から上唇に白い泡状のものを塗り広げていった。さらに鼻の穴の中まで塗り込んだ。
 「口で息をしてくださいね。吸い込むととんでもないことになりますから」
 脅されて、ボクは口を開いて息をした。
 「眉毛も少し当たりますよ」
 いざとなったら剃っちゃえばいい。どうぞと答えたけれど、口を開いたままの声は言葉にならなかった。
 里子さんは小さな櫛を使って眉毛を切りそろえている。さらにカミソリで形を整えていく。時々ボクから離れて仕上がりを確かめている。かなり細かく形を整えているようだ。
 「これでいいわ。ひげもそろそろいいわね」
 コットンを使って白い泡を拭き取っていく。コットンが黒く汚れていた。鼻の穴は綿棒が突っ込まれた。黒い寄生虫のようなものがぞろぞろ出てきた。
 さらに里子さんは、コットンに何かを染み込ませて、ボクの顔全体を擦るように拭いていく。コットンが茶色に染まっていた。
 「今朝、顔を洗いました?」
 「洗いましたよ!」
 「綺麗に洗ったつもりでも、このように汚れが残っているんですよ」
 茶色のものが顔の汚れだったのだ。
 「さあ、髪の毛を洗いましょう」
 部屋の隅に専用のシャンプー台があった。その前にある椅子に座るとビニル製の帽子が取り去られ、後ろ向きに倒された。
 丁度いい温度に調整されたお湯で髪の毛が洗われる。すごく気持ちがいい。髪の毛を洗い終わると、産毛を剃りますよと告げられ顔を剃られた。産毛を剃った方が化粧ののりがいいのだそうだ。
 「さあ、起きて」
 バスタオルがかぶせられ、髪の毛の水分が充分拭き取られる。さらにドライヤーで乾かされた。自然に真ん中分けになった。
 鏡の前に移動させられ、ビニル製のケープが掛けられた。
 「前髪を切りますよ」
 目の高さで前髪が切り揃えられる。さらに里子さんは、髪の毛全体を綺麗に切り揃えた。可愛らしいボブになった。
 「里子さん、まるでプロの美容師ですね?」
 「昔は美容師だったのよ」
 鏡の向こうからボクに向かってにっこりと笑って見せた。
 「お嬢様のヘヤーはわたしがいつもカットして差し上げてるの」
 「と言うと、このヘヤースタイルは、美子さんと同じだと言うことですか?」
 里子さんは大きく頷いた。
 「さあ、お化粧をしましょう」
 ヘヤーバンドで髪の毛を後ろに留めて、化粧水を染み込ませたコットンで顔全体を叩かれる。
 それからうんざりするほどの手順でボクの顔に化粧が施されていった。
 「さあ、これでいいわ。イヤリングをしましょうね」
 ごく小さなダイヤのように光るものがついたイヤリングを付けられた。
 「これでいいわ」
 里子さんは、インターフォンを使って太田弁護士に化粧が終わった旨を告げた。ボクは鏡の中のボクを見つめていた。どう見てもボクには見えなかった。いや、恐らく女性が同じ化粧をしても、元の顔は想像できないだろう。それは白目のファンデーションがかなり厚く塗られているせいだ。
 「美子さんはいつもこんな化粧をしてるんですか?」
 「そう。お嬢様はとても恥ずかしがり屋なの。だから、素顔がわからないくらいの化粧をするのよ。素顔を仮面で隠すようにね」
 なるほどと納得した。
 「どれどれ、どうなった?」
 太田弁護士が入ってきた。そして、鏡に映ったボクの顔を見て、感嘆の声を上げた。
 「まるで美子様だ。これはすごい」
 「本当ですか?」
 「スナップ写真を持ってきた。見てみなさい」
 手渡された写真を見て、ボクは驚きを隠せなかった。写真を鏡の前に掲げてボクの顔を比べてみる。まるで今のこのボクを写真に撮ったかのようだった。
 「10日後の儀式、やってくれるね?」
 「美子さんが見つからなかったときですよ」
 「もちろんだよ」
 里子さんがビニル製のケープを取り除いた。
 「問題は下だね?」
 「何とかいたしますわ」
 だぶだぶのTシャツとジーンズを見ながら、自信ありげに頷いた。
 「どれくらい待てばいい?」
 「1時間ほど」
 「それでは、夕食の準備をさせておこう。食堂ではまずいな。こちらに持ってこさせよう。それでいいね?」
 「はい、その方が」
 太田弁護士は、スキップをするようにして部屋を出て行った。
 「奥田さん、早速ですけど、服を脱いでいただけますか?」
 化粧に注意しながらTシャツを脱ぎ、ジーンズを脱いだ。里子さんがボクのまわりを一周して、まずはむだ毛の処理ねと告げた。
 「その前にこれに穿き換えてくださる?」
 それは女物のパンツだ。毒喰らわば皿までだ。里子さんに背中を向けてトランクスを脱ぎ、その下着を穿いた。
 「Vラインの処理も必要ですね」
 「下着姿になる訳じゃないんでしょう? そこまでしなくても?」
 「わたくし、きちんとしないとすまないタチなんです」
 キッと口を結んで言われると従わないといけないという気持ちになる。
 「長い下の毛も短くしておいた方がいいでしょう。御自分でやられますか?」
 そんなことを言われたって、どれくらい切ればいいのかわからない。しかし、自分でやれないとすれば?
 「わたくしが切って差し上げましょうか? あら? わたくしのようなおばあちゃんでも恥ずかしいでしょうか?」
 おばあちゃんと言うには若すぎる。せいぜい60だろう。恐らくもっと若い。
 「・・まあですね」
 ニコニコ笑っている里子さんに、恥ずかしいからイヤだと言えなかった。清水の舞台から飛び降りると言ったら大袈裟だろうか? ボクは勇気を振り絞って下着を脱いだ。
 里子さんは、ハサミで手際よくボクの陰毛を短く切り落としていった。
 「さ、これでいいわ。脱毛剤を塗りますから、両手両足を広げてくださいな」
 言われたとおりにすると、里子さんはペニスの上を除いて、首から下に泡状の脱毛剤を塗り広げていった。
 待っている間、里子さんはボクに着せる服を物色してきてドレッサーの椅子の上に重ねていた。
 「そろそろいいでしょうね」
 里子さんがそう言ったのは20分後のことだった。シャワーキャップを被せられて、バスルームに移動させられ、ちょっと熱いシャワーを掛けられた。排水溝に縮れた黒い寄生虫が吸い込まれていくのをじっと見ていた。
 里子さんがバスタオルを使ってボクの身体を拭いてくれる。
 「自分でやりますから」
 「いいですよ」
 どうもボクの股間のものを弄んでいるように思える。
 (里子さん、いくつくらいなんだろう?)
 もう一度里子さんの顔を見る。やはり50半ばだと思うけれど、女の年齢はよくわからない。
 「さあ、ショーツをお穿きになって」
 パンティーとか言わないんだと思いながら、足を通した。Vラインはおろか、ショーツの上からも陰毛はまったくはみ出ていなかった。それはそうだろう。ボクの陰毛は、ペニスの上にわずかに残されただけになっていたのだから。
 (これじゃあ、この仕事が終わった後、大好きな温泉に当分は行けないなあ)
 ちょっとがっかりだ。
 「次はブラジャーね」
 ショーツもレースがふんだんに使われているけれど、手渡されたブラジャーもレース使いが派手だ。
 「カップに詰めるものは・・・。ちょっとお待ちになって」
 里子さんはどこかへ姿を消した。こんなところを誰かに見られたら困るなと思いながら、ドアの陰に隠れて里子さんが戻ってくるのを待った。
 (それにしても脱毛すると肌がツルツルになるんだなあ)
 感心することしきりだ。

 しばらくして里子さんは白い塊を持って戻ってきた。そうしてそれをブラジャーのカップの中に押し込む。
 「ちょうどいいわ。さて次はコルセットをしましょう」
 「コルセット・・ですか?」
 「ウエストを閉めないとスカートが入らないと思うのよ」
 「そうですか」
 簡単に考えていたけれど、これがものすごく苦しい。息ができないほどだ。
 「あら? 少し絞りすぎたみたい」
 一段弛めてくれてかなり楽になった。パンティーストッキングを手渡される。足先まで手を突っ込んで引っ張り出すと、簡単に丸められると教えられた。
 パンティーストッキングを履き終わるとレモンイエローのワンピースを渡された。足を通すと、里子さんが背中のファスナーをあげてくれた。ウエストが少しきついけど、それを言うとコルセットを締められそうなので黙っていた。
 胸全体にレースの飾りがあり、ウエストは絞り込まれている。腰から下あたりはふわっと広がった襞スカートになっている。
 「もう少し丈が長いものはないんですか?」
 太股の真ん中にも達しない短いスカートにボクはぼやいた。
 「10日、いえ1週間でお嬢様になりきっていただかなければならないのよ。そのためには、それが一番なんです。さあ、膝をそろえて、女の子らしくそこに立ってみてくださいな」
 難行苦行が始まった。1時間の女装じゃなかった。美子を演じるために、女として振る舞う訓練を1週間以上受けなければならないのだ。
 こんなこと、引き受けなければよかったと思った。



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