第10章 誤算

 カーテンの隙間から漏れてくる朝の光の中で、全裸の壮一と洋治が絡み合っていた。うまくやらなければ、殺されてしまうかもしれない壮一は、全力で洋治の快感を呼び起こしていた。洋治は壮一のテクニックに酔った。すでに壮一の口の中に放出していたが、壮一の業によって再び元気を取り戻した洋治のペニスは、壮一のアヌスへ導かれた。
 「あうう・・・・」
 そこは当然のことながら腟とは異なる。千切れんばかりに締め付けられて、洋治はあっけなく沈没した。

 午前7時半、シャワーを浴びた洋治が服を着ながら壮一を見つめた。壮一は、笑顔を向ける。
 「あなたとわたしが組めば、会社は安泰だわ」
 「そうだな。・・・・おまえの代わりに死んだ男は誰だ?」
 「三木って男よ。知ってるでしょう?」
 「ああ、あのやくざまがいの男か」
 「そう」
 「何故殺した?」
 「鬱陶しくなったから。仕事を受け入れないとわたしとの関係をばらすっていうから」
 「ヤツと寝てたのか?」
 「ええ。大学時代からの付き合いよ」
 「そうか。・・・・女は? 事故で一緒に死んだ、おまえの秘書は?」
 「ただの道連れよ」
 「美人だったのに、勿体なかったな」
 「わたしもそう思うわ」
 洋治は玄関へと向かった。
 「仕事が終わったらまた来る」
 これで完全に勝利したと壮一は心の中で叫んだ。
 「待ってるわ」
 「絵理子の代わりをすると言ったな」
 「ええ」
 「その言葉に偽りはないな?」
 「もちろんよ」
 「じゃあ、楽しみに待っていろ」
 ニヤリと笑って、洋治はマンションを出て行った。

 その日の午後7時過ぎ、洋治が壮一の住むマンションへやってきた。壮一は、夕食の準備をして待っていた。
 「召し上がるでしょう?」
 「何を作った?」
 「ビーフシチューよ」
 主婦というか、食事を準備するものは、とりあえずは自分お好きなものを作ってしまう。壮一が食事を作ろうと決めたとき、まずビーフシチューが思い浮かんだのだった。
 「どれ、味見をしてみるか」
 スプーンですくって一口味を確かめる。もう一口。
 「おかまにしては料理がうまい」
 「おかまなんて言い方は止めてよ。それに、他人に聞かれたら困るでしょう?」
 「ふん。そうだな。ま、食えんことはない」
 そう言いながらあっと言う間に皿を平らげ、もう一杯と皿を差し出した。皿にシチューを注いでやり、自分の分も注いで並んでシチューを食べた。

 「風呂に入る」
 シチューとパンを食べ終わると洋治は服を脱ぎ始めた。壮一は着替えを準備する。着替えは昼間のうちに用意したものだ。朝の情事で、洋治がトランクスを穿いていたのがわかっていたので、数枚のトランクスを用意していた。それに、2Lサイズのバスローブ。
 洋治が入浴している間に壮一は片づけをした。洋治の入浴は20分ほどだったが、壮一自身の入浴時間が短いものだから、かなり長いと感じた。
 「ビール」
 ソファーに座ってテレビのスイッチを押してから一言そう言うので、壮一はビールを注いでやってから入浴した。
 ショーツ一枚に、あまり透けていないネグリジェを着て洋治のそばに行くと、ちょっと不満そうな表情を浮かべた。
 「もっと透けたのがよかった?」
 「イヤ、どうせ脱がせるんだからいいさ」
 そう言って洋治は立ち上がった。
 「ベッドに行くぞ」
 「いいわ」
 壮一はベッドに向かって歩き始め、洋治がその後に付いてきた。ベッドルームの入り口で壮一はアッと叫んだ。
 「何するの?」
 「こうするんだ」
 洋治はその手に妙なものを持っていた。洋治は壮一の両手に革製の手錠のようなものをかけた。その手錠は何かの器具に固定されているらしく、両腕を後側に固定されて壮一の上半身は動けなくなった。さらに両足もその器具に固定されてしまった。壮一は動きが取れなくなった。あっと言う間の出来事だった。
 「いったい、どうするつもり? わたしを殺すつもりなの?」
 「殺しちゃ、楽しめないだろう?」
 洋治がにやりと笑った。壮一は察した。
 「あんた、サドなのか?」
 「知らなかったのか?」
 壮一は絵理子が洋治と関係を持っていたことは知っていた。しかし、普通の関係だと思っていた。
 「さあ、楽しませてもらうぞ」
 さらに麻縄を巻ながら洋治が言った。
 「いやだ。こんなの」
 「絵理子の代わりをすると言っただろうが」
 「こんなことするなんて思わなかったんだ! 止めてくれ!!」
 「女は女らしい言葉を使え!」
 頬がバシリと叩かれた。
 「マゾの喜びを教えてやる」
 縄がさらに強く締められ、壮一は喘ぐ。
 「そうだ。その表情がいい。それこそわたしの望んでいるものだ」
 洋治は大きな注射器を取りだした。誰が見ても浣腸用だとわかる代物だ。
 「イヤだ! そんなこと、止めてくれ!!」
 「女は女らしい言葉を使えと言ってるだろう!!」
 尻を思い切り蹴られ壮一は痛みに喚いた。洋治はわざとらしく壮一の目の前で注射器に濁った液体を詰めていった。
 「止めて、お願い、止めて」
 女声で訴えても洋治は止めるはずがない。
 「イヤだ。イヤだ。イヤだあああああ」
 再び男の声に戻って壮一は叫び続けた。
 「いい加減にしろ。あんまりうるさいとギャグボールを噛ませるぞ」
 それでも壮一はイヤだイヤだと叫び続ける。いやがる女の声は心地よいが、男の叫び声など聞きたくないと、洋治は壮一にギャグボールを噛ませた。
 「おう、ここでは掃除が大変だな」
 洋治はフガフガ言っている壮一を軽々と抱えて、バスルームのタイルの上に転がした。
 「さて、絵理子。腹の中を綺麗にしてやるからな」
 洋治は浣腸液を何度か注入し、漏れないようにアナルプラグ差し込んだ。しばらくすると壮一が腹の痛みにのたうち回り始めた。
 壮一は腹が張り裂けそうな激痛に気が狂いそうだった。排出してしまえば、楽になることはわかっていた。だから早く出してしまいたかった。他人に裸身を晒すことは恥ずかしいとは思わなかったけれど、排便するところなど見せたくはなかった。トイレに行かせてくれと言う言葉もギャグボールのせいで言葉が言葉にならず、壮一はただ耐えるしかなかった。
 あまりの苦痛に失神しそうになったとき、肛門に差し込まれていたものがすっと抜き取られた。ああ、これで楽になると思ったけれど、洋治がそばにいて見ていることを思い出して出さないように耐えようとした。その努力も長くは続かなかった。ちょっと力を緩めた瞬間に肛門から液体と固体がほとばしり出るのを感じた。出始めると、歯止めがきかなかった。あとからあとから排出されていった。
 すぐそばで洋治がバスルームの入り口に立って含み笑いをしているのが聞こえた。それ以上の恥ずかしさはないと壮一は死にたい気分だった。涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
 「さあ、もう一度だ」
 壮一が排出した汚物を洗い流すと、洋治は再び浣腸器を手にした。もう止めてくれと叫んだが、声にならなかった。もう一度浣腸液を注入され排出した。三度目は、もうどうにでもなれという感じで、壮一は洋治のなすがままにされていた。
 「綺麗になったな。さて・・・・」
 壮一は洋治がアナルファックをしてくるものと思っていた。しかし、違った。洋治はリビングへ戻り、ふたつの器具を持ってきた。
 「どちらがいいかな?」
 洋治は壮一の目の前に器具を差し出した。アナルビーズとディルドーだった。
 「絵理子の代わりと勤めるつもりだったからには、アナルファックも織り込み済みだろう? しかしまあ、こちらからやってやろう」
 洋治はアナルビーズを壮一のアヌスに挿入して動かす。浣腸は苦痛からの解放という意味での快感があった。しかし、アナルビーズは直接的に性感を刺激する。鼓動は高まり、ペニスから先走り汁が出始めた。
 「気持ちがいいか? そうだろうな。絵理子は前と後ろで両方をくわえ込んだんだが、おまえには無理だな。じゃあ、こちらに取り替えよう」
 アナルビーズが抜かれ、代わりに太いディルドーが挿入された。何度か出し入れして壮一が腰を浮かせる場所を確かめるとその位置で動かないように紐で固定してスイッチを入れた。電動のディルドーが壮一の中でくねくねと動き始めた。
 ディルドーのカリの部分が壮一の前立腺を刺激していた。ペニスの先端から透明な液体が溢れるように出てきて、壮一の陰毛を濡らした。
 「くっ、くっ、くっ」
 洋治の笑い声が聞こえてきた。ディルドーは動き続け、壮一は上り詰めた。縛られている縄が切れんばかりに体を震わせる。壮一のペニスは勢いよく射精を始めた。
 「おうおう、若いな」
 アナルファックの場合、相手が終われば次第に冷めてくる。しかし、今の相手は電動のディルドーだ。壮一が行ったあとも動きは止まらない。壮一を刺激し続けた。それ以上続けたら死んでしまうと壮一は快感の渦の中で思った。
 気を失いかけたとき、ディルドーの動きが止まり、引き抜かれていった。止めて欲しいと思っていたのに、引き抜かれたとたん、止めないでと心の中で叫んでいた。そうしてから急に睡魔に襲われ意識を失った。
 ばしばしと頬を叩かれて壮一は目を覚ました。
 「どうだ? 満足したか?」
 ぼんやりとしながら壮一はうんと頷いた。
 「そうか。わたしも満足したぞ。ご褒美をあげよう」
 洋治が壮一のペニスを手に取った。ペニスの付け根に痛みが走った。縄が解かれ、拘束具が外されてギャグボールを取り去られた。痛むペニスを手に取ってみると、ペニスの付け根の包皮に銀色の輪がぶら下がっていた。それはピアスだった。
 「変態!」
 「変態? おまえに言われたくないな。男のペニスで満足させて貰うくせに」
 洋治は壮一の髪の毛をむんずと掴み睨み付けた。
 「いいか、壮一。おまえがどんなつもりで自分の犯罪をわたしに打ち明けたかは知らないが、失敗だったな。おまえの命運はわたしが握っているんだ。今日からおまえはわたしの奴隷だ。逆らったり逃げ出したりしたかどうなるかわかっているだろうな?」
 恐怖のあまり、壮一はうんうんと頷くしかなかった。壮一は後悔していた。洋治に男色の気があって、それに乗じて陰に隠れようとしたことが裏目に出たのだ。洋治にこんな性癖があろうとは思っても見なかったのだ。しかし、もう手遅れだ。

 翌日、洋治は麻縄と新たな首枷、手枷、足枷などを持ち込んできた。しかも緊縛の教本を持ってきたのだ。
 その教本を見ながら壮一を拘束した。拘束した上で、洋治はデジタルカメラで壮一の縛られた身体をいろいろな角度から撮りまくった。さらにアナルビーズやアナルプラグ、ディルドーなどを挿入したままフラッシュをたき続けた。
 「我ながらうまく縛れた」
 デジタルカメラの画面を見ながら、洋治はひとり悦に入っていた。

 それから毎日のように、縛られた上に浣腸され、性具で弄ばれた。そうして壮一のペニスの付け根には、ピアスが10個ほどぶら下がった。
 しかし洋治は壮一とファックしようとしなかった。股間は膨らんでいるのに、あの日以来、壮一には決して手を出さないのだ。。
 「ねえ、そんな作り物じゃなくて、あなたのが欲しい」
 ある日、壮一はそう言ってみた。すると、洋治は怒り狂ったように壮一を鞭で叩いた。
 「あなたのそれが欲しい。わたしの中に突っ込んでよ」
 「やかましい!!」
 壮一には洋治の反応がよくわからなかった。

 壮一は、夜は洋治の奴隷だが、昼間はそれなりの金銭を与えられ比較的自由に暮らしていた。夜の部分さえ何とかなれば、思った通りの人生になるのだがと壮一は再び洋治から自由になる計画を立て始めていた。
 絵理子と壮一は身長がほぼ同じで年齢差がふたつだったから、体型の問題を除けば入れ替わりは可能だった。だからこうして入れ替わってしまっている。しかし、洋治との入れ替わりはとても無理だ。洋治は、天を突くという表現が当てはまるくらい大柄で筋肉質だった。しかも年令が20以上も違うのだ。
 壮一が別の人間になることは可能だ。しかし、田倉物産のそばからは離れたくなかった。父が興した会社を、完全に洋治のものにしてしまいたくなかったからだ。
 となると、手はひとつ。洋治を何とかして抹殺することだ。三木と大塚恵を殺す時に使ったインシュリンはまだ手元に隠してあった。インシュリンを打っただけではすぐには死なない。意識を失い、放置すれば死に至る。三木と恵の乗った車が事故を起こした時点では、ふたりはまだ死んでいたわけではなかった。だから、検死では事故で死んだと判定されたのだ。
 洋治が油断した隙にインシュリンを打って意識をなくした上で、そのまま放置するか事故を装うかすれば、痕跡を残すことなく洋治をこの世から消すことができるだろう。
 しかしと壮一は考える。体格だけでも壮一は洋治に敵わないのに、女性ホルモンを打ち始めていて壮一の筋力は極端に落ちていた。だから、まともな手段では洋治にインシュリンを打つことはできなかった。
 洋治が壮一を相手にセックスをしてくれれば、疲れて眠り込んだ隙に打つこともできよう。しかし、洋治は決して壮一を相手にすることはなく、マンションに泊まっていくこともなかったから、どうしようもなかった。



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