第9話 そして男はいなくなった

 ママは、あまりのショックで、仕事も辞めてしまった。ママの計画が上手くいかなかったのは、自然の摂理に反するからだと思う。男が女性化し、子供が出来なくなるのは、人類の定められた運命なのだ。誰もそれを変えられない。
 小さな地球の上に、我が物顔で君臨し、他の生物を蹂躙した人類に、未来があるはずがない。今や、地球の総人口は10億を切り、毎年5パーセントずつ減っている。人類は、滅びる運命にある。
 これは神の意志なのだ。人類は、犯した罪を償わなければならない。

 「アヤ、ただいま」
 「マヤ! ママのことをアヤって呼ぶんじゃないわ。ママって呼びなさい」
 「でも、アヤはアヤでしょう?」
 「いいから、ママって呼ぶのよ」
 「はあい」
 明との子、マヤも21歳になった。もうそろそろ結婚させたいと思っているけど、本人にはそのつもりがないようだ。

 普段着に着替えたマヤが居間にやってきた。わたしに似て、美人になったなと思う。
 「ママ、話しがあるんだけど・・・・」
 「何? どんな話し?」
 「わたし、付き合っている子がいるんだ」
 「まあ、どこの誰?」
 「120番街の伊藤チェリーって子なの」
 「120番街の伊藤さん!! お父さんの名前は?」
 「確か、サリーとか言ってたわ」
 やっぱりそうだ。伊藤サリー。わたしの初めての男だ。一晩だけ付き合っただけの男。その男の子供と、マヤが付き合っているなんて・・・・。
 「その子はダメ。絶対ダメよ」
 「どうしてよ」
 「どうしてもダメなの」
 「好きなのに・・・・」
 「ダメだと言ったら、絶対ダメよ」
 わたしは、伊藤サリーと顔を合わせたくなかった。あの時、彼を侮辱したことが、今でも心の傷になっていたからだ。
 「でも、別れられないの」
 「どういうこと? まさか、あなた、妊娠したなんてことじゃあ」
 「わたし、妊娠してないわ」
 「じゃあ、どうして、別れられないの?」
 「チェリーが妊娠したの」
 「えっ!?」
 わたしは、マヤが何を言っているのか、分からなかった。チェリーが妊娠したと言うことは、チェリーは女の子だと言うことだ。マヤは女の子だから、妊娠させられない。まさか、マヤの体細胞を使って、人工授精したというのだろうか? いや、そんなことは、今はやられていない。合法的には・・・・。
 「まさかあなた、あなたの体細胞を使ったんじゃあ・・・・」
 「違うの。違うのよ・・・・」
 「じゃあ、そのチェリーさんを妊娠させたのは、他の男でしょう?」
 「チェリーは、他の男と寝るような人じゃないわ」
 「じゃあ、妊娠するわけがないでしょう? あなたは女なんだから」
 「ママ、わたし、ほんとに女なの?」
 「えっ!?」
 マヤの目は、真剣だ。冗談を言っているような目じゃない。
 「・・・・あなた、膣がちゃんとあるじゃないの」
 「膣はあるわ。でも、わたし、普通の女と違うの」
 「どこが、どう違うのよ」
 「わたしを見てみれば、分かるわ」
 マヤは、服を脱いで、裸になった。そして、わたしの目の前に仰向けになり、陰部を曝した。
 マヤには、膣がある。それは間違いない。しかし、クリトリスが、大きいのだ。明ほどもあるのだ。
 「マヤ! いつから、そんなに大きくなったの?」
 「いつもじゃないの」
 「ええっ!?」
 「先月は、5センチくらいしかなくて、普通の女の子だったのに、今月は、こんな風に10センチもあるの」
 「大きくなってしまったってことでしょう?」
 「・・・・先々月は、10センチあったの」
 「ええっ!? 何ですって!」
 「ママには、黙っていたけど、12の時から、ずっとそうなの」
 「ずっと、そうって?」
 「ひと月ごとに、大きくなったり、小さくなったりするの」
 「信じられないわ」
 「来月になったら、5センチになるわ。そうしたら、信じて貰える?」
 マヤの言うことは、本当らしい。
 「それが本当だったら、どうしたのよ」
 「わたしね。2年前、チェリーと仲良くなって、今年の初めに、チェリーと寝たの」
 「同性愛ってことね。まあ、いいわ。別に特別なことじゃないから・・・・」
 そう言ったが、わたしは、動揺していた。できれば、男の子と付き合わせたかったからだ。
 「わたしね。どちらかというと、受け身でしょう? チェリーは、わたしと正反対なのね」
 「ふんふん」
 「わたしは、いつもは彼女のクリトリスを入れて貰う方なんだけど、わたしのクリトリスが大きくなるときには、彼女に入れたくて、入れたくて堪らないの」
 「彼女に入れたのね」
 「先々月、大きくなったときに、チェリーに頼んで入れさせて貰ったの。そしたら・・・・」
 「どうなったの?」
 「分からない。分からないけど、クリトリスが、急にがちがちになって、ものすごい快感と一緒に、わたしの中から、何かが出たみたいなの」
 「何かが出たですって!?」
 「そうなの。間違いないわ」
 マヤが、射精したと言うことなのだろうか? 膣のある、女のマヤが・・・・。
 「あなたが、チェリーを妊娠させたってこと?」
 「それしかないの。何度も言うけど、チェリーは嘘をつくような人じゃない。わたしがチェリーを妊娠させたのよ」
 「マヤ! カプセルに入りなさい。あなたの体を調べてみましょう」
 わたしは、マヤをカプセルの中に入れ、オプションの、骨盤、性器を選んだ。何分経っても結果が出なかった。10数分後、結果が出た。その結果に、わたしは信じられなかった。
 「女性内性器は正常。ただし、クリトリスは異常。男性のペニスに類似。先端に開口部があり、それから連なる管状構造物が骨盤内に連絡し、卵巣に連結している。卵巣の形態に異常あり。両性具有の可能性あり」
 両性具有の可能性!? マヤが、女でもあり、男でもあるって!!!

 わたしは、ママに電話した。
 「ママ、大変なことが起こったの」
 「どうしたのよ。大変な事って?」
 「マヤが、女の子を妊娠させたのよ」
 ママは呆れたような顔をした。
 「アヤ。あなたの冗談に付き合ってる暇はないわ。忙しいから切るわよ」
 「待ってよ、ママ。ほんとなんだってば」
 「女のマヤにそんなことができるわけがないでしょう? 女の子を妊娠させるなんて」
 「それが嘘じゃないんだってば」
 「馬鹿言わないでよ、アヤ。マヤが生まれたとき、ちゃんと調べたんだから」
 「それが違うの。カプセルのデータを送るわ。そしたら、信じて貰えるわ」
 マヤが両性具有の可能性ありというデータのママに送られた。ママの顔色が見る見るうちに変わった。
 「す、すぐにそちらへ行くわ」
 何分もしないうちに、ママはわたしのマンションに飛んできた。
 「・・・・信じられない。アヤ、マヤをよく調べなおしてみるわ。医療センターに連れていきましょう」
 「そうしてください」

 医療センターでの、精密検査も、同様の結果だった。マヤは、両性具有者の可能性が高まった。
 ママは、里見明の子供を、全部調べ始めた。その結果、全員が、マヤと同じ両性具有者らしいと判明した。ただ、半数が、マヤのようにクリトリスが肥大していたが、半数は、通常の大きさだった。
 ところが、よくよく調べてみると、全員のクリトリスが、ほぼ一ヶ月おきに大きくなったり、小さくなったりすることが分かった。性周期が、ずれているのだ。
 その後の観察で、性周期のずれはあるものの、里見明を父親として産まれた女の子は、全員が、一ヶ月間は、女として機能し、妊娠しないで、生理になると、今度は、男として機能することが分かった。両性具有と言っても、同時期に女と男であるのではなく、一ヶ月おきに、男女が入れ替わるのだった。
 「ペニスの大きな男の子が、できるにはできたけど・・・・」
 ママは、溜息をついた。

 7ヶ月後、マヤと結婚したチェリーは、マヤの子供を産んだ。可愛い女の子だった。女の子しか産まれないはずなのだ。マヤの染色体は、女だからXXだ。チェリーは、当然XXだから、組み合わせは、XXしかない。つまり、女の子しか産まれないのだ。
 チェリーが産んだ子どもは、女の子だが、調べてみるとマヤと同じ両性具有者だった。成長したら、男と女を交互に演じることになる。

 一ヶ月ごとだが、大きなペニスを持つ男として機能する里見明の子供は、女の子と性交渉を持ち、次々に子供を誕生させた。産まれた子供はすべて女で、マヤと同じ両性具有者だった。
 性周期が同じ両性具有者同士で結婚したとしても、しばらく一緒に暮らしていると、性周期がずれてきて、どちらかが妊娠した。
 自分の手で子どもを産みたいという欲求が生まれ、子どもの数は飛躍的に増加していった。
 ペニスの小さな男たちは、結婚することがまれになり、結婚してもなかなかその子供が出来ないから、通常の男の子の誕生は激減した。

 アヤが、マヤを産んでから100年後の27世紀になって、地上には、いわゆる男はいなくなってしまった。
 地上は、女だけの楽園になった。

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