第3話 同性でも愛情さえあればいいのだ

 ぼくは、標準教育を卒業してから、国立医療センターに勤めている。昔は、医者と看護婦という区別があったそうだが、今ではその垣根はない。
 医療用の機械が、この数世紀の間に格段に進歩し、病気の診断や治療にプロと言われる医者がいらなくなったせいだ。むしろ、昔の看護婦の仕事の方が、今の医療の重要な部分を占めている。
 健康診断に訪れる人はいない。みんな精密検査か、治療のために、センターを訪れる。1世紀前ほどから、各家庭には、医療用のスキャナーが取り付けられたカプセルが置かれているからだ。
 月に一度、このカプセルの中に入ると、体全体をスキャンして、異常を見つけてくれる仕組みになっているのだ。
 その昔、人類の寿命を縮めた癌は、今では1ミリ以下で見つけられるから、完全に治癒させることができる。まあ、時には、カプセルに長年入っていない人が、かなり進行した状態で運び込まれてくることもあるのだけど・・・・。それでも、癌で命を落とすことなど、滅多にない。
 感染症も、ひどくならないうちに見つかるから、簡単に治るようになっている。しかし、やっぱり感染症が、人類最後の敵であることは間違いない。

 ぼくは、病院に来る人たちに会って、家庭用医療スキャナーのデータを見せて貰い、もう一度医療センターの機械で再検査したあと、治療すべき病気が見つかると、治療してあげるのだ。
 ぼくは、就職してからまだ4ヶ月だが、癌の手術患者さんを10人持った。手術と言っても、麻酔も手術も機械がやってくれるから、ぼくは機械がきちんと動いているかどうか、監視するだけでいい。機械のトラブルは、ここ50年間、全くないという話しだ。
 ぼくの仕事は、患者さんと話しをして、安心させるのが主な仕事だ。仕事は、一日8時間労働で、月、水、金の三日間。あとは休みだ。機械のやる手術は、体に負担にならないようになっているから、すぐに退院できる。月曜日に手術して、水曜日に病院に出て行くと、もう退院してしまって、二度と顔を合わせないことも、ままあるのだ。

 休みの日には、読書をしたり、音楽を聞いて過ごすことが多い。ぼくは、歴史の勉強が好きだから、毎週木曜日には、データベースを探って遊んでいる。
 火曜日は、料理教室に通っている。料理も楽しくて、大好きだ。

 この料理教室で、サリーと言うふたつ年上の人と仲良くなった。サリーは農業関係の仕事をしていると聞いた。野菜専門の生産工場で、一日機械を眺めている退屈な仕事だと言っていた。休みは、ぼくと同じだ。
 サリーは、女言葉を使っているけど、男だろうと思った。サリーは、ぼくのことを女だと思っているようだ。仲良くはなったけど、そんなに深い仲じゃないから、ぼくは、敢えて男だとは打ち明けてはいない。
 ぼくは、サリーの前では、女のように振る舞っている。そんなぼくを見るサリーの反応が面白いからだ。

 3ヶ月ほど前、サリーにデートを申し込まれた。ちょっと迷ったけど、オーケーした。デートの帰り道、サリーは、恐る恐るぼくにキスしてきた。ぼくが男か女か迷っている様子だった。
 その頃のぼくは、サリーが好きになっていたから、もう騙すのは止めようと思って、ぼくは男だと打ち明けた。
 サリーは、かなりガッカリしていたようだけど、友達として付き合おうと言ったら、すぐに頷いてくれた。
 友達として付き合おうと、ぼくの方から言ったのに、ぼくはサリーのことが本気で好きになってしまった。それ以来ぼくは、サリーを挑発するような格好で、料理学校へ出掛けるようになった。
 先月、紫色のブラに、薄紫のタイトミニスカートを穿いていったら、サリーは興奮していたようだ。サリーのペニスが勃起したのを、ぼくは見逃さなかった。
 今は、同性でも結婚できる。ぼくは、サリーさえ良ければ、サリーと結婚するつもりでいる。

 サリーが、新入生の桜木アヤに一目惚れしたときには、嫉妬で狂いそうになった。だけど、ぼくは平静を保った。
 桜木アヤは、サリーが言うように、女だと思った。しかも、危険な女だと。
 その予想は当たった。
 アヤとのデートの約束を取り付けたサリーは舞い上がっていて、ぼくの忠告など聞こうともしなかった。アヤは、同性愛者で、男とのセックスを経験してみたかっただけなのだ。女同士のセックスを知った女を、男は満足させられるはずがないのだ。
 ぼくの胸に顔を埋めてなくサリーを、ぼくは愛おしく思った。何とかして慰めてあげないといけないと。

 サリーは、二週続けて、料理学校を休んだ。自殺でもしないかと心配したけど、それはなかった。
 久しぶりに現れたサリーは、痩せてしまって、見る影もなかった。
 「サリー、大丈夫?」
 「もう大丈夫よ。心の整理が付いたから」
 桜木アヤは、あの後、この料理学校には来ていなかった。相手をしてくれる男を見つけるだけだったに違いない。サリーは、その餌食になったのだ。
 「サリー、明後日、君のうちに遊びに行ってもいいかなあ?」
 これまで、そんなことをしたことはなかったけど、思い切ってそう頼んでみた。サリーは、ぼくを見ると、嬉しそうに答えた。
 「勿論、いいわよ。あなたが来てくれるなんて、凄く嬉しいわ」
 「じゃあ、10時に」
 「お昼も用意して置くわ」
 「一緒に作ろうよ。ここで習ったことを実践して見るんだ」
 「そうね。じゃあ、材料だけ用意して置くわ」
 料理学校を出るとき、サリーは少し元気を取り戻したように見えた。ぼくは、ほっとした。

 二日後の木曜日、ぼくはバラの花束を持って、サリーの家を訪ねた。
 「ごめんください。稲光です」
 「あら、いらっしゃい。サリーが待ってるわ」
 サリーにそっくりな母親が、笑顔でぼくを出迎えてくれた。
 「あの、これ部屋に飾ってください」
 「まあ、綺麗なバラね。ありがとう。すぐに飾るわ」
 サリーの部屋に入っていくと、サリーは黒のブラに、見たことのないパンツを穿いて、ぼくを待っていた。
 「サリー、約束通り来たよ」
 「待ってたわ。ママがお茶を入れてくれているから、ゆっくりして」
 「うん。サリー、そのパンツ、初めて見るけど、いつの時代のもの?」
 「ああ、これ。これは、ジーンズって言って、20世紀の野良着ね」
 「野良着?」
 「ええ、そうよ。初めは野良着だったけど、その後は、普段着としても着られていたみたいよ」
 「へえ、ちょっとごわごわした感じだね」
 ぼくは、サリーの着ている、ジーンズというパンツを触ってみた。
 「穿いてみる?」
 「いいのかい?」
 「いいわよ」
 サリーは、ぼくの前でジーンズを脱ぎ始めた。サリーは下着だけになって、ぼくにジーンズを手渡した。サリーのそんな姿を見たことがなかったので、ぼくはちょっとどぎまぎした。
 「ルナ、男のこんな姿が気になるの?」
 「そ、そんなことはないよ」
 「ルナって、ほんとに女の子みたいなんだから・・・・」
 ぼくの顔は赤くなっていたに違いない。ぼくは、男だけど、男のサリーが好きだ。ぼくは、勃起したペニスを見られないように、スカートを脱いで、ジーンズを穿いてみた。
 「随分重いんだね」
 「その重さが何とも言えないのよね」
 「そうか、そういうことか。でも、結構いいね」
 「そうでしょう?」
 「どこで手に入れたの?」
 「えっとねえ」
 サリーは、ぼくに通販のアドレスを教えてくれた。教えて貰ったけど、ぼくは注文する気はなかった。ぼくは、スカートの方が好きだから。それに、サリーに、好きになって貰うためには、スカートの方がいいと思っているからだ。
 「あら、ルナさん、似合うじゃないの」
 サリーの母親が、お茶の入ったトレーを持って部屋に入ってきた。
 「そうですか?」
 「ルナさん、サリーよりふたつ下だって言ってたわね」
 「はい。秋に18になります」
 「そう。あなた男の子よね。わたしの勘が正しければ・・・・」
 「よく分かりましたね。初対面の人に、男だって言われたことないんだけど・・・・。もしかして、サリーに聞いたんじゃないですか?」
 「違うわよ。サリーには聞いてない。ねえ、サリー」
 「ええ、ママには、ルナのことは、料理学校の仲良しだとしか言ってないわ」
 「じゃあ、どうして分かったんですか?」
 「わたしは勘がいいの。今まで間違えたのは、パパだけよ」
 「えっ!? パパのこと、間違えたの?」
 サリーが、驚いた顔をして母親の顔を見た。
 「そうなの。標準教育の時に、一緒になったんだけど、3年間、ずっと女だと思っていたわ」
 「長く付き合っていたら、分かるのにね」
 「それが分からなかったのよ。あら、お茶が冷えてしまうわ。さあ、飲んで」
 「頂きます」
 サリーの母親が部屋を出ていくと、ぼくはジーンズを脱いでサリーに戻し、着てきたスカートを穿いた。スカートの方がやっぱりいい。
 サリーの母親の入れてくれたハーブティーは美味しかった。

 しばらく、サリーをお喋りをしてから、ぼくたちはキッチンに行き、ふたり列んで料理を作った。
 エビチリに、甘鯛の香味野菜添え、それにイチゴケーキを作った。3時間も掛かってしまって、作り終えたときには、ふたりともぐったりしてしまった。
 「まあ、上手くできたじゃないの」
 「味には自信ないけど・・・・」
 「パパも帰ってきているから、一緒にいいかしら?」
 そんな母親の質問に、サリーは直接答えず、ぼくに尋ねた。
 「ルナ、パパにも食べて貰っていいかな?」
 たくさん作りすぎたから、手伝って貰わないと、捨てることになりそうだ。
 「二度と作るなって言われるかも知れないな」
 「検定試験を受けるみたいね」
 ぼくとサリーは、テーブルにできた料理を並べた。しばらくして、サリーの父親が、姿を現した。
 「ルナさん、いらっしゃい。サリーの父です」
 サリーの父親は、ラフなシャツとパンツを着ていた。こうして見ると、サリーは母親似だなと思った。
 「サリーが、女の子をうちに連れて来たのは、初めてよね」
 ぼくは、思わず舌を出した。それをサリーの父親に見られた。
 「あれ!? ルナさんは、女の子じゃないの?」
 「いつもそう言われるけど、違うんです」
 「へえ、絶対女の子だと思ったのに・・・・」
 サリーの父親は、ぼくをまじまじと眺めている。ぼくは恥ずかしくて仕方がなかった。
 「まあ、サリーが女の子を連れてくるなんてことはないわね」
 「あっ! 馬鹿にしてるう」
 サリーは口を尖らせている。そんなサリーは可愛い。サリーは、ぼくより年上なのに、そう思った。
 にわか食事会は、楽しかった。ぼくたちの作った料理を、サリーの両親は美味しい、美味しいと言って、全部平らげてくれた。ぼくは、サリーの両親と知り合いになれて嬉しかった。サリーは、すっかり元気を取り戻したようだ。

 「ルナさん、ありがとう。あなたのお蔭で、サリー、元気になったわ。また、遊びに来てね」
 サリーの母親は、そう言って、ぼくを見送ってくれた。

 それからというもの、ぼくたちは、料理学校が終わると、いつも一緒にお茶を飲み、月に一度は互いの家を訪れた。
 ぼくたちは、まるで恋人同士のようだった。サリーは、ぼくのことをどう思っているかは知らないけれど、ぼくは、サリーに恋いこがれていた。サリーと結婚したいという気持ちが、どんどん膨らんでいった。

 3ヶ月ほどして、ぼくはサリーを自宅に招いた。
 「あれ? ご両親は?」
 「今日は、結婚記念日だって。ふたりで出掛けたんだ」
 「そうなの。結婚記念日なの。何年目になるの?」
 「20年目だって、言ってたなあ」
 「今どき、20年も一緒にいる夫婦なんて、そんなにいないでしょう?」
 「貴重だと思うよ。みんな10年も一緒にいないからね。でも、サリーの所もかなり長いんだろう?」
 「長いのは長いけど・・・・」
 サリーの顔が少し曇った。
 「うちは再婚なの。ちょうど10年目かな?」
 「えっ!? 再婚? でも、この前、標準教育で一緒だったと言ってたじゃないか」
 「昔は同級だったのね。ママは19でわたしを産んだあと、すぐに離婚したのよ。そのあと、ずっとひとりでわたしを育てていたんだけど、今のパパが、ママのことを忘れられないからって、求婚してきて、10年前に結婚したのよ」
 「ああ、それだから、サリーはお父さんと似てないんだ」
 「そう言うこと。でも、パパはわたしのことを愛してくれているわ」
 「大好きな人の子どもだもんね」
 サリーは肩をすくめた。
 「こんな話し、止めましょう」
 「そうだね」

 それからふたりで、昼食を作って食べ、午後はぼくの大好きな歴史のデータベースを見ながらお喋りをして過ごした。3時のおやつには、前日から作っておいたチェリーパイを一緒に食べた。
 「これ、凄く、美味しい!」
 「サリーのために作ったんだ。きっと、気に入って貰えると思った」
 「ほっぺたが落ちそうよ」
 「そのほっぺに、チェリーが付いてるよ」
 ぼくはそう言って、サリーの頬に顔を寄せると、サリーの頬に付いたチェリーを舌で嘗めた。ビックリするサリーに、ぼくはそのままキスをした。
 「好きだよ、サリー」
 「わたしたち、男同士なのよ」
 「男同士じゃいけない? ぼくのこと、嫌いなの?」
 「ルナのことは好きだけど・・・・」
 「男同士だって、結婚できるんだよ。ふたりに愛があるのなら・・・・」
 サリーは、答える代わりにぼくの胸に手をかけ、唇を強く重ねてきた。チェリーの甘い味がした。

 とろけるようなキスのあと、ぼくはサリーをベッドルームへ引っ張っていった。
 「どうすれば・・・・」
 「サリー。思い出したくないだろうけど、アヤにしたのと同じようにしてくれればいいと思うよ」
 「分かったわ」
 ぼくは、古典的な女の役割を勤めるつもりだ。つまり、受動的な女を演じるのだ。現在、そんな女は少ない。ことセックスに関しては、女の方が積極的だ。女が男をリードすることの方が多い。だけど、お茶の前に見た歴史では、男の方がリードしていた。サリーもぼくも、それにならってやり始めたのだ。
 ぼくはサリーに服を脱がせて貰い、ベッドの上に仰向けになった。サリーは、自分で服を脱いで、ぼくの上になった。
 サリーは、一生懸命ぼくに愛撫を加えた。ぼくは、大好きなサリーにそうされていることが嬉しくて、もの凄く感じていた。
 サリーの舌が、ぼくの股間に降りてきて、フェラチオを始めた。男には、男の感じる場所が分かっているから、堪らなくいい。ぼくは、我慢できなくなった。
 「サリー、出ちゃいそうだよ」
 「出してもいいわ。飲んであげる」
 その言葉を聞き終わらないうちに、ぼくはサリーの口の中に射精してしまった。サリーが、ぼくの精液をごくりと飲み込み、さらにペニスを舐めまわした。その時、サリーは、素っ頓狂な声を上げた。
 「ルナ! こ、これは・・・・」
 「サリー、君のために、そうしたんだよ」

 ぼくは、一ヶ月前、親に内緒で造腟術を受けていた。造腟術と言ったって、そんなに大仰なものではない。
 昔は、女性化を促すためもあって、睾丸を取ったらしいけど、今は睾丸を取るメリットがないから、取る必要がない。小さいから、取らなくても邪魔にはならないし・・・・。
 男のペニスと、女のクリトリスの大きさに差がないから、ペニスを切り取るようなこともない。
 要するに、膣だけ作ればいいのだ。それも、簡単だ。男のペニスが小さいから、そんなに大手術しなくていいのだ。肛門とペニスの付け根の間に、深さ5センチ、直径2センチの穴を開ければ、ことは済む。下腹部や、脇腹の弛んだ皮膚を切り取って、膣の内面を作るだけなのだ。
 ぼくの場合、二泊三日の入院ですんだ。大抵がそうらしい。膣拡張はやっている。やらないと、あっという間に、人造腟がなくなってしまうからだ。
 この造腟術、受ける男が結構多いと聞いた。相手が女でも、クリトリスと人造腟で、セックスがやれるからだ。
 ぼくのように、男のために造腟術を受けるものも後を絶たないとも言っていた。そのための手術機械は、フル回転なのだそうだ。もし相手と別れたら、放置すればなくなってしまうし、生殖能力は残されているから、何の支障もないのだ。

 サリーは恐る恐るぼくの中に入れた。
 「痛くないの?」
 「大丈夫だよ。うんと激しくやっても」
 ほんとは、痛かったのだけど、サリーを喜ばせるためにそう答えた。サリーは、安心したように、腰を動かし、ぼくの中に射精した。痛かったけど、気持ちよかった。何とも言えない快感がした。

 サリーとぼくとの関係がいつまで続くか分からないけど、ぼくは死ぬまでサリーを愛するつもりだ。パパとママのように。
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